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きづかぬうち216.がついてるもの

誰も彼もが嘘をつきながら生きている。知らぬ間に守らなければいけないものたちを無数に背負っていることに気づき、今まで平穏に過ごしてきたことが奇跡の連なりであることに気づき始める。なあなあちょっと聞いてくれよってだんだん簡単には声をかけることができなくなってくることに胸が圧迫される。本当はみんなでちょっとした話だけでゲラゲラ笑ってちょっとグラスを傾けて「うーん、次また水割りにしようか」なんて考えられる余裕がなんと幸せだったことだろうか。終電の時間を気にして笑い合えることをこんなに恋しいと思うことになるなんて。

自分はライブを続ける。一度出演を受けたイベントが中止宣言をしない限り。でも本当は外に出たくない。人に会いたいけど、会いたくない。こんなに苦しいことってあるか。ライブハウスも場所によって考え方は様々だから、実施する箱もあれば休む箱もある。実施するにしてもお客さんは呼べない。なぜなら呼ぶのが怖いから。こんなに苦しいことってあるか。個人的には、みんな外に出ないでくれ、と思う。ライブハウスを守りたい気持ちと周りの人を守りたい気持ちが同居していて、苦しくて息ができない。感染してるくらい苦しいんじゃないか。何よりも死が怖い。もし自分が感染していて、友達に感染して、例えふたりが大丈夫だったとしても、ふたりの周囲の人が感染して死ぬかもしれない。もはや誰でも知らない間に人を殺してしまう可能性を孕んでいる。

友達が死んだ。ずっと一緒に音楽をやってきた。そいつはここ何年もずっと「うまくいかない」って悩んでて、昼間はサラリーマンとして働きながら、夜はライブハウスに出入りしていた。音楽も特に良くないし、冗談も全然つまらないやつだったけど、悪いやつじゃなかったし、一緒にいて居心地も悪くなかったので良く一緒に遊んだ。いつもおれが作ったものを褒めてくれた。ついこの前、電話をかけてきて、すごく嬉しそうな声をしていたから、どうしたの、と聞くと、「めちゃくちゃ良い曲ができた!」と言う。電話越しに聴かせてもらって、大雑把なことをするやつだな、と思ったけど、その雰囲気も含めて電話越しに聴こえたローファイな音楽はそいつらしい不器用さと純粋さがものすごい密度で感じられてとても良かった。良い曲だねって言うと「これは絶対いけると思うんだ」って言ったけど、多分それ箸にも棒にもかからんぜ、と心で思いながら、そうなると良いねって笑った。
その後全然連絡がなくて、張り切ってたけどどうしたかなってたまに頭によぎったけど、そんなに普段から毎日連絡を取るわけでもないし放置してた。
死因はコロナウイルスに感染してからの合併症によるものだった。噂だと職場、ライブハウス、通勤のうちどこでの感染もあり得ると言うことだった。そいつは3月に入っても「大丈夫大丈夫!」と言っていたから、手洗いうがいは絶対ちゃんとやれ、と言い聞かせていたんだけど、それは守ってくれていただろうか。多分それでもダメだったに違いない。葬儀・通夜は、おおやけには行わず、感染拡大の防止に親族の皆さんも務められたらしい。なんだか知らない人の死みたいに、ちょっと距離がある気がして、悲しむにも悲しめず、とりあえず家で一人、よく一緒に飲んだ安い焼酎を水割りにした。いつかもらってあんまり聴いてなかったデモCDを聴きながら。

この話は創作だが、こういう話が至る所で起こる可能性があることを常に想像しなければいけないと思う。人のとる選択についていがみ合っている場合じゃないし、何が正解とかでもない。実際に経営の問題はかなり大きいので現状維持というか延命ができる措置が取られていないと自粛もしきれないだろう。

支援する人たちにも金銭的な問題が出てくるだろう。やがて個人からの資金調達も難しくなるだろう。そうなったときに、せめて配信等のデジタル領域での発信方法を持たなければ潰れていくだろう。自分は音楽しかカルチャーをほとんど知らないが、今後仮にウイルスが落ち着いたとしてもその配信環境は役立つだろうし新しい音楽ビジネスのあり方につながってくれるだろうと思う。
個人的には、個人の配信はしばらく控えてできる限りライブハウスやスタジオ等に利益が還元できるような働きができればとは思う。ただ家で配信だけしてるなんて保身しかできない人たちだからこれを機に見限った方がいいね、とも言わないよ、外に出ないことも重要なわけだから。

できる限り自分に最大限できることをない頭で考えて実行していくことにする。みんなにお願いするとしたらどうか間違った情報に溺れて疲れないようにしてほしい。情報の収集と租借、そして議論をし続けるしかないと思う。

「政治家の水準は、その国の国民の平均的な水準から著しく乖離することはない」とはマックス・ウェーバー。大切なものを守るためには自分たちが進化しないといけない。

こんな内容のものを書いて、これから出演する予定の箱やイベンターさんには本当に申し訳なく思う。ただ、自分は本心から箱側に寄り添って活動したいし、周囲の人も守りたい。もはや自分が演奏するのは、箱の人のためだけなのだと思う。収益化にはほど遠いことで本当に申し訳なく思うけど、この胸の苦しみが取れる日が来るために全力を注ぐつもりであることもここに明記しておきたい。
そしてその時の関係者全員の爆風を楽しみにもしている。

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