うつうつさんの薬膳

 うつうつさんは別名「ため息タイプ」です。
 中医学の考えでは、我々生き物の体内では「気・血・津液」の3つの物体が、ほどよい量あって適度なスピードで動いているのがいいとされています。このうち、ため息に一番関係するのは「気」です。ため息が出るときは、この気の巡りがうまくいっていないと考えます。気がうまく巡かず詰まっていて、それをどうにか動かしたくて、ため息という力技を使うイメージです。
 ため息をつくと幸せが逃げるなんて日本人は言います。でも中医学の理論からすると
「ため息は、つくなら深く」
です。
 つまり、深呼吸です。気の巡りが悪いなら、呼吸を利用して巡るようにしてやろう、こういうことです。
 私たちはふだん、思っているより浅い呼吸しかしていません。その浅い呼吸で得たわずかな気で自転車操業をしているために、ため息が出ることもあります。この時などは、その後に吸う息を多くしないと、ますます足りなくなってしまいます。
 ため息はその状態を伝えてくれる、あくびと同じようなサインの一つだと思って、大いに活用しましょう。
 また、気の量が少なくても滞りやすくなります。気は電車ごっこのように連なって流れると、スムーズに巡っていけます。足りないとこれが切れてしまうので、巡りを良くするには量も適度になるようにしたいです。

 気のめぐりが悪くなる原因は、
 ①気のポンプ機能が低下
 ②経絡に何かある
 ③寒邪による凝滞
が考えられますので、それぞれに合うチカラの物を使います。①には疏肝理気、②通経や理気、③散寒や補陽や温中などです。詳しく見ていきましょう。

気が詰まる仕組み

①気のポンプ機能が低下
 気のポンプは肝です。飲酒や長期の服薬、怒りの感情などで肝は傷つきます。また、肝に火邪が入ったりしてポンプ機能がオーバーヒートしてしまうと、巡らせる機能が落ちてしまいますので、そちらも気を付けると良いです。こうなると、瀉肝火や清肝なども使います。
 このパターンは、「イライラ」の感情との関係も深いので、そちらもご覧ください。→「イライラさんの薬膳」
 また、肝陽や肝火はなく、物理的・精神的に窮屈な環境などにより肝が抑え込まれてポンプ機能が低下する場合もあります。この場合は、火や熱は関係ないので、ポンプ機能を上げるものを使います。疏肝です。
 疏肝するのと同時に理気を使って、経絡や体の各部分を流れている気の流れをスムーズにすることも考えましょう。

②経絡に何かある
 「何かある」という時は、邪か痰か瘀血をまず考えます。どれがあるのかは、他の症状などの情報を集めて弁証しましょう。一先ずは通経してみるというのも手かもしれません。
 痰が在る方が多い気はします。その場合は化痰利水です。湿邪がある場合は袪湿。この2つがあると厄介です。なかなかどいてくれません。
 また瘀血がある方も多いです。破血活血をして、ついでに理気もしておくのが良いです。
 各邪気には袪邪を。寒邪がある場合は③にも繋がっていきます。

③寒邪による凝滞
 自然界では、色々なものが寒さで固まりますよね。一番身近なのは、水が氷になることでしょう。また、お料理では、脂の部分が冷えると白く固まります。
 気も同様に寒さで固まります。寒い邪があったり陽が足りずにすごく冷えたりすると、気の塊が出来て、そこで詰まってしまうのです。気が詰まるおかげで、気分が乗らなくなる(動きが悪くなる)。気が動かなくなってくると更に「気分が上がらなく」なってきたりもします。

 ちょっと話がそれますが、気の巡りが悪い時、色々な症状に繋がりますが、気が溜まってしまっている部分には痛みが起きることもあります。これを、「不通即痛」と呼び、血や津液の滞りでも痛みが起きます。
 たとえば、頭のあたりに気がたまっている場合、張ったような頭痛が起きます。お腹が張って痛みまで出ることもありますよね。これもお腹の辺りに気が溜まっているせいと言われます。
 また、気はエネルギーの塊なので、熱を持っています。通常通り体を巡っている場合は、気の熱のおかげで体温が保たれているのです。ですが、気がどこかにたまってしまうと、その部分は熱をもち、気が足りていない箇所は冷えてしまいます。たとえば冷えのぼせがあります。気が足りない場合、温かい気体である「気」は上に上りがちです。頭がのぼせて、足元が冷えてしまう時は、気が足りないことが原因の場合もあります。
 肝の辺りで気が滞ってしまうのを、肝気鬱結と言います。このページの①にあたります。この時には肝のある辺り、右わき腹から脇の下にかけてが張ったような感じして、ひどいと痛みます。女性で、生理前に乳房が痛くなる方は、これの延長の場合もあります。よく観察してみてください。

 気の巡りの悪い時、本当は肺にアプローチが必要な場合もあります。肺は現代医学と同じく「気」の出入り口です。他にも、体内の水分をきれいにする働きもありますが、これも現代医学でも言われていることです。(体液のpH調整)肺が弱っていれば、気がうまく取り込めないし、出すべき気がうまく出ていきません。出口が詰まれば渋滞が起きるのは当たりまえですよね。

 更に込み入ったパターンもあります。
 何かの症状が出ている場合、分かりややすく出ている症状を改善する方法と、その症状の原因をなくす方法があり、どちらも一緒に進めていくといい場合が多いです。体の中で何が起きているのかを分析する手法が、中医学の基本理論で弁証といいます。
 ここまでは、感情と原因を一対一で対応させてみてきました。が、実際には、イライラとそわそわが合わさっていたりするのです。しかも、イライラが先かそわそわが先か、分からないことも多いです。
 問題を解決する時に一番大事なことは、いくつか解決策が見えていたとしたら、まずは迷わずどれかをやってみる事です。根本原因がAかBか分からないから何もできない、何もしない、という判断はお勧めしません。やってみて、これはAだったな、Bの方が可能性高いな、という風に軌道修正すればいいのです。
 ただし、本当にいくもの原因が絡んでしまっている時は、専門家に相談しましょう。お近くに、いい漢方医さんや漢方専門薬局があるといいですね。
 それでは食材の紹介です。

食材の紹介

 気の巡りをよくするには、肝の疏泄を助ける疏泄のチカラを持つ食材はイライラのページを参照してください。
 理気をするには、かんきつ類や根菜類と覚えておくと便利です。それ以外には、ピーマン、らっきょう、苺があります。スパイス系だとフェンネルやナツメグも気の巡りを助けます。
 コンビニでお茶を選ぶ時にはジャスミン茶がおススメです。お茶でおススメなのは、玫瑰花というハマナスの花の蕾も良いです。ジャスミンと玫瑰花の組み合わせで二花茶という名前の古典レシピがあります。見た目も華やかでかわいいですし、雄々しい社会のストレスから解放されるのにお勧めです。写真は玫瑰花と蓮心です。

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 気絶による気の滞りには、気を補う食材と脾を元気つける食材も大事です。脾が弱っている場合が多いので、少量でも補気できるものが良いです。山芋、大豆、キノコ類、などがあります。
 山芋は補気のチカラが強いのに、加熱すれば更に消化も良く、脂がないので負担が少ない食材です。キノコも補気のチカラが強く胃腸への負担が少ないので使いやすいです。大豆はその点では、少し食べ過ぎるとお腹が張るので劣りますが、牛肉などに比べると補気のチカラと胃腸への負担の軽さで優秀と言えます。

 通経の食材としては、イカと紅花です。特に紅花は活血のチカラも強いですし、お米を炊く時に混ぜたり、紅茶と一緒に淹れたりで楽に使えます。うつうつさんのうち、顔色が優れない、しみやアザができやすい、という方は紅花おすすめです。(妊婦さんは使わないでください。)
 破血の食材はすっぽんとやつがしらです。手に入らない……。なので、やつがしらに似ていて活血のチカラを持つ里芋で様子見をすることになります。
 痰が経絡に詰まっている場合は、化痰と利水をします。両方のチカラを持つのはコールラビと人参です。写真は紫のコールラビ。緑のものもあります。

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 入手しやすいものでは、玉ねぎや海藻類があります。玉ねぎとワカメのレシピを載せてありますのでどうぞ。名付けて化痰和え
 また、桂花と言って金木犀の花を乾燥させた素材があります。金木犀の甘い香りがするお茶になります。先に書いたジャスミンや玫瑰花と組み合わせても美味しくいただけます。

 入手できるものから試してみてください。お茶に出来るものは取り組みやすいかもしれません。家族と関係なく、自分だけで試せるので。
 何はともあれ、実践ありきの学問です。試してみながら本当に合うものを探っていかれてもいいと思います。

マガジン「こころの薬膳入門書」目次

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