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30歳になってからバンドでツアーをやることにした話(後編)

切りに行くのが面倒で伸びていた髪にも嫌気が差してきた。
思い立ったら吉日、仕事終わりに良さげな美容院に流れ着いて髪を切ることに。
長さが10cmはあるであろう前髪が床に散らかっていて、鏡には別人になった自分の姿が映っていた。


僕は普段、会社員として働きながらツーピースロックバンド「カセン」でギターボーカルをしている。所謂週末バンドマンというやつだ。

タイトル通り、30歳になってから東名阪を含めたツアーをやることにしたという話、今回はついに後編。
自身のバンド「カセン」とツアーの詳細についてはバックナンバーをご確認頂きたい。この記事を含めて3部構成になってます。


▼前編はこちら

▼中編はこちら


2023年6月18日、ツアー5発目はスタジオでYouTube配信ライブを行った。
神戸にある音楽スタジオ「Studio 246 West」は繁華街の路地裏の雑居ビルにある、僕達が普段からよく練習している場所だ。

僕達は地元でもまだまだ無名のバンドではあるが、実は少なからず応援してくれる方がいる。長年の付き合いがあるtwitterのフォロワーである。

普段の僕を知っている人は分かると思うが、僕はどちらかといえばコミュ力は無い方で、そこまで愉快な方でもない。バンドメンバーも似たような感じなので、音楽活動では苦労している部分も多い。
才能があって気さくな良いバンドマンなら、もっと音楽仲間や友達も沢山出来ているんだろう。

そんな僕ではあるが、音楽の趣味が近いからなのか、はたまた人間性が近い奴が惹きあったからなのか、何かあれば音楽を通じて知り合ったフォロワーが力を貸してくれる。
岩手、愛知、大阪、高知、そして東京…日本各地に住んでいる方々がサブスクで曲を聴いてくれている。

そんな方々にも何かしらの形でツアーに参加してほしい、そういう思いから無料の配信ライブをすることにした。

ラブライブ!のTシャツを着て一生懸命歌うみなみこういち

新曲「幻影少女」はツアー中に作った曲だ。カセンの楽曲の中では最長の6分、タイトルは桂正和の「電影少女」を捩っている。
もう書けないと思っていたラブソングを僕はまた書いた。

単独の配信ライブはそのバンドの力が問われるが、ハードルの低いワンマンライブでもあると思う。
40分の持ち時間で僕達は全11曲の楽曲を披露した。
YouTubeに配信ライブのアーカイブをアップしたので、当日の僕達の様子を覗くことが出来る。
全楽曲に字幕歌詞付き、まだカセンの曲を知らない方や普段から応援してくれている方でも楽しめる内容になっているので是非…。


2023年7月1日、ツアー6発目は東京 八王子RIPSに出演。
早いもので気が付けばセミファイナルの日を迎えた。

日本各地の若者たちが憧れる街、東京…
まさか自分があの街にライブしに行く日が来るとは!人生とは分からないものである。
東京公演は今回のツアーの中でも一番どうなるかが分からない日でもあった。東海道新幹線はボンクラを乗せて、情熱を何と引き換えて帰ってくるのか。

新横浜駅で降りた僕達は在来線に乗り換えて八王子の街へ向かった。
八王子といえばマキシマム ザ ホルモンやハルカミライといったバンドが有名だ。
今回出演する八王子RIPSはハルカミライの楽曲にも出てくる「ヨーロービル」という雑居ビルの5階に入っている。

初めて足を運ぶ場所なので誰も知っている人はおらず…と普通はなる筈なのだが、声を掛けてくれる女の子が一人いた。

少し話を戻そう。このツアーが始まってすぐの頃の話だ。
ゴールデンウィークも僕達は神戸でライブをしていた。その時にたまたまライブを観てくれた女の子と話をしたのだが、彼女は東京に住んでいて今日は大型連休で神戸に戻ってきたという。
更に話をしてみると最近仕事辞めてライブハウスで働きだしたと言うので、働いている場所を聞いてみると彼女は「八王子RIPS」と答えた。

東京には物凄い数のライブハウスがあるが、今度出演する予定のライブハウスの方と偶然出会う確率というのは一体どれぐらいのものなんだろうか。
不思議なこともあるもんだな…と僕はドラマのようなものを感じたことをよく覚えている。
約2ヵ月ぶりではあったが、彼女は知り合いがいない僕達を快く迎え入れてくれた。

この日のライブも日本各地のバンドが集まっていた。名古屋、新潟、群馬、そして八王子をホームにしたバンド、リリースツアーで来ているバンドは僕達を含めて3組いた。神戸の僕達が一番遠かったからだろうか、初出演だったのにまさかのトリでの出演となった。

この日もtwitterのフォロワーや友人が何人も足を運んでくれた。
カセンはSUZURIというグッズ制作サイトでバンドTシャツをネット販売しているのだが、そこで買ったカセンのTシャツを着て会場に駆けつけてくれる方もいた。僕はライブをする前から幸せな気持ちでいっぱいになっていた。

共演した各地のバンド達は洗練されていてすごく良かったし、僕のバンドTを着たお客さんが僕の歌を口ずさんでいる光景も見た。
この日、全ての物事に影響を受けた僕は半裸になって何度もコケながらライブをした。

僕が東京で半裸になってライブをしたこと、会社の上司が知ったらどんな顔するだろう。想像したらちょっと面白かった。

今まで色んなライブをしてきたけど、間違いなく過去一番のライブだった。
でも僕はこれを越えるライブを今後も目指していきたいと思う。

セミファイナルを締めるみなみこういちと笑ったお客さん

▼この日の共演者
eriha / Betty Duckling's / SquowL's / shoka / イチバンロック


2023年7月15日、神戸BLUEPORTにてツアーファイナルを企画。
最終公演の7発目はいつもお世話になっているハコと共同企画を行うことにした。

前述の通り、僕達には音楽仲間が少ないので一緒にイベントをやってくれるバンドを探すことにきっと苦労する…と思っていたが、意外にも早い段階で演者が出揃うことになった。

神戸からはロックンロールな若者たち「Muddy Jackets」
西宮からは義を灯す喜劇フォークシンガー「バカ力」
大阪からは持たざる者たち「ブラック・シャイボーイズ」
同じく大阪 ロンリーでセンチメンタルなパワーポップ「Droopys」

どの方々も以前一緒にライブをして知り合った方々だ。こうして振り返ってみるとどのバンドも自分と似た部分があるような気がするし、色眼鏡抜きにしても「かっこいい」と思える方々が駆けつけてくれたと思う、本当にありがとう。

自分達のイベントをやるからには自分達の色にしたい、ファミレスでメンバーと検討した結果、下記の2つを用意することにした。

その① 来場特典を配る
その②「バックドロップ」を用意する

その①はライブ当日の朝、ベビースターやらガブリチュウやらを大量に買い込んで入場したお客さんに配った。僕はノスタルジックなものが好きだ。それにお客さんには少しでも得して帰ってほしいと思っている。

その②の「バックドロップ」というのはドラムの背後に飾られたりする「バンドのロゴ」等が巨大に印刷された幕のことだ。せっかくのツアーファイナルなので今回リリースしたジャケットをステージに掲げたいと考えた。

しかしネットで調べ始めてみると、バックドロップは業者への発注が必要で相場は大体1~2万円程度かかるようだ。そんな予算はどこにもない。

色々考えた結果、紙で自作することにした。ジャケット画像を24分割して安い印刷所でA3フルカラー印刷、イベント当日に印刷用紙をガムテープでくっつけて縦180cm×横180cmの超巨大バックドロップを完成させた。

制作費800円のバックドロップは共演者からも大好評だった

カセンのイラストは活動当初からMUGIさんというアマチュアの方が描いてくれている。
カセンの曲でMUGIさんのイラストを知ってほしいし、逆にMUGIさんのイラストを見て、カセンの曲を聴いてくれる人がいるとも思っている。今回も素敵なイラストを用意してくれたので、沢山の人に見てもらいたかった。

初めてバックドロップを作ってみたがコピー用紙には見えないほど見栄えはよく、作ってる最中は文化祭のような気分になっていた。
自分でもトリッキーな案だなとは思ったが、最高の形でイラストやライブを見てもらえる状態に仕上げれたのではないかと思える。

いつも通り共演者のバンド達は良いライブをやってくれて、僕達もいつも通りのライブをやった。ただ、いつもより人が少し多かった気もするし、いつもよりお客さんが笑っていた気がする。きっとこれは気のせいじゃない。

Vo&Gt.みなみこういち
Dr&Cho.けんけん
ツアーファイナルの様子

この日、打ち上げで飲み過ぎた僕は見事に終電を逃して、古ぼけた銭湯で夜を明かすことになった。うとうとしながら僕は始発電車の車窓から光り輝く街を見た。こうして僕達はツアーを完走することが出来たのだ。

▼この日の共演者
ブラック・シャイボーイズ / Muddy Jackets / Droopys / バカ力


はい、ということで前編・中編・後編とかなり長くなりましたが…いかがだったでしょうか?
ツアーファイナルから約1ヵ月が経ち、今この記事を書いていますが本当に夢のような時間だったなと改めて思います。

このツアーで力を貸してくれたライブハウスとスタッフの方々、共演したバンド達、カメラマンの友達、ジャケットを描いてくれたMUGIさん、見届けてくれたフォロワー、会場に足を運んでくれたお客さん、そしてこの記事を読んでるあなた。
無謀にも思えた全7箇所のツアーは予定や体調を崩すことなく無事完走出来ました。これもみんなのおかげです、本当にありがとう!

このツアーの間に僕はまた一つ年齢を重ねて31歳になりました。
ツアーをやってもバンドの規模は大きく変わってません、でも待ってくれていた人達に出会えたし、新しい自分の一面にも出会えました。そして素敵なものにも。
憧れたバンド達に少しは近づけたような気がします。そしてまだまだこれからも僕の音楽は鳴り続けることでしょう。

僕は好きなことをやれている。サラリーマンとして働きながらでも、メンバーが2人だったとしてもバンド活動は出来る。音楽でメシを食っていくなら30歳は遅すぎる。でも食っていかないのであれば年齢は関係ない、何歳からでもきっと遅くない。
今上手くバンドが出来ていない人、音楽を始めてみたいけど迷ってる人、そして何も出来ずにいた過去の自分に伝えたいのはそれだけです。
「何かやろう!」その思ったならその気持ちを大切にしてください。
その気持ちはきっと一番キラキラしたものだから…

▼みなみ こういち
https://twitter.com/YB_SG_

▼ツーピースロックバンド「カセン」公式ホームページ
https://kasenband.wixsite.com/introduction


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