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最も個人的なことが、最もクリエイティブなことだ。(アートとコピー 第2回)

0.はじめに、余談。

タイトルは、映画監督ポン・ジュノ氏がオスカーの授賞式スピーチで紹介した、同じく映画監督のマーティン・スコセッシの言葉。

クリエイティブ・ディレクターの原野守広さんも、近著『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』で引用している名言。


はじめからいきなり脱線するのですが、この「アートとコピー」第2回講義の前月に「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」を見終えた時、真っ先に浮かんできた感想が、この言葉でした(未見の方・興味ない方、すみません…!)。

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この「アートとコピー」という講義で、度々登場する、「自分のウェートを乗せる」という概念。
また、今回の事前課題に対する阿部広太郎さんの総評の「そこにあなたはいますか?」という言葉。

なんだか、同じ一つのことを語っている気がする…。

そんな気持ちを新たにさせられたのが、本講義第2回のゲスト講師。
アートディレクター 副田高行さんの講義でした。

1.副田高行氏、登場。

前置きが長くなりましたが。

いやー、とんでもない濃密な時間だった。

先月からはじまった、阿部広太郎さんが主宰するコピーライター養成講座「アートとコピー」。

第2回のゲスト登壇者は、広告界のレジェンドのお一人といっていいであろう、アートディレクターの副田高行さん。

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なんと今日の講義では、受講生が初回に見せあったポートフォリオに刺激を受けて、副田さんがご自分の経歴をポートフォリオ仕立てで振り返りながら、過去の作品を解説してくれるという。
そんな激レアな機会、滅多に無い…!というわけで、一心不乱にメモを取り続けたわけなのであります。

その講義時間たるや、なんと3時間半
…あれ、この講義19時〜21時だよね?
この後、課題の講評もあるよね?
いやいや、そんな段取りなんて関係ない。
これこそライブの醍醐味。
むしろ、もっと聞いていたいくらい、講義はあっという間に過ぎ去ったのだった。

2.SOEDADA(イズム)という、広告破壊運動。

まず、表紙の1ページ目からぶっ飛んでいた。
副田高行さんが、自分のキャリアを総括する言葉は、「SOEDADA」。
20世紀初頭に起こった「ダダイスム(Dadaïsme)」と自分の苗字を引っ掛けて、自ら「ダダイスト」を標榜していたのだった。
(すいません、一応仏文科出身なもので、この辺の芸術運動の話が出てくるとテンションが上がってしまうのです…)

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ついでにダダイスムの代表的かつ著名なアーティストを1人挙げるなら、マルセル・デュシャン。便器にサインをしただけの『泉』や、モナリザにヒゲを描いた『L.H.O.O.Q.』など。まさにそれまでのアートの概念を破壊した存在。

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3.ヘタウマは、パンクだ。(脱・ADC的なるもの)

副田さんの功績を列挙するには紙数が足りないので、いくつかエポックメイキングな作品を挙げたいのですが、ご本人も紹介されていた1981年のADC賞受賞作品である、サントリー〈ナマ樽〉の新聞広告。

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CD仲畑さんは、「ツマンナイ」とおっしゃる。狂った私は一大決心。それまでのキレイゴト・デザインを捨て、「ヘタウマ」デザインで生まれかわったのだ。

――「時代の空気。副田高行がつくった新聞広告100選。」

この作品で、副田さんは「こんなADC(東京アートディレクターズクラブ)指向とは真逆の表現で、皮肉にもADC賞初受賞の快挙」を成し遂げる。

それまでDDBや、ライトパブリシティなど尊敬する先達の仕事の影響下にある作品をつくっていた副田さん(その初期作品にも、息を呑むようなシンプルな強さの萌芽を感じもするのだけれど)。

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「はじめは、影響されろ。」と自ら語るように、そこで磨き上げた表現をあえて一度手放すことで、「ヘタウマ」と自ら語るつくり方に辿り着く。
それを副田さんは「つくるな。発見しろ。」と表現している。

表現は違うのだが、元電通のCMプランナーで東京藝術大学教授の佐藤雅彦さんは「作り方を作ると、自ずとできたものは新しくなる」と言っている。

佐藤雅彦さんは当時、湖池屋「スコーン」・NEC「バザールでござーる」などの一連のヒットCMを「音からつくる」手法を編みだすことで成功させたそうなのだが、「ヘタウマ」もそのように手法ごと新しく作り出すことで、制作物そのものを新しくしているようにも思われる。


「つくるな。発見しろ。」という言葉が意味するのは、(既存の「つくり方」に則って)自分の中から何かを作り出そうとするのではなく、新しいつくり方を、既存のつくり方の外部に"見出す"(="つくり方をつくる")作業のことなんじゃないだろうか。

そして、それは副田さんが辿ってきたDDB・ライトパブリシティの影響、葛西薫さんとのサン・アドでの出会い…といった、個人的経験無くしては生まれ得なかった「つくり方」なのだと思う。
それ以降も、トリスウイスキー「トリスの美味しい町は、よい人の住んでる町です。」や、SHARPの電柱貼り紙広告シリーズなど、既存の広告の概念を覆すような作品を、副田さんは作り続ける。

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▲ロゴを画面隅に断固として置かなかったことで、鑑賞者の視点と、貼り紙を捉えている視点がメタフィジックに重なり合う、個人的に副田さんの中でも最もダダイスムを感じる作品の一つ。

4.うまいラーメンをつくろう。

長かった講義も、終盤に差し掛かった頃。
副田さんが、こんな言葉を教えてくれた。

「うまいラーメンをつくろう。」

これは、仲畑(貴志)さんと合言葉にしていたんですけどね。
ラーメン屋って、飲食店の中で、一番数が多い。
行列ができる店もあれば、全く繁盛していない店もある。
うまい店は、日夜研究して、試行錯誤して、自分の一杯をつくっている。
「なんでみんな、うまいラーメン作らないんだろうね」って。

一見なんのことはない喩えに思えるけれど、こんなに明快に本質を抉ってる言葉もないだろう。
広告制作者が日本に何十万人いるか、正確なことはわからない。
でも、毎朝仕込みをして、スープの味を見て、時には味を変えて…うまいラーメンをつくるように広告制作に取り組んでいる人が、どれだけいるんだろう。
一体いま自分が出してるラーメンは、食べログ何点くらいなんだろうか…?


5.いくらいいコピー書いたってさ。

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TCC「コピー年鑑2020」。「集まる年鑑」というコンセプトの元に集った数々のコラムの中で、副田高行さんのタイトルは、こうだった。

「一瞬が勝負」という広告コミュニケーションの大原則。

あえてラーメンの喩えを引っ張るとしたら…
うまいラーメンは、最初の一啜りから、最高にうまい。
最初は美味くなかったけど、後から理屈で考えたら美味かった…なんてこと、有り得ないもんなぁ。
啜った瞬間に脳で分からせる、うまさの伝達速度。
市井のラーメン屋は、必死でそこを磨いている。

なんで広告屋のおまえが、それをやらないんだ?
講義の最後に、そう突きつけられた気がして、ドキッとした。

***
最後のおまけに、今回の講義課題の制作風景を。

100均で買ったリモートワーク用の三面パネルに、模造紙で即席白ホリ組んで、東急ハンズで買ったアイテムを自前で撮影しました。

こんな突然の思いつきを、時間がない中で最高の形にアウトプットしてくれた相方に、改めて感謝を。ありがとう!

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