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【マトリックスで一番興味深いシーン】人間は楽園を望まず、不幸や苦しみを望むことの真意

往年の名作、マトリックス。

今でも覚えているが、僕は中学一年生か二年生の頃、友達と上野の映画館で観た。何がなんだかわからないままに「よかったな」と適当に友達と濁してほぼ感想を述べずに終わったあの頃を。

その後、何度も観てどんどん理解が深まっていったマトリックスであるが、僕が最も興味深いと感じるのは後半にエージェント・スミスがモーフィアスに語る次のシーンだ。

ここで人間の本質を規定する重要な発言がなされている。

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3行目のDid you knowからのところを次のように翻訳する。

そもそもマトリックスは人々が苦しまずに幸せに暮らせる完璧な世界として設計されたのを知っているか?それは悪夢だった。そして、プログラムは拒絶され中の人々は絶滅した。。あるものはプログラミングが不十分で失敗したと信じた。しかし、私は、人類とは不幸や苦しみがないと現実だと思えない種なのだと思う。だから楽園は人類の原始的な脳には悪夢となり拒絶され、そしてマトリックスは今のように作り直された。

これは面白い。

マトリックス、今われわれが現実だと思っている世界、つまり最もリアリティのある世界は、当初はあらゆることが満たされる楽園として設計されたのだ。今、世界中でなにかに苦しんでいる人は、バーチャルリアリティで完全な世界である楽園でリアルな体験をできて生きることができるなら飛びつくのではないか、と思ってしまう。

しかし、人間はそういうものではない。

すべてが満たされることは今の在り方とは根本的な次元が異なる。

つまり「現実」とは苦しみや不幸が条件として現れるものなのだ。すべてが満たされる意識状態は、そもそも意識のような自覚がなくなってしまうのではないか。

哲学者が存在や時間を分析するときもこのような結論になることがある。われわれの存在は何かを我慢したり、何かを悔やんだり、待ち遠しく羨望することで時間概念が生じ、自覚的な現実が生まれるのである。

われわれは今生きる世界において不幸や苦しみがない世界を理想の世界と描くが、実はそのような今の在り方は不幸や苦しみが条件となっているのだ。

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