人並みの交差点、渡り損ねて シュウジ編5

誘われて、参加してみた心理学の勉強会は思ったよりも充実したものだった。懇親会に参加したシュウジに話し掛けてきたのはーー

シュウジ編1はこちらから

 講座が終わって、懇親会をする事になった。自由参加なのにほぼ全員が残っているようだ。青山が忙しそうにしていたので俺は声をかける。

「青山、何か手伝えることはあるか?」

「シュウジさん、あざーす。じゃあ、この皿を各テーブルに持っていってもらっていいですか」

「オッケー」

 目の前に広げられている軽食が乗った皿を持って、テーブルに置いていく。他のメンバーも自主的に手伝ってくれたので準備はあっという間に出来た。青山が簡単に挨拶をして会が始まると、笹部さんがテーブルに回ってきた。

「今日はお疲れ様でした」

 笹部さんがコップを上げたので、その場にいたメンバーはそれに合わせる。

「今日の講座、いかがでしたか」

 その言葉に、一人の男性が手を小さく上げる。

「勉強になりました。ところで笹部さん、質問いいですか」

「いいですよ。なんでしょう」

「オレ、彼女がいるんですけど相談された時によく怒られるんですよ。上手い相談の乗り方ってありますか」

「なるほど。たとえば、どういう時に彼女さんは怒るんですか」

「うーん。最近仕事が上手くいってないみたいで、いろいろ愚痴を言ってるんです。だから対処法を提案するんですが、'そういうの求めてない'って言われちゃうんですよね」

 男性は頭を掻く。

「ふんふん。大切な彼女だからこそ、何とか役に立ちたいですよね。それなのに否定されると訳がわからないですよね」

「そうなんですよ。こっちは一生懸命考えてるのに」

「なるほど。でも、それが間違ってるのかもしれませんよ」

「えっ?」

 男性はムッとした顔をした。それを見る笹部さんの目が光ったかのような気がする。

「今、'それが間違ってる'って言われて抵抗を感じませんでしたか」

「ええ、まぁ」

「そうなんです。否定されると人間って防衛本能が働くんです。'お前はダメだ'って言われたら'そんなことない'って言いたくなりませんか」

「確かにそうですね」

「で、アドバイスする事が否定的なニュアンスを与えることがあるんです」

「どうしてですか」

「'こうした方がいい'っていうのは、'今はダメだ'ってことでもありますよね。'そんなことない'と防衛本能が出てきちゃったら、せっかくのアドバイスも効果が弱まります」

「そうかもしれませんね。でも、それじゃあ何て言ったらいいんですか」

「まずは相手の思いを受け止めて上げることです。'それは大変だったね'とか。'そういうことを言われたら嫌な気持ちになるよね'って感じで。共感する事で防衛本能が出にくくするんです」

「うーん」

「あとは彼女の問題をあなたが解決しようとしないことですね」

「それもダメですか」

「ダメじゃないんですが、人って自分で決めたって思った方が納得感が高まるんです。だから、手助けをするって気持ちで接してみてください」

「手助けってどんな感じでしょうか」

「そうですね。たとえば、'悪いと思っていることに良い点はないのか'っていう感じで、別の視点を提示するとか。その時、出来るだけ自分の感じたことを伝えてみてください」

「どうしてですか?」

「'普通'とか'みんな'って相手に'自分はおかしい'と感じさせてしまう恐れがあるので」

「ちなみに、アドバイスを求められたらどうしたらいいんですか」

「相手から聞かれたら、その時は答えてもいいですよ」

「わかりました。ありがとうございます。ところで心理学の勉強ってやっぱり大学で研究されたんですか」

「はい。とはいっても、最初は本を読んだり、もっとお手軽なところで勉強したんですけどね」

「参考になりそうなものを教えてもらえますか」

「いいですよ。後で事務局の人に資料を渡しておきますね。他にも知りたいことがあれば、連絡頂ければお手伝いしますんで」

 笹部さんは、そう言って隣のテーブルに移っていった。俺はもらった資料をしまうために荷物を置くスペースへ向かう。自分のカバンを漁っていたら、後からハジメさんが来た。

 彼が「お疲れ様です」と声をかけてきたので、俺も同じように返した。

「今日の講座、良かったですね」

「ええ。同業の勉強会に来たのは久しぶりなんですが、来て良かったです」

「ですね。今日はどなたの紹介でいらっしゃったんですか」

「青山です。会社の後輩なんですよ」

「ああ、シュウジさんは青山くんの会社なんですね。ところでーー」

 ハジメさんが声のボリュームを下げながら言葉を止める。

「青山くんからゲイの先輩がいるって聞いたんですが、それってシュウジさんですか」

 青山ぁ。勝手に社外の人に言いやがって。まったく。俺がため息をつくとハジメさんは焦ったように言葉を続ける。

「あっ、違うんです。僕もゲイなんですよ。その話を青山くんにしたら、自分の会社にもいるって聞いて。俺が言わせたんで、青山くんは悪くないです」

「そうですか。まあ、俺も敢えて言わないだけで隠してはないんで大丈夫です。ただ、相手が知ってる時の微妙な雰囲気が苦手で」

「わかります。僕は基本オープンにしてるんですが、受け止め方に困ってる人を見ると、言わなくても良かったかなって思っちゃうんですよね」

「まあ、仕事には関係ないですもんね」

「ええ。でも、オープンにしているお陰で業界にいるゲイとはよく知り合いになれるんですよ」

「へぇ」

「最近は何人かで集まって、飲んだり遊んだりしてるんです」

「面白そうですね」

「丁度、近々集まるんですが良かったらシュウジさんもいらっしゃいませんか」

 どうしようか。あまり知らない人の中に行くのは正直気まずい。でも、この会に来たのも人間関係を広げるためだ。今日勉強した'人と仲良くなる方法'を試してみるにも良いかもしれない。

「わかりました」

「良かった。じゃあ、連絡先教えてくださいよ」

 俺たちはスマートフォンを取り出して、お互いの連絡先を交換した。

 さて、どうなることやら。


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