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山口尚『人が人を罰するということ』というタイトルに惹かれて:犯罪者への応報だけでは本質を見過ごしている

このタイトルに惹かれて、ついつい衝動買いしてしまった。

なぜなら、このnoteでも何度も書いているように、私は生まれの偶然性に関心があるからだ。

所与としての生まれで、ある程度の人生の方向性が偶然的に決まってしまうなら、人を罰することにどれほど意味があるのだろうか?

犯罪者は、必ずその犯罪を犯した背景がある。その背景の根は、神秘的な偶然性である。

もちろん、人には自由があり、辛い過去があっても非行に走らずまともに生きることもできる。でも、やはり辛い過去があったらならそれが原因で何かしら因果関係のある行動が促されると考えた方が自然である。

法律は詳しくないが、犯罪を立証するための1つの要件に「規範的障害を乗り越えた」というようなものがあったと覚えている。

つまり、犯罪と認定するには、容疑者が「これはやったらダメなことだが、やっちゃえ!」という心理があったことを要する。精神疾患者が免罪になるのはこのためだろう。

さて、そういう理由で本書を読み始めた。
序盤で1つ気になるところがあったので、引用してコメントしたい。

本書では、刑罰の正当性について「抑止」効果だけでなく「応報」という理由も重要である、ということを主張している。

そこで、「応報」について次のような説明があった。

応報は過去向きだ──というのは刑罰という制度を理解するさいには無視できない点である。例えばAが「いまさら自分を死刑にしても、殺された者が帰ってくるわけでもないし、何の意味もないではないか」と抗弁したとしよう。だが、応報の観点から言えば、未来向きの利益がひとつもなくてもAを罰することには意味がある。なぜなら、この人物を罰することで、彼の過去の行為によって生じたアンバランス(Aが他人を一方的に害したという状態)が是正されるからだ。このように〈応報〉の機能はすでに生じた悪にかかわる。そしてまさにこの点を理由に、「刑罰によって将来における利益が増大することはない」という理路は、刑罰の有意味性にたいする決定的批判たりえないのである。山口尚. 人が人を罰するということ 自由と責任の哲学入門 (ちくま新書) (Kindle の位置No.386-389). Kindle 版.


太字にしたところに注目してほしい。

ここに私は疑問を覚える。
(まだここまでしか読んでいないので、その後にもしかしたら異なる展開を見せているかもしれない)

というのも、ここでいう応報の原理をシンプルに言えば、AがBを殺したなら、Aも殺されるようなダメージがないとアンバランスになる。だから罰することが必要だ。ということになる。

応報原理をそもそもから否定するつもりはないが、この場合、Aを罰することではアンバランスは解消しない。ということを指摘したい。

Aが犯罪者となったのは、その生まれ育ちに必ず原因があるだろう。
最近の大犯罪者となっている京アニ事件や安倍首相銃撃事件などの犯人の悲惨な生い立ちをみればわかる。

彼らを罰するだけでは根本的な問題解決にはならない。
つまり、アンバランスが解消されない。

彼らのような犯罪者が犯罪者になるために寄与した全ての人が責任を追うべきだろう。
わかりやすい話で言えば、性犯罪者の多くは幼少期に性犯罪の被害者であることが多い。であれば、幼少期にCにより性犯罪を受けたDがいるとして、D
が大人になってEに性犯罪をしたとすれば、Cを罰するというより、Dを罰するべきだという考えになるだろう。

また、Dが幼少期にそのような被害を受けたことで、性格が歪み、周囲の人から冷たくあしらわれたかもしれない。それによりスパイラル的にマイナスの人生を歩んでいっただろう。そうであれば、その冷たくあしらった彼のクラスメートやバイト先の人々にも責任があるのではないか?

その因果関係を全て辿るのは、この複雑性のカオス社会において不可能。

ではどうすればいいのだろうか?

1つのジャストアイデアでは、むかしの5人組のような連帯責任を、情報化社会にアレンジしたもの。

ある人が属したことのあるコミュニティ、共同体データを記録し、そこでのコミュニケーションの深さをポイントなどにして、ある人との関係性を見える化する。同じクラスで1年過ごしたがほとんど話したことがなければ、1ポイントだが、毎日登下校を一緒にしていれば30ポイントなど。

そして、Dが犯罪を犯したら、そのポイントがある人がリスト化されて明らかにされる。そのポイントがあることで罰せられるわけではない。もちろん、ポイントがあってもむしろ褒められるべき人もいるだろう。
ただ、関わりがあった人が社会的に犯罪を犯したことをありありとしっかりと認識する機会を与えることは重要だ。

それだけで何が変わるかわからない。

この方向性で何かもっと良い方法があるような気がするので考えていきたい。

以前この領域で以下のような記事も書いていた。


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