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自閉症スペクトラムと緊急時の支援

皆さん、こんにちは。よこはま発達相談室の佐々木です。いつも当相談室の記事をお読みくださりありがとうございます。緊急事態宣言が延長され、混乱や苦難が続き、様々なメディア・媒体で対策などの情報発信がなされていると思います。そこで、今回は関連する情報として「ASDと緊急時の支援」というテーマで、日頃の臨床の中でご相談させていただいている一部になりますが、ご紹介したいと思います。


緊急時にも様々

緊急時と聞いて、皆さんはどのような状況を想像されるでしょうか。私は、”日常とは異なる状況が想定外に起きること”と考えています。そのため、現在のような感染型のウイルスが蔓延している状況も緊急でしょうし、その他には、災害(自然災害、人災、火災など)、事件(犯罪被害/加害)、急病など、様々な種類があると考えています。日々の臨床でも様々な緊急時のご相談をお受けすることがあります。私は、東京エリア・トラブルシューター・ネットワーク(東京TSネット)という、地域でトラブルに巻き込まれた障がいのある方を支援する団体の支援検討委員でもありますので、事件に関するご相談にものらせていただくことがあります。ここで、少しご紹介をさせていただくと、東京TSネットは”すべての人が、障がいの有無にかかわりなく地域で暮らせる『共生社会』を目指す”という理念のもと、障害福祉に詳しい弁護士や福祉専門職の方々で活動しておる団体です。研修会や個別支援など様々な取り組みをしておられる団体で、私自身も非常に頼りにしておる先生方です。緊急事態宣言が発令されてからも、「障害のある方のためのLINE法律相談」を無料でやっておられます。それぞれのリンクを下記に貼付しておきますので、是非ご確認・ご活用・シェアをお願い致します。

緊急時とASD

私たちの多くは、程度の差はありますが災害などの緊急時には不安が強くなります。それでも、なんとか冷静に行動しようと努めるのですが、発達障害の方の中には、より不安が強くなり、時にパニックを起こしてしまう方もおります(もちろん、そうでない方もおられます)。現在も、これまでと違う生活を余儀なくされることで大変なご苦労をしておられる方も多数おります。こうした状況に対しての対応のご紹介は、以前にも動画で配信させていただきました。

私たちが、こうした緊急時にできることは何でしょうか。ニューイングランド、アスペルガー協会名誉会長、全米自閉症協会役員のスティーブン・ショア博士は、災害時の支援として大切なことを次のように紹介しております。

災害時の支援

私は、ショア博士のこうした考えについては、”緊急時だから特別なことをするのではなく、日頃からそれぞれの方にあった支援を考えることが大切である”という支援者への警鐘でもあると受け取ると同時に、自分はそれをできているのかとハッとさせられました。私は、安心している状況でできないことは、より困難な状況(=不安が強い状況)では難しいように感じています。コミュニケーションの例をあげます。ASDの方は、他者に援助を求めることや相談することが不得手であると言われています。

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その理由としては、"適切な相談"には「社会性」「コミュニケーション」「イマジネーション」の要素が求められるため、ASDにとっては本質的に不得手であると考えられるからです。例えば、援助を求めるべき状況であることがわからない(=そのままにするデメリットに気づかない)、『助けを求める』という解決策がある、自分が知らない有用な情報や技術を他の人がもっているかもしれないということを思いつかない、経験から「言ってもムダ」と思いこんでいる、適切な/有効な表現方法がわからない(独り言や文句に聞こえる言い方、回りくどい言い方、暴言などになってしまうなどがあげられます。したがって、ASDの方の支援では、”相談スキルを意識的に育てる”という視点が大切です。このあたりは、以前webセミナーでも解説致しました(現在は配信期間は過ぎているため、ダイジェスト版のみ公開しています。また後日、配信予定です)。また、当相談室では、言語聴覚士がコミュニケーション支援の専門家ですので、様々な取り組みをしております。

ST指導

話が少し逸れてしまいましたが、日頃から報告や相談の機会や経験が少ないと、緊急時、つまり不安がより強い状況では「相談してみよう」とはなりにくいと思われますので、私たちは、日々の臨床でも”相談スキルを育む”ということを大切にしています。

今だからこそ緊急時に備える

現在ご相談しておられる方々の中には、ゲームやYouTubeなどの動画、DVDの視聴などの活動でリラックスして過ごしておられる方もおります。それはそれで良い方法の一つなのですが、そうした方々にお伝えしているのは、電気が止まってしまうとどれもできなくなってしまうので、万が一に備えておこうということです。例えば、ポータブルDVDプレーヤーやモバイルバッテーリーを用意しておくなどが考えられます。また、聴覚過敏でイヤーマフや耳栓などのグッズを利用しておられる方は、予備をご用意しておくこと(例えば、車のある方は、車にも入れておく)もお勧めしております。もし、パズルや音のでる絵本、雑誌、図鑑なども日頃から好んで見るのであれば、緊急時に備え日頃使うものとは別に用意しておくのも一つです。その場合には、いつもお気に入りのものを一つ、新しいものを一つというセットであれば、”いつも通りで安心”、”飽きずに過ごせる”という工夫になりそうです。偏食の方であれば、非常食用のご飯(最近のはいろいろな種類があり、とても美味しいです)を、前もって色々試しながら、食べられそうなものを探しておくということも考えられます。服用しておられる方であれば、緊急時でもいつもの処方がわからなくならないように(東日本大震災の時には、津波の影響で日頃の薬が全くわからなくなってしまい、非常に苦労された方もおられた)、処方箋を写真にとって携帯やスマートフォンに保存しておく、ITが得意な方であればクラウド上に保存しておく(保存している端末がなくなっても、ネット環境さえあれば確認できる)などをお勧めすることもあります。

さて、長々と書いてしまいましたが、これ以上は終わらなくなってしまいそうなので、今回はこの辺りで切り上げさせて頂こうと思います。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。皆様の「スキ」や「フォロー」、「シェア」が励みになります。宜しければ、関係者の方にもご紹介いただければ大変嬉しく思います。

よこはま発達相談室 佐々木康栄


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