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【外国語教育とDX】加速する3領域

外国語教育におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、何か?

まず、DXとはデジタル技術を使って業務効率を改善したり、ユーザーへの付加価値を高めたりすることをざっくり指す。

外国語教育において、デジタル技術は何をもたらすか?

以下、東京外国語大学・教授であり、サインウェーブの顧問を務める投野由紀夫氏によるグローバル教育とDXに関する基調講演、私学6校の校長らによる実践発表を基に考えてみたい。

外国語教育とDXの本質

まず投野氏により、「外国語教育に押し寄せるDX」として、DXの基盤となるプラットフォームとして以下の4つが挙げられている。

「クラウド」「ビッグデータ」「ソーシャル技術」「モビリティ」

さらに、DXを加速させる新しい技術として次の5つが示されている。

「セキュリティ技術」「xR」「IoT」「AI」「5G」

これらの技術を外国語教育に適用してDXが推進される分野として、以下の領域が考えられるという。

「自動翻訳・通訳機」「セキュリティ万全のオンライン英語入試」「xRによるバーチャル英会話・バーチャル留学体験」「教材・教具のIoT化」「AI学習」「ロボット教師」「オンライン授業」

そのうえで、投野氏は「外国語教育に適用するときには基本的に押さえておきたいポイント」として次の3領域への応用を想定している。

以下、1つずつ内容を確認する。

1つ目:予備校や塾による講義型・説明型コンテンツのオンデマンド化

これは、要するに、その分野においての専門性があり且つ教えるのがうまい人物が、知識教授の授業を撮影し、場所と時間を問わず学習者に提供するというものであろう。これは、もちろんこれまでもあったが、「クラウド」や「5G」などでより快適に提供できるようになるであろう。

ただ、私の懸念点として、まだ教師が手取り足取り直接授業をやったほうがいいと考えている人が多くいることだ。

これについては、より解像度を高めて考える必要がある。ある程度、自ら学べる人にとっては圧倒的に録画であっても優れた教師のビデオのほうが効率がいい。

一方で、集中力やモチベーションに欠けている学生は、目の前にファシリテートしてくれる人間が必要である。

2つ目:インプットとアウトプットを大量にこなせる環境をDXで作るアプローチ

これは、おそらく、理論と演習を分け、理論は、学習者の出来具合により問題を自動で調整する学習コンテンツであり、演習部分をAI教師などでモデレートをするというものであろう。これも重要。

3つ目:4技能で使えるためのスキルトレーニング

これは、トレーニングというより実践に近いものをAI教師などでモデレートで行うものだろう。

また、投野氏は次のような考え方の重要性も示した。

また、「機械翻訳の精度が上がってくると、外国語教育はいらないという人が必ず出てくると思う」と語り、国語教育・英語教育・外国語教育に携わる人たちが「言葉の教育はどうあるべきかということに対する根本的な問い」に対して回答できるようなしっかりとしたロジックが必要だと指摘。

この問いについて、私はこちらの記事でかなり言語の本質的な側面から考察しているので、是非参考にしてみていただきたい。

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さて、より本質的に外国語教育におけるDXについて考えていきたい。

外国語教育の本質的課題が、「語学力を高めること」であるなら、本当にそれを実現できるようにすることがDXが資するべきところだ。

ここでDXに期待されるのは、私は3点あると考える。

①語学目的と測定テストの一致(低コスト)

先の記事で投野氏は、語学力の定義にCEFRを提案している。

学校での語学教育については、「『CEFR』のような、しっかりとしたレベル設定とその内容をきちっと見取りながら、かつそれを海外研修等のさまざまな使う機会、体験的なものと一緒にあわせて醸成していく必要がある」と説明。DXでうまくいったところ、DXしなかったらうまくいったところ等、効果検証していくことの重要性を強調した。

これは、EUの歴史とともに作られた由緒正しき外国語のレベル体系である。

TOEFLやTOIEC、中国語でいえばHSKなどがCEFRに準拠している。

だが、こうした民間の言語試験も含めて、往々にして目的である語学力の測定をできていないことが多い。

つまり、目的は会話できることであるなら、それと直結した測定方法が必要である。これを目的関連性と呼ぼう。

測定テストは、「目的関連性」と「コスト」のバランスである。

OPIというスピーキングテストがあるが、これは目的関連性は高いがコストが高すぎる。

このあたりを最適化することが語学企業の課題である。

②学習者のレベルや状況に最適な学習コンテンツを提供

次に、この①で定められた目標を目指して、何をどれくらいどのようにやるべきかを整理した、学習者個別のカリキュラム作成と更新がAI(DX)に期待される。

これは、以前の記事でも書いたが、初期値の設計をするものの力量に大きく左右される。

また、このカリキュラム外で学んだことや経験を考慮できないのが難点である。

③学習時間を確保させる

最後に、DX化が進んでも、モチベーションの問題が残る。

DXでモチベーションは扱えるのか?

いくら①と②が最適化されたとしても、インターフェイスがスマホやPCであれば、そこからの連絡は全て、普段のスマホ通知と同様であり、重要度は低く、スルーされる可能性が高い。

ここは人が介入しなくてはいけないのでは?と私は考えている。

もちろん、AIで行けるという線で探求も必要だろう。

外国語教育のDXは、どういったプレイヤーが担うのか

これはおそらく、学習者とのコミュニケーションデータを蓄積できる学習塾が担う可能性が高い。

英語なら、イングリッシュカンパニーやプログリット、ライザップなどであろう。中国語なら、PaoChaiオンライン中国語コーチング等。

なぜなら、

こうした塾は、学習者との連絡が頻繁にあり、また、テストも多く、学習記録というデータが豊富にあるからだ。

何をどのようにどれくらいやって、どれくらいのレベルになるか、その過程での問題はどこか、などについての知見がある。

だから、目的に一致した明確な目標を設定し、行動データを関連づけて最適解を見つけることができるだろう。

レアジョブやDMMなどのオンライン英会話では、仮にレッスン中の様子をデータで取得できたとしても、その他の学習などについては把握できず、測定テストも定期的ではないだろうから、あまり有意義な知見は引き出せないだろう。

こうしたオンライン英会話は、英語学習における付加価値の低いコモデティになってしまう可能性が高い。(レアジョブやコーチング式も最近復活しているが)

ただ、オンライン英会話は、コーチングのトレーニングにオンライン英会話を取り入れることで上述の③の問題に取り組める可能性がある。

まとめ

以上、外国語教育が取り組む本質的な課題が語学力を伸ばすことであるなら、DXが解決すべき課題は3領域である。

まず、語学目的と一致した測定テストを低コストで提供できるようにすること、次に、カリキュラムを学習者個人に最適化し更新すること、最後に、学習者のモチベーションを保ち学習時間を取らせることである。

これに取り組むべきは民間で、学習者の学習過程に深く関わっていて知見をもっている企業になるだろう。

私もこのトレンドを抑えつつイノベーションを起こしていきたいと思う。

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