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私たちのコアバリュー「PEACE」

3021文字です。個人差はありますが、5分〜7分でお読み頂けます。
こんにちは。よこはま発達相談室の佐々木です。
4月2日〜8日は世界自閉症啓発デーであると共に、発達障害啓発週間でもあります。昨年と同様に、啓発の意味も込めて、当相談室代表の内山登紀夫先生、宇野洋太先生と動画を撮影させていただきました。

その中でいくつかお話をさせていただいたのですが、そこでも取り上げた、我々のコアバリュー(大切にしている価値基準)について皆さんと共有したいと思います。

目指すのは生活の質の向上

動画の中でも内山先生が解説してくださっていますが、自閉症の方々をサポートする方法や考え方はさまざまなものが存在しています。その中でも、僕らは「自閉症を特性を減らす」「普通に近づける」「IQ(知能指数)を上げる」というようなことは考えていません。

なぜなら、僕たちが目指しているのは「生活の質(QOL)の向上」で、それぞれの方々の生活がより豊かになることです。そのような視点で考えたときに、QOLとIQ、PARS(ASD特性を把握するための半構造化面接)の現在得点との関係について以下のような報告がなされています。

現在のQOL はFIQ、PARS 現在得点との相関は認められなかった。一方.過去の逆境体験、レジリエンスと相関があった。

令和元年度厚生労働科学研究費補助金 障害者政策総合研究事業発達障害の原因、疫学に関する情報のデータベース構築のための研究「成人発達障害の実態把握と支援ニーズに関する研究」

つまり、IQや特性そのものよりも、その時々で適切と思われるサポートを受けながら必要以上なネガティブな経験をしていないことがQOLを考えたときには大切であると言えるだろうと思います。英国での大規模な調査でも、特性にあった適切なサポートがQOLにポジティブな影響を与えていると報告がありました(autism reserch 11(8),1138-1147)。

したがって、どのようにサポートをしていくのが良いのかが重要であり、そうした際の指針となるのが理念であり、コアバリューでもあります。以前には、我々が大切にしている考え方として英国自閉症協会のSPELLも紹介いたしました。

今回は、当相談室としてのコアバリューを紹介したいと思います。

大事にしている5つのこと

スタッフ間でもディスカッションをし、いくつもの大事にしたいポイントから5つに絞り、それらの頭文字をとって「PEACE(ピース)」と表現しました。

以下に、簡単ではありますがそれぞれを解説していきます。

Positiveー肯定的なサポート

自閉症スペクトラム(ASD)であることを否定せずに肯定していくことを大切にしています。ASDの方々は社会全体の中では少数派です。そのため、多数派向けに作られた社会の中では困難を抱えることもあるかと思います。

ですが、少数派であること自体は悪いわけではなく、苦手な点にスポットを当てるのではなく、ポジティブな面、得意なこと(人より優れているとかではなく、自分が好きなこと、疲れすぎずに取り組めること)に目を向けていくことが大切なことのように思います。

例えば、興味が狭いというマイナスかもしれませんが、自分が好きなことを深く追求したり、熱中できる方々でもあったりします。だからこそ、周囲が良かれと思って、さまざまな事柄に興味を広げようとし過ぎるのではなく(ご自分がそうしたい場合には別です)、その方が関心を持っていることを認めていくことが良いのではないでしょうか。また、生活の中で制限や禁止をするだけではなく、何をしてほしいのか、期待していることを肯定的に伝えていくことも、ポジティブな関わりの一つです(例えば、「走らないで!」ではなくて「歩いてね」と説明するなど)。

Empathyー共感

ASDの方々がその特性ゆえに感じている困難を否定せずに共感し(どのような言動でも共感するということとは違い、特性からくる困難さに対してという意味です)、一緒に考えていくことを大切にしています。例えば、音に敏感な方に対して、「これくらいの音は平気でしょ」「我慢しよう」ではなくて、僕らにとっては気にならない音だとしても、その方にとって辛いものは辛い。

切り上げや切り替えも大切ですが、そもそもそこが苦手なのが特性でもあるので、切り上げや切り替えを求められるのも、楽なことではないと共感していく。

その上で、「何ならできそうか」「どうすれば少し負担や苦痛は減るのか」を一緒に考えていくことが求められるのではないでしょうか。

Autism friendlyーASD特性に配慮した環境

ASDの方々にあった環境や接し方を調整していくことを大切にしています。TEACCHやSPELLの中にある「Structure(構造)」も含みます。それが全てではありませんが、「構造化」についても以前記事にしていますので、ご関心ある方はそちらもご覧ください。

Calmー穏やかな対応

厳しく接する、大きな声で注意する、騒がしい状況で話すなどではなく、穏やかな雰囲気でやり取りをしていくことを大切にしています。怒気が前面に出るとそれだけで不安にさせてしまうことが多く、可能な限り不要な不安・緊張を軽減するようにするために、声のトーン、表情、態度などを穏やかにしていくことを意識しています。これは指摘をしてはいけないということとは別で、指摘はする場合はあるかもしれないけれども、大きな声で語気を強めて表現する必要はない、静かなトーンで伝えるという意味です。SPELLで言うところの「Low arousal」とほぼ同義です。

Evidence basedー根拠のある支援

これまでの歴史の中では、ASDに関しては原因も治療も根拠のないものが流布してきました。例えば、1940年代にはASDの原因は、親が冷蔵庫のように冷たいからであると真剣に議論されていたそうです。ワクチン接種、特定の物質がASDの原因と議論されたこともあります。支援や治療に関しても、医学的・科学的根拠のないものが少なくありません。

もちろん、我々の主観が入ることもあると思いますが、客観的なアセスメントや既に明らかになっていること、つまり根拠となるものをベースにサポートをしていく(例えば、ASDの方々は聴覚的な情報の受け取り方に偏りがあることが研究で明らかになっているからこそ、視覚支援がより重要であるとか、共感しないわけではなくて共感するポイントが多数派とは異なるので、ご本人の共感する点は肯定的に受け取りつつも、多数派の視点も解説するなど)ということを大切にしています。

まとめ 

ごくごく簡単にではありますが、我々が大切にしている「PEACE」について解説させていただきました(余談ですが、このnoteのサークルやFacebookのグループ「オンラインゼミ」では倍以上の分量で解説しています)。
 
Positiveー肯定的なサポート
Empathyー共感
Autism friendlyーASD特性に配慮した環境
Calmー穏やかな対応
Evidence basedー根拠のある支援

お互いに平和に、穏やかに、そんな我々の想いが込められた理念です。
ASDの方々のより豊かな未来のために、我々にできることをこれからもコツコツと取り組んでいきたいと思っています。

よこはま発達相談室
佐々木康栄

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