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私たちが大切にしていることーSPELLー

自閉症スペクトラム(以下ASD)の方の療育指導や、そのご家族、関係者の方々とご相談をさせていただく中で、私たちが大切にしていることがあります。

一口に「発達障害」「ASD」と言っても、その特性の現れ方は非常に多様で、どのようにアプローチしていけばいいのか判断に迷う場面も少なくありません。そんな時に、私たちが考えるのは、「支援するってなんだろう?」ということです。

支援の目的

私たちは、ASDの方々が、その方らしくhappyに生活できることを願っていますし、そのために日々の支援を一緒に考えさせていただいています。具体的なアイディアは個々に違いますが、共通する支援の方向性というのはあると思っていますので、今日はその点にフォーカスしていきたいと思います。

SPELLって?

SPELL は英国自閉症協会(National Autistic Society,以下NAS)が提唱している理念です。私たちは、SPELLの理念をあらゆる場面で取り入れるようにしています。以下に、SPELLについて簡単に説明します。

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Structure(構造)

予測可能であること(見通しがあること)、理解可能であること、安心できる環境であることが重視されます。情報を整理し混乱を最小限にした環境の設定を目指します。例えば、あらかじめ予定や活動内容をメモなどで視覚的に提示する、相談内容をその方にとってわかりやすい形で視覚的にまとめるということもStructureの一つです。

Positive(肯定的に)

肯定的な雰囲気や接し方を大事にします。ご本人にとって、無理な要求や課題設定をすることや、高圧的・威圧的な態度をとることは効果的ではありません。ASDの方では不安感を持ちやすいこと決して少なくありませんので、威圧的・強圧的な態度をとってしまうと、それだけで不安や緊張が強まり、本来持っている能力を発揮しづらくなってしまいます。ただし、これはASDの人の言動全てを受容するということとは違います。例えば、ASDの人が、その特性故に、一般には許容し難い言動をとってしまった場面があるとします。その方の特徴や理解のレベルにもよりますが、ご本人の言動が許容できない理由について穏やかに、論理的に説明をするとともに、なせそのような行動をしてしまったのか、背景にある問題も考え必要な環境調整をします。そうした対応が難しい方の場合には、問題が生じてしまった環境の構造化が必要です。その方の視点から、環境側にも問題があるのではないかを考えます。そうした視点なしに、叱責を繰り返したり、罰を与えたりといった対応はASDの人の自己否定感や不安を強めるのみで、より問題がエスカレートしたり、活動に対して回避的・拒否的になることがあります。また、誤解のないようにお伝えすると、無理をさせないことや負荷をかけすぎないことと、必要な新しい活動や介入を提供しないことは異なります。特性から生じる不利益を最小限にし、ご本人にとって必要な支援を学習の機会を提供していくこと、ご本人にとって意味のある活動やプランを提供することは重要なことです。

Empathy(共感)

個々のASD特性を私たちが理解し、その上でASD特性を考慮した共感をすること、つまり、ASDの人が感じる苦痛や楽しみに共感し、必要に応じて具体的なサポートを一緒に考えるが支援の基本だと考えています。例えば、定型発達の人であれば、気にしないような変更が、ASDの人には非常に苦痛や混乱の要因となる場合があることを私たちは知っておかなければなりません。そうした場合には、急な変更は可能な限り避ける、変更がある場合にはあらかじめ伝えることで予測可能にする、わかりやすく伝えるために視覚的に示すなどの配慮と工夫が望まれます。ASDの人は感覚刺激に敏感な方もおりますので、そうした敏感さへの共感も忘れてはなりません。聴覚過敏のある人に対しては、特定の音が相当の苦痛を伴うことを理解し、避ける、イヤマフや耳栓、ノイズキャンセリングなどで予防するなどの工夫を考えます。ASDの人にとって何がストレスになるのかを理解し、ストレス要因を減らすことも大切な共感です。ストレスや苦痛に対して、慣れさせる、乗り越えさせるという考え方は、結果的にご本人を追い詰めること、社会場面での不適応につながる要因の一つになり得ることは強調したいと思います。

Low Arousal(穏やかな対応)

ASDの人への対応や介入の基本として、穏やかに接することが重要です。声のトーン、表情、態度などをLow arousalにするということです。大声で圧迫するような態度をとったり、厳しく指導したりするとその場では、指示に従うことや、問題が解決したように見えることもあります。一見するとうまくいったように見えますが、それは力対力の関係で、支援者に対する恐怖心から従っているのみで、力で押さえつける対応が続くと、自分よりも力が弱いと思っている相手の指示や介入には一切応じなくなってしまうリスクがあります。様々な年齢や知的なレベルの方にお会いしており、また長くご相談にのらせていただいておると、残念ながらそのような状況を経験することもあります。しかし、それは共生でもなんでもなく、支援とは程遠いように感じます。原則的には、共感しながらも、現在の困難や苦労の背景にある問題を一緒に探り、苦労や苦痛が減り、その方だけでなく、周囲の関係者皆さんが穏やかに過ごせることを目指したいと考えています。

Links(つながり)

周囲のコミュニティや地域との繋がり、連携を大切にします。ここでの繋がりとは、孤立させないことや地域社会との接点を促進することのみを意味しないことに注意が必要です。生活のさまざまな場面で特性への配慮がなされること、同時に、そうした配慮や工夫などの支援の連続性と一貫性がなされることで、支援者や社会との繋がりが維持、促進することも重要な要素として含まれています。ASDの方と、ご家族や教師、医師、心理士などの支援者がチームとして一貫した方針のもとで協力して支援することが、ASDの人が不安なく有意義な生活を送り、社会参加するために必要です。ASD特性は、年齢や状況、これまでの経験等によって現れ方は異なりますが、基本的特性は生涯にわたって継続します。このことは、支援や配慮の程度や形は変わるとしても、生涯にわたって特性に配慮した支援が必要であることを意味しています。

よこはま発達相談室 佐々木康栄

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よこはま発達相談室は、日本の自閉症臨床に長年努力してきた内山登紀夫が設立した発達障害専門の療育機関です。私たちは、医師、公認心理師、言語聴覚士、精神保健福祉士などの専門家がチームとなり、日々の臨床だけでなく啓発活動にも力を入れています。