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もう一人の「日本代表」(#001) プロローグ

何かを信じておきながら、それに生きない──それは不誠実というものだ。
To believe in something, and not live it, is dishonest.

目的を見つけよ。手段は後からついてくる。
Find purpose, the means will follow.  

(マハトマ・ガンジーの言葉より)


 2013年2月半ばのある日のこと。朝刊の小さな記事が僕の目に留まった。「時の人」を簡単に紹介するコラムの見出しにはこう書かれていた。
〈サッカーのインド代表に選ばれた 和泉新さん〉
 わずか500字ほどの記事の内容をさらにかいつまんで書くと──。

 山口県下関市でインド人の父親と日本人の母親の間に生まれた男の子が小学3年の時サッカーを始め、プロを目指す。紆余曲折の末、インドに渡ってインドのプロリーグで初の日本人選手としてプレーするようになった。最近、日本国籍を捨ててインドの国籍を取り、サッカーのインド代表となって国際試合にデビューした。

 記事にはその男の写真が添えられていた。トレーニング・ジャージーに身を包み、サッカーグラウンドに腰を下ろして笑顔を見せている。なかなかのハンサムボーイだ。浅黒い肌、濃い造作。どちらかと言うとその顔は男の持つ2つの血のうちでインド寄りであるように僕には思われた。
 記事を読み、写真を見つめるうちに、どんどんこの男のストーリーに惹かれていった。僕はインドには行ったことがなかった。インドにプロのサッカーリーグがあるなんて想像したこともなかった。くだんの記事に「父とは疎遠でインドに思い入れはなかった」という記述があり、そのへんの事情も知りたいと思った。
 その記事を読んだ日から2ヵ月ほど経った4月半ばのある日、僕はインドのプネーに向かった。プロサッカークラブ、プネーFCの一員としてインドリーグ(Iリーグ)のシーズン終盤を戦っている和泉新に会うために。

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