鼻声を心配して病院に行った結果、まさかの診断名に愕然
学生の頃、エクステンション講座として、ボイストレーニングの授業を受講していた。プロミュージシャンのバックコーラスをされている方が講師で、本格的に皆で発声練習をしたり歌ったりする。楽しい時間だ。
しかし私は人と比べ、自分の歌声が鼻声なのが不満だった。腹式呼吸で発声しても、なんとなく鼻にかかってしまう。
というか音声コンテンツを聞いてくださったことがある方は分かると思うが、普段から声を出す位置が高くて鼻にかかっている。こういう声だと、周りがガヤガヤしていると全く声が通らない。
そこで先生に相談すると、
「鼻炎か何かかもしれないから、一度耳鼻科に行った方がいいかもね」
と言われた。
なるほど、と思った私は休みの日に耳鼻科を訪れた。
ボイストレーニングの講師に受診を勧められた旨を伝える。
薄暗い診察室で、壮年の医師は「えっ、そんなことで来たの。真面目だねぇ」とコメントした。いいから早く見てくれ。私が適当にうなずいていると、医師は器具を準備しだした。
最終的に、医師は何かのクダのような器具を取り出した。私はギョッとした。
「えっ。それを入れるんですか?」
「そうですねえ」
「ど、どこから入れるんですか?」
「鼻だねえ」
「痛いんですか?」
私はちょっとのけ反って器具から距離を置いた。
医師はにこやかである。
「そんなに痛くないから大丈夫ですよ。ほら、クダが細いから」
器具を見せられる。確かに細い。太めのラーメンぐらいの細さしかない。
私は顎を引くようにして頷いた。
「お願いします」
医師は慣れた手つきで私の鼻に細いクダのような器具を差し込んだ。
冷たい。痛くはないがジンジンする。
ややあって、医師の右側にあるサイドモニターに、自分のノドの様子が映し出された。私にはピンク色をしていることしか分からない。というかどうやって息をすれば良いのか分からない。医師は「特になんともないですねえ」とコメントしているがそれどころじゃない。目に涙がにじんだ。
それから数秒経って、ズボッとクダを抜かれる。気持ち悪い……。
医師は器具を片付けながら、ハハと笑った。
「きれいなものでしたよ。何も心配ないですね」
「えっ、じゃ、じゃあ、私の鼻声は……?」
「普段のクセですねえ。ぶりっこしてるってことだね! ハハハ!」
ハハハじゃないし。
私はイラっとして押し黙った。
ウケが取れなかった医師もまた押し黙った。
とまあこんなわけで、私の鼻声は特に鼻炎などの器質的な問題によって生じているものではないということらしい。あんなに苦しい思いをして、検査費用も払ったあげく「ぶりっこ」とか言われて終わるなんて悲劇的である。
誓って言うが、別にわざと鼻声にしているわけではない。先生も言っていたが、声を出すときのクセなんだと思う。その後の研鑽の結果、どうしても大勢の前で注目を惹かないといけないときは、頑張れば通る声も出せるようになった。
なお、結果をボイトレの先生に伝えたところ、「そっかー。じゃあ腹式呼吸がんばろうね!」というコメントをいただいた。
これ、別に病院行かなくてもよかったやつじゃん。あーあ……。
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