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ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門 (はじめに)

クリエイティブディレクターの原野です。代表作は、『森の木琴』『OK Go: I Won't Let You Down』『Honda. Great Journey.』『日本は、義理チョコをやめよう。GODIVA』『POLAリクルートフォーラム』『泊まれる公園 INN THE PARK』など。
1/22に発売予定の新刊『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』(原野守弘著/クロスメディア・パブリッシング)の前書き部分をご紹介いたします。

はじめに

この本を書いてみようと思ったきっかけは、ある講演会で経験した不思議な体験に遡る。

僕は広告の仕事をしているので、広告業界向けの講演会でクリエイティブやブランディングについてよく話すのだが、たまたまある講演を聞いたビジネスパーソンの方から「原野さんの話が面白かったから、うちの会社でまったく同じ話をしてくれないか」という依頼をいただいたのだ。しかも、同時に複数の会社から。

いずれの会社も、広告とは無関係な業種で、聴衆もクリエイティブの仕事とは関係ない、営業や経理、開発者の方々だった。あまり自信がなかったのだが、せっかくご依頼いただいたので引き受けることにした。そして驚いたことに、これらの講演会が非常に好評だったのだ。

これには僕自身が一番驚いた。数年前から、この本の編集者である古下頌子さんに「一般的なビジネスパーソン向けのクリエイティブ入門書」という企画をいただきつつも、なんとなく確信がもてず、気が進まなかったのだが、その体験がきっかけとなって一気に書き上げたのが、本書だ。


この本は、「ビジネスパーソン」や「クリエイティブ初学者」のための「クリエイティブ入門書」だ。

クリエイティブな仕事のプロセスは、一般的なビジネスパーソンからは「ブラックボックス」のように見えることが多い。しかし、実際は「ブラックボックス」ではなく、そう見える人は「目を閉じている」だけ、というのが本当のところだ。本書のひとつの目的は、この「開眼」を体感してもらうことにある。

また、ビジネスパーソンにとって、クリエイティブの世界は一見、排他的に見える。「クリエイター」と呼ばれる人々は、ここちよい仲間うちのコミュニティの中で過ごし、その中だけで通じる言語で話し、外側の人々に対しては少しよそよそしい。実際のところ、これは単にシャイだったり、ナイーブなだけだったりするのだが、一般の人にはそうは見えない。

僕自身が、その「疎外感」を経験してきた。

今でこそ僕はクリエイティブディレクターとして活動し、「クリエイター」と紹介されることも多いのだが、これは34歳以降の話だ。それ以前は、クリエイティブの外側の世界で、まさに「ビジネスパーソン」として生きてきた。

具体的には、広告代理店に勤めてはいたものの、メディア部門に在籍し、媒体の枠を売る仕事をしていた。10年以上セールスを経験し、トップセールスになったこともあるのだが、ある日キャリアを変えたいと考え、ちょっとした裏ルートから、未経験のまま「クリエイティブディレクター」に転身した。いわば、ある日突然、「川」を渡ってクリエイティブの彼岸にやってきたわけだが、こうした経歴はこの世界ではやや異色なものだろう。

川を渡った経験からすると、「向こう側」と「こちら側」で、何が同じで何が違うかがよくわかる。本書の目的はそのことを、ビジネスパーソンやクリエイティブ初学者に対して、わかりやすく説明することにある。

というのも、僕も初学者の頃、クリエイティブの天才たちが書いた本をたくさん読んだ。今思うとどれも素晴らしい本ばかりなのだが、どの本も最初から「川」を渡った彼岸で育った天才たちが書いているので、まだそれを渡っていない僕たちには、それらの本当の意味がつかみにくいことがあるのだ。

これは、ありとあらゆる地雷を踏んで、傷だらけになりながらここまでやってきた僕だからこそ、自信をもって書けるテーマだと思う。


そして今、すべてを書き終わり読み直してみると、なぜ冒頭の僕のセミナーが広告クリエイティブと一見無関係な人たちに好評だったのか、少しわかるような気がする。

僕は「広告のつくり方」の話をしているつもりだったのだが、実際には、それは広告だけにとどまらず、音楽や映画といったエンターテイメント、新商品の開発、人材の集め方など、ジャンルを問わず、人間が何か新しいものをつくりだそうとするとき、そのすべてに関わる「人間という生き物がもつ習性」についての話だったからだと思う。

今はAIが発達して、あらゆる問題に「正解」がすぐに出る。つまり「正解過剰の時代」を僕たちは生きているわけだが、そこで、よりよい答えや、それを導く「よりよい問い」をうみだすために必要になるのが創造性だ。そしてその基礎になるのが、「人間という生き物がもつ習性」についての理解だと、僕は思う。

クリエイティブに関する本は大抵、クリエイティブな正解に近づくための「ハウトゥ」や「手法」を示すものが多いが、本書の関心事はそこにない。

本書がフォーカスしているのは、何か新しいものをつくり出すために、今を生きるために、そしてクリエイティブな問いを立てていくために、必ず求められることになる、「人間という生き物がもつ習性」の理解なのだ。

本書により、その理解を通じて、読者の活動や仕事がよりクリエイティブで、より豊かなものになっていくことを、筆者として心より願っている。

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いかがでしたでしょうか。

下記は本の宣伝のサイトですが、大胆にも「森の木琴」「OK Go: I Won't Let You Down」「Honda. Great Journey.」「POLA リクルートフォーラム」などの作品の「元ネタ」を紹介しています。

本の中では、そこから作品にいたるまでの考え方やプロセス「クリエイティブ必勝法」なども紹介しています。ぜひ、お手にとってみてください。そして、周りの人にもお勧めいただけると嬉しいです。

https://introtocreativity.com/