見出し画像

市川フーという存在。そして、大引用時代。(横丁オンリーユーシアター2022「かもしあう」)

※この記事は、エンニュイのドラマトゥルクを担当している青木省二氏が寄稿してくれました。

「かもしあう」のドキュメンタリー的な滞在制作の記録映像をエンニュイYouTubeで公開中です↓

(今後、本番の映像と本番のダイジェスト映像もアップ予定です。気になる方は是非チャンネル登録お願いします!)




観客の皆様は酒蔵に着く、と御多分に洩れず、入口で待たされる。定刻になってようやく、酒蔵の責任者、みたいな風態の男が現れ、パフォーマンスが行われる部屋まで誘なわれる。この段階で、この男を「パフォーマー」だと思った人は、なんとほとんどいなかった。言うまでもなく彼がフーだ。その名の通り、素性は不明。公演が終ってもなお「あの杜氏さん、すごいのねー、あんな頑張っちゃって」と言われていたほどで、つまり、あの体の大きなフーは、張り巡らされた網の目を恐るべき素朴さで通過する。

〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎

遂に、エンニュイが改組された。
これを読んでいる方の誰も「遂に」なんて思ってないでしょうし、そう書いてしまうのは自分が内部にいる人間だからなのだけれど、とは言え、ずっと個人ユニットではなく団体としての体裁が必要だと言われてたし、そもそも今般発表された新メンバーはずっと前から内定していて、うっかり「わたしら劇団員です」と名乗りそうになる(名乗ってもいいんだろうけど、名乗らないに越したことはない)シチュエーションなどまま見受けられる数ヶ月であった。

エンニュイの新メンバーからの意気込み↓

主宰の長谷川からの新しいエンニュイへの意気込み&このメンバーになった経緯↓

新生エンニュイはささやかなドリームチームだ。そりゃ例えば、役所広司、浅野忠信、白石加代子、志村喬、みたいなのが本当の意味でのドリームチームだろう。一般的には。ドリームチームには故人だって混ざる。ささやかなドリームチームは生きている人で、かつ周囲にいる人たちから選出されなければならない。
実際、僕はこのメンバーのみんなとチームになることを夢見ていた。綺麗事ではなく、主宰の長谷川とも「まあ無理そうだけど絶対に入ってほしいね」と言っていた人たちだったし、「結果的に」「幸いなことに」リストインしていたほとんど全員がメンバーになった。ご案内のとおり、劇団員になるということには独特のハードルがある。

いちばん最初に紹介するのは「市川フー」だが、なぜ最初なのかと言えば、まあフーさんが最初なら仕方ないか、という空気があるからだ。彼の持つ風通しのよさを象徴している様な感じだ。

新しく劇団を作ろう、となった時に市川フーを招集するのは、確かに定石にはない。定石にはないことの説明をする気も起きないほど、見てもらったら明らかなほどの、絶妙な定石になさ加減で、だってだいいち、子どもが二、三人はいそうな面持ちだし、売り出すにあたっても「どこが若手劇団やねん」感が出る。(別に出ても何の問題もないんだけど、やはり市川フーを入れて新興劇団をデザインするのはユニークな判断と見なされると思う。)

市川フーはアイスブレイカー(※1)だ。どんな冷え切った客席でも、と言うより冷え切った客席であるほど、力を発揮する。zzzpeaker、二田の様に、加速が掛かればかかるほど破格のドライブ感、ハットトリックを繰り出すストライカータイプというよりは、どんな状況にもフィットし、テンションも気味が悪いほどブレない、体を張ったディフェンダー、日本代表でいうとさしづめ都並(※2)だ。つまり、フーがいる限り、公演に悲劇(※2)はあり得ない。(ちなみに本当に関係ないけど、高畑はエンニュイの米津玄師と言われている。)

八戸の日の話に戻る。
横丁オンリーユーシアター2022(※3)のイベントの関係者が集まる大規模な打ち上げでも、フーは人気者だった。フーには、不思議に人を惹きつける愛嬌があるのだ。ある酒造会社の代表に、君が次代を継いでくれ、とジョークを言われていたくらいだ。フーが劇中で繰り出す「八鶴(※4)です!」のギャグは、会場でも大ブレイクし、みんながマネしていた。
ところで、マネする、される、というのは面白い現象だ。素朴で子どもっぽい行為だが、コミュニケーション的でもある。こういう「愚かしさ」に見える行為を嫌う人がいるのは解るし、僕だって疑いを全く持っていない訳ではない。

マネする、されるというのは普通に巨大な問題である。どんなジャンルにあっても創作の基本は引用にあり、どの程度の露骨さでそれを行うかは時代の趨勢などもあって、今はさしづめ「大引用時代」と言ったところだろう。近頃で言うと、「チェンソーマン」のあまりにもあからさまで膨大な引用について、ネット上でも議論が持ち上がっていた。そのひとつとしては、「チェンソーマンは先進的な表現であり、映画がその引用元としての養分でしかない現象を見逃せない」的なもので、その反論として「ストレンジャー・シングス」が挙げられていた、様な流れがあったと記憶している。なんにしても、90年代〜0年代ならこんな表明は暴露以外のなにものでもなく、タランティーノやオレンジレンジの様に吊し上げられる。民間伝承の中に「オリジナリティ」が生きていた短い季節があった。

継承し、評価を得る差異のゲームの中では「素朴さ」はいささか分が悪く、回避されてしまう。反知性的、反時代的、叛逆的であるとすら見られる。しかし、ここからしか新しい知性はあり得ないのではないか、という反駁もまた、呈されなければならない。過去は一本道でかつ空間的なものであるが、未来は正体不明の、原理的に観測が不能な混沌である。開かれた混沌の中に混沌を投げかけること。これは親が子どもを育てる時の勇気に似ている。 
つまり、引用することは子どもになること(トライブへの闖入、“努めて大人の様に” ふるまうこと)であり、親(引用元)になるには、敢えての幼児帰りが必要になる。人は誰しも子どもであることからは逃れられないが、親になる勇気、敢えてプリミティブにふるまう知性をどう作り出すか、を呈さなければならないのははっきりしている。引用の知性と、引用元になる勇気としての知性は全く異なる複雑さを持っている。

さて、話はそれたが、フーは一体誰なのか。
俳優の様で芸人の様で、パパみたいな赤ちゃんの様で、恐ろしい様で愛らしい様で、シリアスでコミックで、丈夫の様で繊細な様である。
ある種の素朴さによって、引用と差異のゲームでアガってしまいがちな内圧を下げたい気分があるエンニュイに、市川フーの素性不明が立つ(しかもフーは常に仁王立ちだ)ことは、その演劇空間にトレパネーション(※5)の穴を開け、その穴からは外に向かっての風が吹く。

新生エンニュイの旗上げ公演である「babbling」で、バブリングは「喃語」、子どもが言語を話す前に発する曖昧でとてつもない情報量を持つ音を意味する。ただの空気漏れの様な、なにか言わんとしている様な音。エンニュイが新しく出発するにあたって、全く新たな感触、そして嫌味なほどの幼児帰りを目指すことになる、かもしれない。「babbling」の公演の感想については、またべつで近々書くことにする。


とにかくエンニュイに、舞台芸術に、フーがいる。それで充分だ。きっとそれはとんでもないことだ。来て、観て、解ってくれれば幸いです。


※1:アイスブレイク。緊張した固い空気や心を氷にたとえてそれを壊し、溶かすこと。
※2:都並敏史。元サッカー日本代表。「狂気の左サイドバック」と呼ばれ、ドーハの悲劇は彼の欠場によるものと言われる。
※3:横丁オンリーユーシアター2022:青森県八戸市の中心街にて行われた「八戸横丁月間 酔っ払いに愛を 2022」内のダンスパフォーマンスのイベント。
※4:八鶴。八戸の地酒。「かもしあう」は「酵母」がモチーフとなっており、市川フーは作中の1セクションにおいて、八鶴になろうとする酵母そのものを演じた。
※5:トレパネーション。古代ギリシャから行われる頭蓋骨に穴を開ける民間療法の一種。現代医療では神秘主義と見なされている。日本のサブカルチャーにも多くモチーフとして使われ、山本英夫の『ホムンクルス』が特に有名。


青木省二


青木さん寄稿の過去の記事↓

八戸の公演のアナログTwitter↓



次回公演

2月23日に学下コーヒーという場所で、エンニュイのperformance liveがあります。縁あって9歳のすー子さんと演劇します。初の試みなので楽しみです。

エンニュイperformance
『きく』


2023年3月24日ー26日
三鷹SCOOL
〒181-0013
東京都三鷹市下連雀 3-33-6
三京ユニオンビル 5F
三鷹駅南口・中央通り直進3分、右手にある茶色いビル5階

【脚本・演出】
長谷川優貴

【出演】
市川フー、zzzpeaker、高畑陸、二田絢乃
以上エンニュイ

浦田かもめ、オツハタ、小林駿
(50音順)

【タイムテーブル】
2023年
3月24日(金) 19:00
3月25日(土) 13:00/18:00
3月26日(日) 13:00/17:00
※受付開始・開場は開演の30分前
※上演時間約80分(予定)

【スタッフ】
ドラマトゥルク:青木省二(エンニュイ)
制作・演出助手:土肥遼馬(エンニュイ/東京軟弱野菜)・四木ひかり
映像:高畑陸
主催・制作:エンニュイ

【チケット】
<券種・料金>
劇場観劇チケット(当日精算・日時指定・全席自由)(予約・当日 別価格)
・一般 前売り¥3300 当日 ¥3500
・U-25(要年齢確認証提示) ¥2800
・エンニュイはじめて割 ¥3000
※「エンニュイはじめて割」エンニュイの公演を初めてご覧になるお客様は前売り価格より300円引きでご覧いただけます。
※「エンニュイはじめて割」は当日券でのご利用はできません。

予約ページ
https://torioki.confetti-web.com/form/1947


【エンニュイとは?】
長谷川優貴(クレオパトラ/CHARA DE )主宰の演劇組合/演劇をする為に集まれる場所 。

名付け親は又吉直樹(ピース) 「『アンニュイ』と『エンジョイ』を足した造語であり、 物憂げな状態も含めて楽しむようなニュアンス」

2022年11月に新メンバーを加えて、組合として再スタート


「文字通り、誰かの話を「きく」ことを主題とする作品です。他者が話していること、そのイメージを聞き手が完璧に共有することはできない
人間は、自己が体験したことから想像することしかできない。誰かの話を聞いている最中、私たちの思考は徐々にズレていく。言葉から連想して脱線したり、集中力が切れて別のことを考えたりするそんな、「きく」感覚をそのまま体験するような上演にしました。
僕は母親が未婚の母で母子家庭でした。親戚もいなくて唯一の家族だった母が数年前に他界しました。その時に作った作品です。亡くなったばかりの時に心配してくれた方々と話をした時にズレを感じて、話を聴く時は経験などによって想像や処理のされ方が違うのだと体感しました。別々である人間に共感を期待してはいけない。共感よりも大切なものがあるということと、他人への想像力の大切さを伝えたいです」

あらすじ

「母親が癌になった」
一人の男の語りから話は始まる。

最近、言葉が溢れていて聞き取れない感覚に陥る。
「きく」ことによってその話を「背負う」。
聞いた話の足りない情報を想像で埋める。
「きく」ことの大部分は想像。
そんな「きく」ことを体験できる公演。


information

エンニュイwebサイト

エンニュイYouTube

サポートも募集しています


この記事を読んだり、公演を観たりした方でエンニュイを応援したいという方は、サポートしていただけたら有難いです。エンニュイの今後の活動資金にします。そのお気持ちで、どんどん面白い公演を作っていきます。記事の最後にあるサポートボタンからできますのでもしよろしければ、お願いいたします!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?