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スイカごはん

きっかけはお中元にスイカをいただいたことだった。
お昼休憩にスイカを切って出す、と言ってしまえばそれだけのことなのだが、現在安井ファームはベトナムから3名、カンボジアから9名の技能実習生を採用している都合上、万が一にも文化的な摩擦が生じないよう、こういう時はそれぞれの国の食文化を調べるようにしている。

そこで久々にカルチャーショックを受けたのが「スイカごはん」だった。

どうやらカンボジアでは白米の上にスイカを乗せて食べる文化があるようで、ネット上でも日本人には衝撃的な食べ方としてしばしば紹介されていた。

情報収集

真相を確かめるべく、カンボジアの技能実習生の1人に話を聞いてみた。

世界的に難解な言語とされる日本語だが、彼らは非常に優秀で、ボディランゲージを交えながら単語で会話すればそれとなく日本語でもコミュニケーションがとれるのだ。

スイカのモノマネには少し自信があったが、うまく伝わらないことには話が進まないので、スイカの写真を見せて情報収集を開始した。
実習生の彼いわくーー

・カンボジアでは当たり前の料理
・あまい、おいしい
・レシピは炊いたごはんにスイカをのせるだけ
・他には何ものせない
・カンボジアでは「マイチムアラ」と呼ばれている
・アラはスイカを意味する

ーーとのことで、マイチムアラことスイカごはんは確かに実在する文化のようだった。

念のため、ベトナムの技能実習生の子にも話を聞いてみると

・ベトナムでもごはんとスイカを一緒に食べる
・あまい、おいしい
・スイカはジャハウと呼ばれている

ということで、なんとスイカごはん文化はベトナムにもあるそうだ。

むしろスイカをごはんにのせない日本の方がアジア圏ではマイナー、なんてこともあるのかもしれない。

実際にやってみた

スイカを切って迎えたランチタイム。
食堂にはスイカをおかずに白米を食べる実習生たちの姿があった。

私も負けじと小鉢に白米をよそい、スイカをのせて彼らのテーブルを訪ねた。

スイカごはん(マイチムアラ)

「マイチムアラ、あってる?」

本当にごはんにスイカをのせただけなのだが、やはり彼らの答えはイエスだった。

さらに「あまい、おいしい」の念押し。
私に向けられる期待の眼差し。眼差し。眼差し。

もちろんそのために、食べるために、ここへ来たつもりだ。

しかし頭ではわかっていても、なぜか身体は動かない。
心の奥底から言い訳がとめどなく溢れてくる。

外国の方が納豆を目の前にした時の心境がまさにこんな感じなのかもしれない。

だが彼らの純粋な眼差しを見て、私は思い直した。

遠い異国である日本の文化を受け入れてここにいる彼らに対し、それを迎え入れる私たちも向こうの文化を受け入れる努力を怠ってはならないのだ。

深呼吸。

そして、覚悟を決めてスイカごはんを口に放り込んだ。

「ん、ん〜!?……ん〜、インターナショナル!!!」

唸り声とともに謎の感想がクチから飛び出していた。

米の甘さとスイカの甘さ。
ベクトルが同じなのだろうか、そこまで喧嘩しないのは意外だったが、馴染みのない味には変わりはない。
日本人的にはなんとも斬新な味わいだ。
スイカ味のご飯。
それ以上の感想が難しい。

だがしかし、少なくとも受け入れられないということはなく、むしろ塩味が加わればさらに発展しそうな可能性すら感じた。

とにかく不安げに見守ってくれている彼らにも伝わる感想を言わねばなるまいと思い、慌てて言葉を続けた。

「あまい!あまい!日本ない味!新しい!」

そう言うと彼らのうちの何名かはとても驚いた様子だった。

日本にスイカごはんの文化がないというのは逆に彼らにとってはカルチャーショックのようで、それほどにスイカごはんは彼らの生活に根づいているのだろう。

日本ではスイカはおかずではなくデザートとして食べるのが一般的であることを説明しながら、しばらくみんなでスイカごはんを食べて過ごした。

彼ら技能実習生たちは基本的には3年間の実習期間を経て、帰国することとなる。

だがきっと私は何年経っても、その日彼らとともにスイカごはんを食べた時間を忘れることはないだろう。

世界は広い。
きっとブロッコリーにもまだ見ぬ可能性が秘められているに違いない。
スイカごはんは私にそう予感させるには十分すぎるほど衝撃的な食体験であった。

(文:安井ファーム中の人)

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