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ブリーフはマーケティングの集大成【テンプレート付き】

前段

今年の8月に米国発の語学アプリ「Duolingo」にジョインして、約3ヶ月が経ちました。日本でのチームづくりもひと段落してきました。

「日本でワールドクラスのチームをつくる」が自分のミッションのひとつなのですが、実は正社員採用はおこなっていません。社員は僕ひとりです。
なので必然的に、代理店や業務委託の方々とチームをつくっています。

今回のパートナー選定では、すべてRFP(Request for Proposal:すごくざっくり言うと競合プレゼン)を実施しました。

たくさんの手順を踏んだので時間がかかってしまいましたが、ワールドクラスのチームをつくる上では必要なプロセスでした。どんなに小さな予算領域の案件でも、正しいパートナーさんとご一緒したかったためです。ここで拙速な意思決定をしてしまうと、その後のマラソンに支障をきたす恐れがありました。

RFPのように提案を依頼するときに使う資料を「オリエン資料」や「ブリーフ資料」と呼ぶのですが、このブリーフをしっかりつくったおかげで、スムーズにパートナー選定が進みました。正しい意思決定をする上で、ブリーフはとても重要でした。

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ブリーフは大事

前置きが長くなりましたが、この記事では「ブリーフってとっても大事」ということをお伝えしたいと思います。

マーケターはキャンペーンからクリエイティブまで、常に制作を「依頼する」立場にあります。そんなマーターにとって、依頼書ともいえるこのブリーフはとてもとても大事なものです。ここが弱いと、あるべき提案やクリエイティブの形が引き出せないですし、提案物の良し悪しを決める判断基準も曖昧になってしまいます。

にもかかわらず、まわりのマーケターやクリエイターの話を聞く限り、ブリーフを重視している企業が存外少ないような印象を受けます。

たまに「良いクリエイティブが出てこない」と相談を受けることがあります。「どんなブリーフをした?」と聞いても、明瞭な答えが返ってこない場合がほとんどです。もとをたどると依頼時のブリーフがいい加減だった、といったケースが意外と多いのです。あるいは「どのクリエイティブが良い選べない」といった相談を受けることも。それらの判断基準は本来、ブリーフ作成時に定めているはずです。

僕の尊敬する先輩マーケターがよく言う言葉を借りると「99%のマーケターはゴミを生み出している」状態です。(僕は言ってないです)

ここでいうゴミとは「人の心を動かせるアイデアがない」ことを指します。

クリエイティブの良し悪しはクリエイターの責任にされることが多いですが、そもそもはマーケターが「Great Idea」と呼べるまでブランドのユニークなベネフィットを発掘し、昇華させてしかるべきなのです。クリエイターにお願いするのは、それらをどうクリエイティブに脱皮させるか、のジャンプの部分です。

代理店やクリエイティブがイケてないと感じているならば、彼/彼女らのクリエイティビティーを引き出せていない自分がイケてないと考えた方が良いでしょう。

マーケティング戦略からのブリーフ

そう考えると、マーケターの仕事の大半はイケてるブリーフをつくること、と言っても過言ではありません。なぜならブリーフをつくる時点で、上述のマーケティング戦略は全て固まっているはずだからです。つまりブリーフはマーケティングの集大成です

マーケットをどう分析しているか?ブランドの目的と目標はなにか?ターゲットは誰か?彼/彼女らのインサイトはなにか?そのインサイトに刺さるブランドの独自ベネフィットはなにか?そのベネフィットは必然的にどんなポジションを形成するか?etc...

前提となる戦略と、可能であれば「Great Idea」と呼べるまで昇華された強固なベネフィットがそろっている。その上で、クリエイティブなジャンプを求めるものが本来あるべき(クリエイティブ)ブリーフです。ブリーフとは「クリエイターをインスパイアさせるもの」です。

長期的な戦略パートナーの依頼、スポットのキャンペーン企画依頼、クリエイティブ作成依頼、PR...ブリーフの種類は多岐に渡り、それぞれで内容は若干異なりますが、根っこは同じです。乱暴にいうと「Who」と「What」を明確に表現することです。

クリエイティブ・ブリーフ・テンプレート

今回、クリエイティブ制作依頼のブリーフ・テンプレートを用意しました。Duolingoでつかっているものに少し手を加えたものです。勝手に公開しているので、後で怒られるかもしれませんが、これでみなさまが幸せになるのなら本望です。

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プロジェクト説明/背景
プロジェクトの説明。なにを解決しようとしているか?

Business Objective
ビジネス上の目的とゴール。数値目標など。

Challenge
ブランドが克服したい課題、克服した後にどんな世界(状態)になっていて欲しいか。
※無機質なBusiness Objectiveの数値目標だけでなく、Challengeのような定性的なビジョンがあるとクリエイターはインスパイアされやすい

ターゲットオーディエンス
ターゲットは誰か?

ユーザーインサイト
ターゲットが持つインサイトは何か?

キーメッセージ(ベネフィット )
このクリエイティブで伝えたい最も重要なメッセージ / ブランドのベネフィット (便益)は何か?
そのメッセージ/ベネフィットにつながるプロダクトのRTB(Reason to Believe:根拠となるファクト)はあるか?

Creative Ask
課題を解決するためのクリエイティブへの問いは何か?Get. To. By. のフレームワークに則ると分かりやすい。
Get: オーディエンスは誰か?
To :彼らに何をして欲しいか?
By: 方法論
(例)どうやったら(Get)世界中のユーザーに、我々が(To)フィンラン語のコースをローンチしたことを、(By)(フィンランド語が)最も難しい言語だとShowcaseしながら知らせられるか?

Timing & Executional Requirements
いつまでに必要か?どのようなスペック(形式、サイズなど)が必要か?

Budget
制作予算、露出先のメディア、おおよその出稿費用※

Success Metrics
成功を測るKPIはなにか?

Related Documentation
参考資料など。(ロゴ規定などのブランドガイドラインや、過去の制作物などがあれば参考として添付する)

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補足

いくつか補足です。

マーケティング戦略をつくる上で最も重要な要素は、誰に(Who)、何を(What)、どう伝えるか(How)です。その中でもとくにWhoとWhatが重要になります。

ブランドの戦略ターゲットはどのセグメントで、仮にひとりに絞り込むとしたら、どのような人なのか。その人と実際に話をして、興味深いインサイトを得られているか。そして、ブランドが提供できるユニークなベネフィット(便益)を定義できているか。

ブリーフを書こうとして「ターゲットは誰かなー、メッセージは何かなー」と悩んでしまうようでしたら、まだブリーフィングする準備ができていないということです。それらの戦略はブリーフに落とし込む前に固まっているはずです。

別の言い方をすると、「What to Say」はマーケターが考えるべきです。それを「How to Say」にジャンプさせる依頼がクリエイティブ・ブリーフの役割です。WhoとWhatが定まっていない場合は、まず顧客と会話する機会を設けた方が良いでしょう。

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Challengeは、つまずきやすい項目です。深く考え始めてしまうと泥沼にはまってしまうので、シンプルに「ブランドにとって、どんな未来になったら素敵か」を考えるのがおすすめです。
日本のDuolingoの場合、「情報を検索するならGoogle、動画を見るならYouTube、言語を学ぶならDuolingo、が当たり前になっている状態って素敵ですよね」と言っていました。

またBudgetの項目に、制作予算だけでなく、露出先のメディアとメディア予算も入れていますが、これも意外と重要です。(もちろん開示したくない場合はしなてくも結構です)

TVCM/OOH/Digitalの違いはもちろん、デジタル上でもチャンネル(Facebook/YoutubeTwitter/etc)によって求められるものが変わってきます。プラットフォームによってユーザーのコンテンツ視聴態度が異なるためです。パッシブにタイムラインをスクロールするユーザーが多いのか、アグレッシブにコンテンツを探すタイプのプラットフォームなのか、など。

例えば動画広告をつくる場合、YouTubeであればある程度「音」にこだわった方がいいけど、Twitterであればさほどこだわらなくても良い、などの違いも挙げられます。

また、メディア予算の大小でも、つくるべきクリエイティブの方向性が変わってきます。メディア予算が少ない場合、視聴者の目を引くインパクトの強い広告が求められます。反対に、メディア予算が多く、大量の出稿量が予想される場合、フリークエンシーの頻度を考慮したクリエイティブを考える必要があります。インパクトの強いクリエイティブが大量に流れると、受け手が「うざい」と感じるからです。
一回見ただけで、なぜか頭から焼き付いて離れない。そんな広告を見たことがあるはずです。けれど、そんな強力な広告が何回も何十回も繰り返されたら、さすがにお腹がいっぱいになってしまいます。

例えばOOH(看板など)で一発だけドン!とやりたい場合は、伝説のTommy Hilfiger ハングマン広告みたいなインパクト勝負もありですが、その画像を大量にWebで流してしまうと、反感を買う恐れもあります。

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なので、事前に想定されるメディアとその出稿量をクリエイターに伝えておくのは、意外と大事なことなのです。

ここらへんは谷山さんの名書『広告コピーってこう書くんだ!読本』の「剣豪コピー・将軍コピー」に詳しく記されていますので、興味がありましたらご一読ください。


以上、ブリーフの紹介でした。

このブリーフテンプレートは、新たな項目を作って情報を足したり、反対にいくつか項目を省いて簡素に仕上げることもあります。ご自身の使いやすいようにカスタマイズしてご利用ください。



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