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絵を描き始めたきっかけ(5)

その後、台湾で絵を描かなくなる

フランスでのアートコースを取りながら、パリ第8大学で文学のマスターコースに通っていました。それもこれも、「せっかくなんだから、好きなことをしてパリを過ごしたい。」という強いきもちがある反面、「パリで語学学校へ行って、そのあと絵を描いてました」だけというのは、再就職するのに通じないと信じていたからです。マスターコースは最後の二人の教授とのインタビューと100枚の卒業論文をしあげ卒業することができました。ただ大学の卒論の準備で、アートスクールのクラスをいくつか休まなければならず、それがとても残念でした。それでも、将来のことを考えると、取れるディプロムはとっておいたほうがいいだろうと思っていました。

今思うと、なんてビビりだったんでしょう!それもこれも、日本の教育制度でがっつり高校、大学まで出てしまったから、石橋をたたいて渡る癖がついていたのでしょう。数年働いて語学留学する時点で、突拍子もないやつなのですが、一方でそれなりに堅実に生きようとする昭和の日本人DNAは持ち続けていたようです。

アメリカの大学で、同級生で大工出身、35歳を過ぎて会計の勉強をしている人、アルコール中毒を克服して退職間近になって大学生になった人とか、そんな話をいくら身近で見聞きしたって、いやいや日本はそんなわけにはいかない、日本の就職なんて、みんな同時期に始まるし、よっぽど実力がある人でもなかなか転職なんてできない、ましてや、フランスで語学コースと絵のクラスに行って楽しかったでーす♪という30間近の女性(仕事経験も絵の卸業と特殊でしたし)を誰も採用してくれるわけない!というのが私の考えでしたし、当時はあながち外れてはいなかったでしょう。

色々試行錯誤していたものの結局私は、パリの留学中しりあい付き合い始めていた台湾人(今の夫)の戻る台北に赴き、彼の両親の家で暮らし始めました。

台湾では公用語が北京語です。仕事もなにも、言葉ができないのでは話にならないので、今度は北京語の学校に通いました。英語で苦労し、フランス語を学び、また今度は毛色の違う中国語!!よくもまあ、ゼロから中国語を学ぼうなんて思ったものです。30年近くもたつ今考えると、ただただ、若かったんだなぁと思います。ただ語学、特に中国語は身につければ、きっと今後の仕事に役にたつ、という勘定もあったと思います。パリの魅力に魅せられて何としてもパリにいる人、フランス人と恋に落ちて結婚してパリに留まる人、、、色んな人がいました。でも日本人である程度の経験がある女性でも、履歴書を300通送って、面接に来るようにと返事が来たのが一通だけ、という話を聞いていましたから、私はそれ以上フランスにいるつもりは
ありませんでした。当時も今も、フランスで外国人が仕事を得るのは、なかなか簡単なことではないようです。

台北で新しい暮らしを始めた私は、昼間や夜は台湾人に日本語学校で日本語教師をして、朝は北京語の学校へ行きました。日本語を教える仕事は他と比べてダントツに時給もよく、時間も自由なので、自分に合っていると思いました。中国語がだいぶん理解できるようになったので一年後には小さな貿易会社に勤めました。正直そこでの仕事はあまり好きになれず、同僚に愚痴ったことを覚えています。
「私本当は、絵を描きたいんだよね。でももうこれ以上学校へ行くのも甘えすぎだし。。。」そんなことをつぶやいたら、同僚の女性は、びっくりした顔をして、「は?!何を言ってるの?絵を描いてお金が稼げるわけないでしょ?」と叫びました。台湾人はすごく現実的な人が多く、学校や大学も「その学校で、その学部でいいところに就職できるか」の基準で選ぶ人が多いようです。
昨今の台湾の若者は、拝金主義ではない子も増えたようですが、当時の台湾は、お金をいくら儲けるかで自分の価値が決まる、という考えが圧倒的でした。台湾人の彼のおうちのお客さんには、「で、日本語教師って月いくら稼いでんの?」と具体的に給料を聞いてくるおじさんやおばさんもたくさんいました。給料でマウントとるなんて!と憤りましたが、後々台湾に長く暮らしていてわかったのは、台湾人や中華系民族は、数字で競うのが大好きなんです。

今回は私が絵を描きだした理由から大きく逸れて、「私が絵を描かなくなった理由」になってしまいました。でも今から考えると、あの時美術の勉強をあきらめ、まったく違う方向に進んだことが、逆に自分が今絵を描くことを仕事にしていることにつながっているのだと思います。なんだか矛盾しているように、聞こえますが…。

次回からは、少しずつ絵を描く習慣を取り戻していく話に戻ります。


※下の記事は、パリのアトリエの様子を描きました。いつかパリで暮らしながら絵の勉強がしたい(もう学生ではないけど)という方は、ご参考にしていただけると幸いです。


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