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ニューヨークで暮らす大富豪の暮らしが垣間見れるパインアップル・ストート

「Pineapple Street」は今年最初に読んだ1冊。
2011年ニューヨークのど真ん中マンハッタンで起きた「Occupy Wall Street」(ウォール街を占拠せよ)という抗議活動で使用されたスローガン「We are the 99%」は、アメリカの富を上位1%が独占しているのは経済界や政界が腐敗しているからだ、という意味で富裕層への抗議として現在でも使用されているのですが、ではその上位1%の暮らしはいかほどのものかを描いたフィクションが本書。

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Fuck you money(一生働く必要のないお金)を手に入れStockton ファミリーの長女Darleyは、自分の感情に従い自身が積み上げてきたキャリアや仕事と引き換えに「母親」であることを選択しましたが、それは彼女の人生最大の犠牲でもありました。
Darleyの弟Cordと結婚し、義妹となったSashaは共働きの両親を持つミドルクラスの出身で、Sashaが婚前契約書の内容に疑問を持ちサインすることを躊躇ったためにDarleyは彼女を”Golde Digger”(金目当て)だと揶揄し、StocktonファミリーメンバーはSashaに好意を抱けずにいます。
そしてStockton ファミリーの末っ子Georgianaは恋に落ちるべき相手ではない男性を心底愛してしまい、本来の自分を完全に見失ってしまいます。

Georgianaがひた隠しにしていた恋の相手を唯一知っていたSashaは「なぜ誰にも話さなかったんだ」とStocktonファミリーメンバーから攻められたことをきっかけにSashaがStocktonファミリーに対して抱き続けていた怒りが爆発。One perenters (上位1%の金持ち)と云われた裕福な家族が次第にバラバラになっていくのですが…

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物語はDarley ,Georgiana,Sashaという3人の女性の視点から書かれているのですが、それぞれのキャラクターが実在する人物かと思うほどよく描かれています。

長女のDarleyは「家族が築き上げた富は次の世代へと繋ぐべきだ」と考え、末っ子でミレニアル世代のGeorginaは「世界の上位1%が富を独占しているせいで平等な世界が築き上げられない」と考るもののカルティエの高価なブレスレットを平気で落としたりできる金持ちっぷりを発揮。ミドルクラス出身のSashaは「お金が全てではないからこそ、家族は繋がっていられる」と考えるものの、お金で苦労した過去がありお金の大事さを誰よりも理解してる。

そんな彼女たちが唯一共通に悩んでいるのが、女性の社会的立場。
女性の社会的立場や人生そのものは30代に何を選択するかによって大きく異なる、というとても生きがいのある年代な反面、どこかで選ばなかったもう1つの人生をフト考えてしまい前へ進めない…と、道を閉ざされていた主人公たちが「私は私の道を生きる」と、自分への自信を取り戻し、急に自分の道を駆け出していく物語の後半が特に好きでした。

ところで、この物語の舞台「Pineapple Street」はブルックリンに実在するブルックリンハイツをモデルにしているようで、調べてみると日本のアパート的物件が$2.3M(およそ3億3千万円!)しかもその価格は2023年前年比でおよそ68%も上がったそう。

https://www.realtor.com/realestateandhomes-search/Brooklyn-Heights_Brooklyn_NY/overview#

このブルックリンハイツに複数物件を所有するStockton ファミリーがどれほど裕福なのかを語るには充分なナラティブで、物語の筋とは別なのですが、パンデミック以降広がり続けるニューヨークの貧富の格差を象徴しているようでもありました。

貧富の格差といえば日本でも政治家が富を独占する「政治と金」の問題があとを絶たないですが、私は国のトップには国民を豊かにしてほしいので、自身すらそれなりに豊かにできない人は能力が低いのではないか、と少し不安に思ってしまいます。そして能力が高い政治家が成功すると、後から色々付いてきたりしてしまうこともあるのではないかと。(オバマ元大統領が自伝の出版で印税数億の特大ヒットみたいな)

政治家や富裕層がお金を持っていることが悪いことなのではなく、そのお金の由来が大事なような気がします。つまり自分で稼いだお金なのかどうか。単に相続財産を食い潰しているだけでは、その人自体の能力の証明にはならないんじゃないかなぁ、とこれまた物語の筋とは違うことを考えたりした1冊でした。

因みに、著者Jenny Jacksonはブルックリンハイツ在住。本書は彼女の処女作で、女性の社会問題、階級格差、世代間ギャップなど様々なテーマを1冊にまとめ上げたライティングが大変素晴らしく、次作も楽しみな著者です。




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