ラムネのビー玉。
『私のも開けてくれない?』
浴衣の袖をもう片方の手でおさえながら、彼女はラムネの瓶を僕に差し出した。
遠くで灯っている提灯に照らされて、少しだけ頬を染めている彼女の前髪は、汗でおでこにくっついていて、そこがまた可愛らしかった。
僕は飲んでいたラムネを石段に置くと、彼女の手からラムネを受け取り口を開ける。
彼女はラムネの口が開く様子を、いたずらをする子どものように、にんまりと笑いながら静かに見つめていた。
ポンッという音とともにラムネの口からは炭酸が溢れ、彼女の顔には笑みがこぼれる。
僕は喜ぶ彼女にラムネを渡すと、石段に置いていたラムネを手に取り、小さく笑ってラムネに口を付ける。
彼女は僕がラムネに口を付ける度に、僕の方を見てすぐにそっぽを向く。
「こっちの方が良かった?」
僕は口に含んだラムネを飲み込んで彼女に尋ねる。
『ううん。こっちで良いの。』
彼女はそう言って、自分のラムネに再び口を付けた。
けれど、何度も僕がラムネに口を付ける度、彼女は僕の方を向く。
そして、唇をとんがらせては、すぐにそっぽを向くのだ。
「どうしたの?何か怒ってるの?」
僕は彼女が怒っている理由を考えながら尋ねる。
『ううん。ただ、君が私のラムネのビー玉に嫉妬しないことが、少し寂しいだけだよ。』
僕は彼女の言葉を聞いて考える。
そして理解をする前に、再び彼女の口が開いた。
『君のラムネのビー玉が欲しいの!』
僕は彼女の言葉をやっと理解して、急いでラムネを飲み干そうとしたが、むせて少し大げさにせき込んだ。
また唇をとんがらせていた彼女は、そんな僕を見て今度は無邪気な子どものように、声を出して大きく笑った。
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