見出し画像

創業2年半で6000万円を資金調達していた話【福祉×ファイナンス】

2022年3月2日に株式会社パパゲーノを法務局で登記してから、2024年8月末でちょうど2年半になる。いつの間にか累計約6000万円を資金調達していたのでパパゲーノ社の資金調達の内訳をまとめる。

気づいたら1億円使って挑戦している

「生きててよかった」と誰もが実感できる社会というパーパスに向け、リカバリーを社会実装できるよう挑戦してきた。1期目には約1500万円、2期目には約5000万円を投資している。3期目も4000〜5000万円ほど使う予定なので、3年で1億円以上を使うことになる。

何度も方針転換していて遠回りしたし、今でも課題だらけだが、2年半前には「無」だった株式会社パパゲーノという組織が、累計1億円を使ってリカバリーを広める旅をしているというのは事実である。そしてそれは他でもなく「資金調達」にこだわって、徹底的に「できることを全てやる」姿勢で走り続けてきたからだと思う。

メンタルヘルスや福祉分野で起業しようとしている方から連絡をいただくことが時々あるのだけど、資金調達の王道を外して苦労している人が少なくないので、少しでも参考になれば嬉しい。

現預金残高が1番大事

創業直後の起業家はあらゆる資金調達手段を使って、1円でも多く現預金残高を高める努力をした方がいい。同じ純資産100万円の会社でも、無借金で100万円の現金がある会社と、1億円の借金があって現預金1億100万円の会社があったとしたら、後者の方が圧倒的に経営しやすい。例えば、「充分な資金力があって在庫リスクを抱えられるから大量に仕入れて安く仕入れることができる」「優秀な人材を採用できる」「損益分岐点を超えるまで赤字に耐えられる」など。現預金を多く持つことはメリットばかり。本質的に挑戦したいことに集中するために現預金残高が最も重要な経営指標であることは言うまでもない。

パパゲーノは2024年5月に現預金が200万円台になったが、なんとか資金枯渇せず耐えることができた。「もし東京都からの指定取得が1ヶ月遅れていたら」「もしクラウドファンディングをしていなかったら」、資金不足で2024年5月にパパゲーノの旅は終わっていたと思う。

資金調達する方法は5つしかない

事業を創る上で法人格とか営利・非営利目的とかはほぼ関係ない。株式会社のみ株式での資金調達ができるがそれ以外の点では大きな違いはない。そしてどれか1つをやればOKなんてことはない。全ての調達手段を使いこなすことが望ましい。

  • 資本金:創業株主が出資したお金

  • 融資(デッド):日本政策金融公庫や民間金融機関から借りる

  • 補助金・助成金(グランツ):もの補助、キャリアアップ助成金など

  • 株式(エクイティ):株を発行して誰かに買ってもらう

  • クラウドファンディング:応援してくれる個人から支援を募る

パパゲーノ社の資金調達

創業から2年半での「60,700,658円」の資金調達の内訳は以下の円グラフのとおり。51.1%を融資、24.7%を株式、15.4%を助成金・補助金、8.8%をクラファンで調達している。

資本金(500万円)

2022年3月2日、株式会社パパゲーノを登記した。3人の創業株主が出資して、資本金500万円で会社の箱を作った。

日本政策金融公庫の融資(300万円)

2022年5月、日本政策金融公庫から300万円を創業融資で調達した。みずほ銀行との協調融資の形をとった。

みずほ銀行の融資(600万円)

渋谷区制度融資を使い実質利息ゼロで600万円をみずほ銀行より調達した。信用保証協会の保証付融資・経営者の個人保証ありだった。経営者保証をつけてしまったのが大失敗だった。会社が破産したら借金地獄になる。今だと公庫のみで資本金の3倍くらいは創業融資を経営者保証なしで受けやすいので、公庫1本で創業時の融資は調達するのがおすすめ。本当に後悔した。

GMOあおぞらネット銀行の短期融資(500万円)

2023年8月、GMOあおぞらネット銀行のビジネスローンで500万円調達した。利息は「年利3%」と割高だが、現預金残高が高いタイミングだったのでビジネスローンにしては低い方だった。1年返済なので一瞬でなくなるが、就労継続支援B型事業所の売上(訓練等給付)の着金が2ヶ月後なので短期の資金繰りを繋ぐために活用した。

クラウドファンディング(533万円)

創業から2年半で11回のクラウドファンディングに挑戦してきた。のべ843名の方から5,330,658円を支援いただいている。

  • 絵本「飛べない鳥のかけるん」:390,500円(65人)

  • 音楽「物語はいつか誰かの役に立つ」:421,780円(79人)

  • 絵本「ドーナツのなやみごと」:244,000円(48人)

  • 映画「オキナワへいこう」上映会:463,128円(124人)

  • 絵画「私は私に食べられそうだ。」:288,500円(55人)

  • 音楽「05:44」:557,250円(77人)

  • 映画「人生、ここにあり!」上映会:677,000円(150人)

  • 就労継続支援B型「パパゲーノ Work & Recovery」:209万円(185名)

  • 書籍「リカバリーカレッジとわたし」:198,500円(60人)

本当にたくさんの方に支えられて今がある。

約3ヶ月に1回はクラファンをしている計算になる。CAMPFIREで10回、ForGoodで1回。特に大きかったのは、2023年9月、就労継続支援B型事業所を開所する上でパソコンの費用として200万円を目標にクラファンに挑戦し185名から209万円を調達することができた。

日本政策金融公庫の融資(200万円)

日本政策金融公庫からマル経融資で200万円を調達した。本当は1500万円くらい調達したかったが、全く審査に通らなかった。資金枯渇して破産になりかねなかったため、必死だった。

キャリアアップ助成金(57万円×3名=171万円)

社員を雇用する際に、6ヶ月契約社員→半年後に正社員転換をすることで、キャリアアップ助成金を申請している。

※少し制度が変わって金額・期間の要件が変更されているので、最新情報は厚労省のHP参照。

ものづくり補助金(266万円)

2023年11月に採択されたものづくり補助金が2024年5月に着金した。AI支援さんのプロトタイプを開発した。毎月200〜300万円の赤字を出しながらも、補助金を活用して攻めの投資を同時並行で走らせていた。

東京都の創業助成金(300万円)

IT系の就労継続支援B型事業所の設立に向けて、東京都中小企業振興公社の創業助成金を申請し、書類審査、面接審査を無事に追加して採択された。1度目は落ちて、2回目の申請で採択されている。

賃料とパソコン代を補填していただいた。賃料や人件費を補助してくれる貴重な助成金なので、創業時はぜひ活用できると良いと思う。

第三者割当増資(1000万円)

2024年5月に上場企業から第三者割当増資による資金調達を実施した。ある程度、本質的価値のある事業を創れると「一緒に経営したい!」と声をかけていただける。株式を発行して保有いただき、共に経営していくことでより大きな挑戦ができる。

ちなみに、株式会社は大航海時代に船が沈没するリスクを色んな人で分散して挑戦しやすくするための仕組みとして生まれた。上場企業はたくさんの株主がいて、リスク分散されているので、より大きな資金を調達して挑戦がしやすい。

みずほ銀行の融資(1500万円)

2024年6月に信用保証協会でスタートアップ促進保証を使って、経営者保証を外して融資を勝ちとることができた。創業時の融資の借り換えを行ったので、僕個人が肩代わりする法人の借金はゼロにできた。施設立ち上げなど数千万円の投資を伴う挑戦をする場合、経営者保証は必ず外せるようにした方が良い。

小規模事業者等持続化補助金(約200万円)

広告費を補助してくれる「小規模事業者等持続化補助金」を使って、電車広告(京王線・世田谷線)、バス広告(小田急)、郵送DM、FAX DM、プレスリリース配信、動画制作、パンフレット制作に投資した。

就労継続支援B型事業所のIT活用に関する実態調査も行い、400名以上の方から回答を得られた。

日本政策金融公庫の融資(?万円)

資本性劣後ローンを申込んで、さらに追加融資を引き出していこうとしている。資本性劣後ローンは、破産する場合の債権回収の優先順位が他の銀行等よりも「劣後」する融資。そのため、融資だが資本とみなせるチート級の融資。公庫から資本性劣後ローンで調達している企業に対しては、直後に他の銀行が融資をしやすい。

儲からなくても、意義ある挑戦を!

最初からピカピカの事業を創れる人なんていない。一歩踏み出した人が少しずつ応援者を増やし、90点の計画より50点の行動を繰り返した人だけが、徐々に70点、80点の事業を創れるようになる。

創業から2年半、資金調達のために動いてなかった月はなかったと思う。それくらい、ずっと走り回ってきた。6,000万円しか集まらないのがこの市場の難しさを物語っている。「儲かんなそうだね」「NPOでやれば?」と何度も言われた。それでもあらゆる手段を尽くせば小さな挑戦に必要な資金は集まることがわかった。そして儲かんなくても自分が心から意義があると思える挑戦を続けていれば、価値は後からついてきて誰かが見つけてくれる。

余裕がなくて必死すぎたので色々失敗したし、睡眠薬がないと眠れない時期もあったけど、防げた失敗やもっと早く動けたことはあったので、これから挑戦する方の参考に少しでもなったら嬉しい。

よく聞かれる11の質問

【1】借金しすぎですが大丈夫ですか?

むしろ借金しない方が危険で、もっと借りたいとずっと思ってます。早く1億円くらいは融資で調達できるようになりたいです。

【2】なんで信用金庫や地銀ではなくメガバンクのみずほ銀行と取引しているんですか?

本当は地銀/信用金庫の口座を開けて追加融資を狙いプロパー融資に繋げたいが、バーチャルオフィスに登記していて地銀/信用金庫の口座が作れていないためです。

【3】みずほ銀行の融資はどうやって交渉してるんですか?

月次PL/BSを共有したり、定期的に事業進捗を共有しています。信用保証協会の保証付融資なので、どの金融機関でも大きな差はないと思いますが、担当の方とは信頼関係を作れるようにしています。

【4】メインバンクはどこですか?

GMOあおぞらネット銀行です。創業時に最初に口座開設ができて、振込手数料が比較的安いからです。創業初期はネット銀行系、大きくプロパー融資を狙うタイミングで、信用金庫・地銀をメインバンクにすることを検討するのが良いかと思います。

【5】補助金・助成金は自分で申請してるんですか?

自社で申請しているものと、代行会社を使っているものがあります。簡単な補助金は自前で、難易度が高く採択率も低い補助金は外注でやるのが良いと思います。

【6】福祉事業は補助金の対象外じゃないんですか?

福祉事業が対象になるものと、ならないものがあります。福祉が対象外の事業は、基本的にDX支援/SaaS事業として出しています。

【7】GMOあおぞらネット銀行のビジネスローンを使うと銀行の評価は落ちませんか?

直ちに落ちることはないですが、長期の運転資金が必要なロジックを作りにくくはなると思います。短期借入金があるので、運転資金は足りてそうですねと。

【8】資本業務提携先の企業はどうやって探したんですか?

就労継続支援B型(福祉施設)をやると決めた時に、上場企業で就労継続支援B型を運営している企業を東京プロマーケットも含めて全てリストアップしてベンチマークしていて、その中から見つけました。実際に連絡を取れたのは運が良かったからです。(先方からご連絡いただいた)

【9】なんでVCから調達してないんですか?

2024年1月〜4月頃に投資家回りをしていた際は、J-KISSや種類株での調達を意思決定するのは時期尚早で、株式で調達する場合はエンジェル投資家か事業会社からの調達が望ましいと考えていました。

「パパゲーノさんなら、時価総額3億円で3000万円調達するくらい余裕なんじゃないですか?」と聞かれることもあるのですが、それはあくまでJ-KISSや種類株の場合の時価総額で、業績ベースで普通株で調達できるかというと話は別です。リスクマネーで挑戦したいのか、シナジーを求める上場企業や事業会社とやるのか、融資でやるのかは慎重に考えた方が良いです。

【10】制度融資は使った方がいいですか?

実質利率は抑えられますが、無理して使わなくていいと思います。使えたら使うくらいのスタンスで良いです。日本政策金融公庫からの融資が優先で問題ないです。

【11】クラファンはやった方がいいですか?

はい。特別やらない理由がない状況であれば、資金と仲間を集めるために、やった方がいいのは間違いないと思います。

↑資金調達記念ソング

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?