中国ビジネス成功に必要な3要素〜中国事業の営業利益約900億円のユニクロから学ぶ①コンセプト明確化②日本ならではの強みを活かす③実行体制

私は2012年から日本のコンテンツ(ゲーム、アニメ、映画等)を中国に展開する仕事を行っていて、5年間中国で生活してきた。なので、中国ビジネスで成功するには?とよく聞かれるので、それに対する自分の答えを書く。

自分自身、中国ビジネスで成功といえる体験はしていないが、失敗はしているので、その経験を基に成功例のユニクロを分析する形でまとめる。中国のトレンド情報を追うことなど全く無意味なので、本質的に重要な3要素を理解してほしい。

まず、言葉の定義から。

「中国ビジネス」とは「中国人に商品・サービスを提供し人民元を稼ぐビジネス」と、

「成功」を「数年に渡り1億元単位の利益を出し続けること」

としよう。

まっさきに思い浮かぶのはユニクロである。

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IRなどで中国市場での成功を思わせるような情報発信をしているところもあるが、中国事業セグメントの業績などを発表していない場合判断が難しい。

例えば、大手ではDeNAが中国事業には何十億も投資して相当に力を入れている。配信しているゲームアプリは売上はある程度出ていると思われるが、収支は公開されていない。もちろん、サイゼリヤ、重光産業(味千ラーメン)、ダイキン、ハウス食品なども一定の成功をしているだろうが、ファーストリテイリング(ユニクロ)は圧倒的な存在感がある。

ユニクロの場合、以下の成績を見れば明らかだ。私自身、2012年から南京、上海で生活をしていたが、ユニクロの大陸での認知度は高く多くの人が好んで着ていた印象がある。もちろん、うまくいったかどうかはそれまでいいくらの投資をしたのかにもよるが、まずはそこは措く。

グレーターチャイナ(中国本土・香港・台湾)の業績

2019年

売上:5,025億円

営業利益:890億円

店舗数:807

2018年

売上:4,398億円

営業:737億

店舗数:726

参考:ファーストリテイリングのIR

結論から言うと、中国ビジネスの成功で必要な要素は以下の3つ。

1.商品・サービスのコンセプト明確化(ターゲティングとブランド化)
2.日本ならではの強みを活かす
3.実行体制

これは、ファーストリテイリング中国のCEO潘寧氏のインタビューなど、ユニクロの中国展開に関するウェブ上の記事を基に考察した結果。

1.商品・サービスのコンセプト明確化(ターゲティングとブランド化)

ユニクロは、中国自体の進出は2001年だが、2005年の香港ユニクロの成功までは大きな成長はなかったようだ。その後、香港での成功を機に中国大陸での取り組みを改め、成長の軌道に乗り始める。

要するに、ユニクロ香港の成功は、利用客の体験、サービス、きめ細かさを重視した結果であり、最も重要なのはブランドのターゲティングを正確に定義できたからだ。http://www.chinanow.jp/2014/03/01/article6477/

ということで、香港ユニクロのCEOであった潘寧氏がライバルとの差別化という視点で現場を見ることができており、自分たちが誰に何を提供しているかを定義できたということだ。

一般的な日本企業の中国進出というと、マーケティングパートナーに戦略を任せがち。どのようなプラットフォームやメディアの特性を言語化し、どういう風に使っていくかをキレイにまとめたマーケティング計画を作る。中には、取引先のプラットフォームやメディアのキーパーソンをリスト化し、贈り物をしたりすることすらあるが、本質はそこではない。

2.日本ならではの強みを活かす

香港での成功は、ユニクロの中国戦略を見直すきっかけとなったという。中国大陸での行き詰まりの原因は日本の経営方針である「より多くの人により安く商品を提供する」をそのままやろうとしていたから。しかし、関税の問題があり、そうはできなくなった。そこで潘寧氏は次のように語り、接客サービスなど日本の強みを持ち込み、ブランドのポジショニングを再定義したのだ。

このような厳しい状況に直面し、私は考え続けた。問題の本質は一体どこにあるのか?結局、気付いたことは中国消費者は価格戦争を求めていなかった。確かに人々は値引きすると喜ぶ。しかし、もっと重要なのは、商品は彼らに何か付加価値を与えたかである。これはとても重要だ。当時まだ海外旅行はいまのように簡単に行ける時代ではなかった。そこで、我々は海外の小売で進んでいるものを持ち込むことにした。例えば接客サービスなど。これは中国消費者にとって衝撃的だった。彼らはそれに惹かれ、接客が店のセールスポイントになった。当然、日本式サービスを中国に持って来るには代価が必要だった。我々はブランドのポジションニングの再定義を行った。日本ではユニクロはすべての消費者がターゲットだったが、中国では中産階級以上のセグメントにターゲットを絞った。私が決めた戦略に販売価格を日本のより10%〜15%高くするというものだった。それはいまでも守られている。
http://www.chinanow.jp/2014/03/01/article6477/

その結果、現在では、「性价比」(日本語で「コスパ」)がとても高いブランドだと広く認知されるようになりました。次のエピソードからわかります。

 上海に住む友人の家の家政婦さんが、あるとき、こんなことをいっていた。「これから買う服はこの会社のものにしたほうがいい。洗濯してみると分かるが、ほかの会社のものとまったく品質が違う。何度洗ってもヨレヨレにならない。多少高くても、結局そのほうがトクだから、そうしなさい。私もこの会社のものしか買わないことにした」そういう状況のなか、ユニクロは低価格帯の商品よりは高いが、圧倒的に品質がよいというポジションを確立し、2000年代後半から急成長した都市のホワイトカラー層の強い支持を得た。要するに、圧倒的にコスパが高い。「おしゃれは求めないが、“まともな”ものを着たい」。そういう普通の人々のニーズに合致したのである。https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1905/20/news023_2.html

3.実行体制

では、このようなコスパのよい商品をどのように供給できたのか。それは以下のように中国のパートナー工場とウィンウィンの関係を築くことで達成したという。

それを可能にしたのが、中国のパートナー工場と1990年代から時間をかけて構築してきた生産体制だ。通常、アパレルブランドが中国の工場に発注する際は、複数の工場に見積もりを出させ、そのつど、もっとも安い工場に作らせるのが普通だ。 しかしユニクロは違う。特定のパートナーと長期間の関係を結び、できる限り高品質な服を、可能な限り低い価格で、圧倒的に速く、大量に作るかに時間をかけて取り組む。よい服を高い効率で作るためには、工場だって優秀な人材を採用、育成し、作業環境を整え、最新の設備を買わねばならない。そのためには投資がいる。発注する側が「とにかく安くしろ」「高ければ他社から買うぞ」とばかりいっていたら、それは不可能である。ユニクロは工場と率直に話し合い、「お互いに儲(もう)ける」という原則を守り、長期的に両者がノウハウを蓄積し、ともに成長力を高められる方法を模索してきた。それを20年以上もつづけてきたので、ユニクロのパートナー工場の生産力は質の面でも量の面でも、軒並み世界最高レベルに達している。だからこそ高品質で、相対的に低価格の商品を、大量に、速く世界に供給できるようになった。パートナー工場の中には世界最大級の規模に成長し、オーナーは大富豪になった人が少なくない。「自分だけが儲ける」のではなく、中国のパートナーと一緒になって成長し、儲ける。こういう姿勢が現在の中国マーケットにおけるユニクロの競争力になっている。こうした発想は日本企業として学ぶべきところが多いと私は思う。https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1905/20/news023_2.html

上記のように市場の現場と対峙し、誰に何の価値を提供するかと明確化したターゲティングをし、さらに実際に商品を供給するには、何が必要か?

実行体制だろう。ファーストリテイリング本社の考え方を深く理解し、さらにその発展に長期的にコミットする意思、中国の文化に対する土地勘が必要となる。

それを兼ね備えていたのが現ファーストリテイリング中国現地法人のCEO潘寧氏。

中国ユニクロのCEO潘寧

1968年、中国南京生まれ、北京育ち
1995年、日本大学商学部、修士課程修了(金融と経済)後、ファーストリテイリング入社
入社後は、まず店員からスタート。店舗の掃除と服を畳む毎日。
半年店長、その後1年は店舗運営
海外、主に中国でサプライチェーン構築に奔走6年間
2001年、ユニクロが中国進出を果たす。中国国内のサプライヤーと提携する形で小売店舗を展開
商品生産の担当
本社でM&A業務
2005年中国市場の責任者になる。香港支社のCEO

店員からスタートし、店長、店舗運営部、中国での生産担当、M&A担当、香港店長など、たたき上げで幅広いポジションを経験し会社の全体像と精神を理解した潘寧氏が、中国事業の責任者として中国展開を行う、これほど理想的な実行体制はない。一方で大きなビジョンと生半可ではない長期的な努力が必要といえそう。

まとめ

もちろん、これは大雑把な分析であり、日本企業が中国大陸で1億元規模で
今の規模になるまでには、上述の3つの要素を基礎に、以下のようなより具体的な戦術ベースの施策が機能したということも言えるだろう。

  業績好調の6つ要因

       1つ目は、「ユニクロのブランドビルディングの成功」。

  2つ目は、「デジタルマーケティングの拡大と進化」。

  3つ目は、「他社に真似できないユニクロの商品」。

  4つ目は、「出店戦略の成功」。

  5つ目は、「EC事業の拡大」。

  6つ目は、「強いチームワーク経営・全員経営」だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kumimatsushita/20190412-00121982/

これらの具体的な戦術は潘寧氏や柳井氏が行っているわけではない。こういうことができる人材を中国で獲得できているという事実が重要で、やはりそのためには、以下3点が重要となる。中国展開の成功の鍵だ。

1.商品・サービスのコンセプト明確化(ターゲティングとブランド化)
2.日本ならではの強みを活かす
3.実行体制

実際、2点目を自社の強みと置き換えればこの3点は中国ビジネスに限らず、国内ビジネスを含めあらゆるビジネスに通じるものだろう。特に海外では、その文化や慣習が分かりづらいため、そこを現地の競合ができない海外ならではの強みで埋めなければ対等な勝負は難しい。ユニクロの場合、日本的なサービス精神を店舗内のスタッフの対応や商品の品質などに反映させる戦略が、実行され結果に結びついたといえる。中国に拠点を構えて中国人向けに商品とサービスを作り提供する場合、1から3全てで高いレベルの競争力が必要となる。 


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