人並みの交差点、渡り損ねて エピローグ
「ユウキさん、今日何時に帰ってくるんだっけ?」
僕はソウイチロウからのメッセージに返信をして、顔をあげる。
今日も駅には人が多い。これだけいると、何もしなくてもそこにいるだけで心が疲れる。だからといって、僕にできることは何もない。出来る限り早く通り過ぎるだけだ。僕が歩いていたら、誰かが肩を叩く。誰だろう?そちらを向いたら、マコトがいた。
「よっ、ユウキ。お疲れ」
「お疲れ。マコト今日は早いじゃん」
「なんだよ。オレがいつも遅いみたいじゃん。ってその通りか」
「まあね。何かあったの?」
「時間ピッタリに来るヤツと付き合ってたら、つい早めに行動する習慣がついてさ」
「えっ、新しい恋人?」
「今のところどうなるかわからないけどな。ユウキが紹介してくれたところで見つけたんだ。サンキュ」
「そっか。良かったね」
「おいおい。マコトが時間通りだなんて今日は雪か」
後ろから声がする。振り返るとシュウジだ。
「おっ、シュウジじゃん。今日も仕事帰りか」
マコトが尋ねる。
「いや。今日は勉強会に行ってて、その帰りだ」
「相変わらず真面目だなぁ。何の勉強してんの?」
「ちょっと心理学の勉強をしててな」
「へぇ。お前そういうの興味あるんだっけ」
「最近興味を持ってさ。勉強してるんだ」
「へぇ。会社辞めんの?」
「何でそんな話になるんだよ。まあ、そのうち大学にも行って、資格を目指すのもいいかもな」
「ふぅん。シュウジ、なんか変わったな。男か?」
「お前はいっつもそればっかりだな」
シュウジはため息をつく。
「てめぇ」
放っておいてもケンカはしないだろうと思うけれども、僕は二人の間に入る。
「それにしても、こんな風に駅で揃うなんて珍しいね」
「だな」二人共、同意する。
目の前の信号が点滅しはじめた。
「あっ、信号変わっちゃう。どうしようか」
「走るか?」マコトが言う。
「いいんじゃないか。そんなに急ぐ時間じゃないだろ」シュウジは答える。
「えぇ?俺、待つの嫌なんだよな」マコトが抗議する。
「お前らしいな。どうしてもっていうなら別の道に行こうぜ」
「別の道?」
僕とマコトはシュウジに聞き返す。
「ああ。今日の店に行きたいならこの交差点を渡る必要ないぞ。こっちから行けばいい」
「へぇ、そんな道があるんだ。じゃあ、そっちから行こうぜ」
マコトの言葉に僕もうなずく。それを見て、シュウジは歩き出した。僕たちはシュウジについていく。
交差点で信号を待っている人たちを置いて。
ユウキ編はこちら
マコト編はこちら
シュウジ編はこちら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?