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「発達の最近接領域」と「芽生え」から考える発達支援

2242文字あります。個人差はありますが、3分半〜6分ほどでお読みいただけます。

こんにちは。よこはま発達相談室の佐々木です。先日は東北地方を中心に大きな地震がありました。関係者の方々に伺っておりますと、各地でさまざまな影響が出ており、皆さまの安心と安全を願うばかりです。関連するものとして、「自閉症スペクトラムと緊急時の支援」という記事を以前書かせていただきました。下記にリンクを載せておきますので、ご関心ある方はお読みいただければと思います。

さて、本日は「発達支援を考える際にどこを見るか」というテーマでまとめていきたいと思います。

発達の最近接領域

皆さんは「発達の最近接領域」という言葉を聞いたことはありますか?
心理学用語でもあるので、多くの方は聞きなれない言葉かもしれません。

発達の最近接領域というのは、ロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキーが提唱した概念です。簡単に解説すると、子どもの発達は「ひとりでできる」「支援があればできる」「できない」の三領域に分けることができ、その中でも「支援があればできること」が、発達の最近接領域と言われています。

ヴィゴツキーは、子どもの発達や教育現場では、この発達の最近接領域に注目しながら、子どもたちが「できた」と思える体験を増やしていくことが大切であると主張していました。

芽生え

TEACCHプログラムでも同じような概念が提唱されています。TEACCHプログラムでは9つの哲学を掲げており、その一つに「個別に正確な評価をする」というものがあります。つまり、「アセスメント(評価)」=「それぞれの方をより良く知る」ことを非常に重視しており、僕たちも「アセスメント(知ること)が支援のスタート」だと思っています。
 
TEACCHプログラムでは、自閉症の方々を評価するために開発されているいくつかの評価ツールがあります。それらは知能指数や発達年齢を算出することを目的とするのではなく、「強み」と「苦手」を明らかにし、これから何をどのようにして教えていけばいいか、支援プランを立てることを目的としています。

その際の評価基準として、「合格」「芽生え」「不合格」の3つの視点を設けています。「合格」が、手助けなしで完全にできる、「芽生え」が、一人で完全にはできないが、一部行うことができたり、手助けがあれば行うことができたりする、「不合格」が、その課題をできなかったり、取り組もうとしなかったりする、となります。そして、得意な領域・不得手な領域だけでなく、「芽生え」に注目して、何を、どう教えていくかの手がかりとしています。

つまり、「できないことをどうできるようにするか」という発想ではなく、「できそうなことに対して、どのような工夫(支援)があれば取り組みやすくなるか」という発想で考えていくことを大切にしています。

「できない…」ではなく、「自分でできた!」という機会と体験を増やしていくことで、「もっとやってみよう」「またできるかも」という気持ち(「自己効力感」や「自己肯定感」)の土台を作ることにつながります。

「できる」「できない」の間を観察していく

「発達の最近接領域」と「芽生え」の両者に共通していることは、「できる」「できない」のように「0 or 100」で考えずに、その間があるという視点です。

どうして「支援があればできそう」という点に注目するかというと、次のような理由があるのではないかと思います。

  • 現実的に達成できる(達成可能性が高い)

  • 消耗しすぎないチャレンジで取り組める

  • 不要な失敗よりも成功の体験を増やしていける

  • 小さな成功の積み重ねが自信につながる

また、ASDの方々は、「見通しが持てていると安心して力を発揮できる」ことが知られていますが、ここでいう見通しというのは、日課のように狭い意味の見通しだけを意味しません。何らかの活動に取り組む際に、「やれそう」と思えることも大切な見通しの一つであり、モチベーションにも大きく影響します。

例えば、僕の場合には、「カレーを作って」と言われれば、何の材料が必要で、どのくらい時間がかかるのでOKしますが、「ビーフストロガノフを作って」とお願いをされても、「いや、無理です」と言うと思います。これは、面倒くさいとかそういうことではなくて、そもそも材料や作り方、調理時間も知らないので、できるイメージ(=見通し)がないからなんですね。

だけれども、最初にクックパッドのようなアプリやホットクックのような調理家電などのサポートツールでやれるかどうかを確認し、それらを使っても良いということであればできそうな気もします。そして、そうしたサポートを使って完成できた際の自己満足度や達成感も高いようにも思います。

皆さんはどうでしょうか?

「発達の最近接領域」や「芽生え」に注目し、そこに必要な支援を入れて取り組んでもらうことは、「できそう」と思える「達成の見通し」を伝えやすく、その結果ご本人たちも取り組みやすくなるのではないか、そんな風に思います。

まとめ

本日は、発達支援を考える際のポイントとして、

  • 発達の最近接領域

  • 芽生え

  • これらに注目することで、「やれそう」「できた」を達成しやすいプランを考えていける

というテーマで書かせていただきました。同様の内容は音声でも配信しておりますので、ご関心ある方はそちらもご視聴ください。

では、本日も最後までお付き合いくださりありがとうございました。

よこはま発達相談室
佐々木康栄


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