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サイケデリックドラッグの可能性

マイケル・ポーランが、LSDとサイシロビン(マジックマッシュルームの中にある活性成分)がどの様に、鬱や中毒、不安で苦しんでるいる人達の不安感を取り除き、安心感を与えてきたのか研究し始めた時、彼は疑う余地などないくらい、こんなパーソナルな本を書くつもりはありませんでした。しかし、LDSとサイシロビンという注目すべき物質が、日々の生活の変化に真剣に取り組んでいる健康な人達の生活改善もし始めている、という発見をします。そして彼は「人間のマインド」の探求を、自分1人へ向けてするのではなく第3者へ向けも同じようにすることを決意しました。私達のマインドの理解や、私達”自身”の理解、そして世界の中に存在する私達の立ち位置の理解という、エキサイティングな新境地を研究する、ポーランの風変わりなアドベンチャーはこうして始まりました。

化学、回想録(メモワール)、旅行記そして歴史というユニークさとエレガントさをブレンドした How to Change Your Mind は参加型ジャーナリズムの勝利であり、苦しみと喜びを共に提供されるこの世界の中で、どうすれば私達がその瞬間にベストを尽くし、人生の意味を見出すことができるかを説明し尽くしてします。

「ポーランはページをめくる手を止めさせません...目が覚めること間違いなし」ニューヨークタイムズ

Review

ニューヨークタイムズの2018年ベスト10ブックに選ばれた、去年売れに売れまくったマイケル・ポーランの「How to Change Your Mind」とにかく面白かった!

サイケデリックドラッグ(LSDやマジックマッシュルームに含まれるサイシロビンと呼ばれる活性成分)と聞くと、なんだか人生をめちゃくちゃにしてしまうドラッグなんじゃ…と思っていたのですが、そもそもサイケデリックドラッグは重度のアルコール依存症や鬱病を改善する有力な見込みのあるドラッグ(薬)として真面目に研究されていました。

1950年代、60年代にはアメリカとカナダでは、何千人ものアルコール中毒患者の治療にLSDは使用され、アルコール中毒からの回復に大きな効果を発揮していました。

LSDを使ったセラピーセッションでは不安症状を抱えてた患者の70%、鬱状態の患者の62%に症状の改善が見られましたが、残念なことに、この結果は歴史から消えてしまいます。この結果は、セラピーをセッティングする環境を整えることが、成功の鍵を握っていて、ただLSDを使うだけでは効果は著しく減少しました。

そんな中、1960年代のLSDの崩壊が始まります。ハーバード大学で教授をしていたティモシー・リアリーが科学的価値がほぼない”実験"を行いました。リアリー達は「人間の脳は、殆ど活動していない」ということを証明するために「サイシロビンを使った脳の活動域の拡大実験」を、学生、ミュージシャン、主婦、作家、心理学者などを対象に、ムードを演出するためにデコレーションされた大学外のリビングルームで行いました。そして、実験効果を観察する役割だったはずのリアリーも、何故かサイシロビンを実験対象者達に紛れて使用していました。

その後もリアリーは”ずさんな実験”を繰り返し、結果的に大学を追い出されました。ところが、当時、反戦ムードが高まったアメリカではヒッピー達が日常的にLSDやサイシロビンを摂取しており、リアリーはヒッピー達の”グル”的存在にまでのし上がりました。

日本でも有名な、ジョンとヨーコが反戦を唱えた”ピース・ベッド”にも、なんと!リアリーは参加を求められ、ばっちり写真まで残っています。

そしてLSDが”反戦ムード”を高めさせているのではないか?という仮説が立てられ、遂に1966年にLSDは違法になり、全ての研究はシャットダウンされました。

アメリカのLSD研究者の中では、今でもティモシー・リアリーの名前はタブーとされています。彼は意図していなかったにしろ、彼の行った実験はLSDやサイシロビンを「Just say NO」「ダメ絶対」という根拠の無い危険ドラッグ扱いに落とし入れました。

LSDは鬱や不安症状、中毒症状といったメンタル的な病気に果たして本当に効果があったのか?という疑問は残ったままでしたが、脳をスキャンする(fMRI)技術が発達し、再び研究する学者達が出てきました。

サイケデリックドラッグを摂取したセッション中に、脳をfMRIでスキャンすると、デフォルテ・モード・ネットワークと呼ばれる脳の一部の活動が行われなくなることが分かりました。デフォルテ・モード・ネットワークとは何も考えていない時に、凄まじく活動している脳の一部のことで、体が受ける様々な感覚の火消し、つまり”消化器"のような役割をしていて、潜在意識として何を記憶に残すかという”フィルター”のような役割もしています。このデフォルテ・モード・ネットワークの活動が劇的に活発になると、脳は休む暇がなく、鬱や不安症状を引き起こすことが分かっています。脳のスキャンによりサイケデリックドラッグは、このデフォルテ・モード・ネットワークの活動を劇的に減少させ、脳の中を書き換える働きをすることが分かりました。つまり、鬱や不安、アルコールやタバコ、ヘロインなどの中毒症状に効果が期待できる見込みが証明されてきました。

更には、末期癌の患者がサイケデリックドラッグのセッションを1度だけ受けたことで、脳内が書き換えられ、人間だけでなく生物全てに愛を感じることができ、死を恐れず最後まで”自分”を保ちつことができた、という興味深い内容も読むことができました。

人間の脳は、過去の経験から未来の体験を導き出しているので、大人になると発想力や柔軟性に欠けると云われているようなのですが、サイケデリックドラッグは”脳の書き換え”を行うことができるので、脳を柔軟な状態にする事でクリエイティビティを増加することもできるようです。アップルのスティーブ・ジョブズはLSD愛用者であったことを認めていますし、ビル・ゲイツもマジックマッシュルームを過去に愛用していたことを認めていて、そう考えるとシリコンバレーとサイケデリックドラッグは切っても切り離せない関係だな、と思ってしまいます。

ポーランは、私が知らないサイケデリックドラッグのポジティブな面を沢山教えてくれましたが、「だから、皆んな!サイケデリックドラッグやろうよ!」という内容に全くなっていないのが、この本の凄いところです。「何故、ダメなのか。何故、いいのか。」を知っておくことが、例えば”もし自分が癌になった時にどんな風に死にたいか?”という選択肢を増やすことにもつながる、と思います。法律を作っているのは、人間なので、その法律が古くなったら変えていけるのも人間なんだ、とポーランは思わせてくれました。

そして、何より学者を含め、ポーランがインタビューした人達は90%実名を公開していて、その勇気と情熱が凄い!中にはYoutube で動画が見られる学者もいたりして、その動画がまた面白くて、こんなに一冊で楽しめる本は中々ない、といえるぐらい、この本を作ったポーランに謝意を表したいです。面白かった!

Bibliography:マインドの変え方








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