見出し画像

プロダクト×マーケティング×クリエイティブという「掛け算」:地方の中小ウレタンメーカーがクラウドファンディングに挑戦した話(3)

こんにちは、株式会社出口化成 代表取締役社長の出口泰博です。
前2回の記事から時間が空きましたが、昨年2022年6月にローンチしたクラウドファンディングプロジェクト町工場の挑戦で生まれた「すこし未来のソファ」|最上級の座り心地と使用感を実現|マクアケ - アタラシイものや体験の応援購入サービス (makuake.com)

の経緯について書いていきます。
今回は、無事デザインが確定したソファをプロモーションして販売していくにあたって、クリエイティブやマーケティングの方面で行った取り組みや、そこで得られた気づきなどについて書いていきたいと思います。
前回までの記事はこちらからご覧いただけます。
https://note.com/yasuhiroid/n/n19ef3abc6f25
https://note.com/yasuhiroid/n/n7b90f7e650df
それでは、どうぞ。

写真撮影で、プロ意識を見た


およそ1年と3〜4ヶ月の開発期間を経てソファの形が決定したのち、今度はロゴ制作や写真撮影、クラウドファンディングプロジェクト用のLP作成など、商品プロモーションのためのクリエイティブ制作に着手していきました。

ロゴの制作(これもかなり紆余曲折あったのですが、話が長くなるので割愛します)と写真撮影のディレクションを手がけてくださったのは、ソファを作ってくれたプロダクトデザイナーさんとも既知の間柄だったデザイナーさんでした。

修正を5回繰り返してようやく完成したロゴ



ところで、このデザイナーさんはなかなか遠慮のない人で、撮影前の打ち合わせでも「このソファ、正直あんまりカッコよくないですよね」「こうしたほうがもっとカッコよくなりそう」といった、歯に絹着せないコメントをバンバンぶつけてこられました。

私自身はそういう裏表のないはっきりした人は嫌いではないですし、そもそもソファのデザインにもプロダクトデザイナーさんの判断に乗っかるかたちでGOサインを出したつもりでいたので、そういうことを言われたところで、腹を痛めて産んだ我が子を貶されたかのような嫌な気持ちになったりはしませんでした。

プロダクトデザイナーさんも、多少むっとした様子ではありましたが、「彼はいつもああいう感じなので」「言わせておけばいい、最後にきっちり見返してやります」と話していました。
それに加えて「なんだかんだ言って彼はいつもすごく良い仕事をするから、彼とは一緒にやりたい」とも言っていて、同じクリエイターとして大きなリスペクトを払っておられることがよくわかりました。

ただ、やはりあれだけの口を叩かれてしまった以上、果たしてどんな仕事をなさるのか、普段以上に注視せずにはいられませんでした。
デザインについていろいろ教えてもらっていた方ですし、ロゴも納得いくものを作っていただいていたので、実力に関して不安はありませんでしたが、ハードルはやはり高くならざるを得ませんでした。
そんなデザイナーさんが、スタイリングから撮影まで取り仕切っていただいて、実際に撮れた写真がこちらです。


1枚目 正面からの写真
2枚目 カメラを吊り下げて撮影した写真


私が撮影を依頼してからまもない段階で、すでにデザイナーさんの頭の中では「こういう写真で行く」というアイデアが固まっていたそうです。
ソファの配置や色の組み合わせから空間づくりまで、すべて一貫してディレクションしてくださいました。
小道具の類も、すべてデザイナーさんが持ち込むかたちで用意してくださったものです。

特に2枚目の写真は撮るのが大変そうで、スタジオの天井にカメラを吊るしたり、照明の加減を細かく調整したりして撮影してくださいました。
挑発的とも取れる話しぶりから少し不安を感じたこともありましたが、仕事となればきちんと徹底してこだわりを追究してくださることがよくわかりました。
プロ意識に思わず頭が下がった写真撮影でした。

すごいWebマーケターは、すごい


販促物の制作の目処がついたところで、広告・宣伝を打ちながら実際に商品を売っていくことについても、同時に考えていかなくてはなりません。
私たち含め、長らくBtoB中心でモノを売ってきたマテリアルメーカーのほとんどは、はっきり言って広告やマーケティングに関わるノウハウはほぼまったく持っていません。

というのも、BtoB中心の老舗メーカーの至上命題は、基本的には既存顧客のニーズに対して安定的に応えることだからです。
もちろん、普段から新規顧客・新規のニーズの開拓にもチャレンジしていくに越したことはないですが、基本的には昔からのお客さんとの取引がほとんどを占めるがゆえに、外向けに積極的な発信を行う必要性が薄く、Webサイトすら持っていない会社も多くあります。
しかしながら、D2Cに着手するとなれば、そんなことを言ってもいられなくなります。

モノを売るためには、きちんと広告と宣伝に取り組んで、潜在的なお客さんに自社の商品について知ってもらわなくては話になりません。
ノウハウがないなかで一体どこから手をつけていくべきか、またしても頭を悩ませる日々が始まりました。
そんなある日、先ほどの宮城県の仲良くさせてもらっているデザイナーさんとのやりとりの中で、「クラウドファンディングをやるのであれば、うちの兄をご紹介しましょうか?」と声をかけてくださいました。
思いがけない申し出に少々戸惑いつつも話を聞いてみると、そのお兄さんは相当実力のあるWebマーケターとして名を馳せている方で、今やあちこちから引っ張りだこだというのでした。
半信半疑ながら、お世話になったデザイナーさんが言うならと思って、一度お仕事をお願いしてみることにしました。

マーケターさんが沖縄県に住んでおられるということで、顔合わせはデザイナーさんにも臨席してもらってZoomで行いました。
いろいろお話をした結果、「弟の紹介なら」ということで、セールスライティングや広告運用をお引き受けいただく運びとなりました。
最初が半信半疑だった分、実際にクラウドファンディングのプロジェクトが始まってみて、その凄まじさを目の当たりにしたときの驚きと言ったらありません。

広告費に対するリターンの大きさが、本当に並ではないのです。
たとえば、私が10万円の予算を使ってWeb広告を運用したとき、実際に得られた売上はせいぜい広告費とイーブンくらいの額でした。
それが、そのWebマーケターさんにお任せしてみたところ、10万円の広告費で100万円もの売上を叩き出されてしまったのです。
しかも、これが1週間だけの話だったりすれば、まぐれが起こったなり別の要因が重なったなりで売上が伸びたのだろうと結論づけることもできたかもしれませんが、そういうわけでもないのです。
3週間の広告運用をお願いしたなかで、彼は着々と売上を伸ばしつづけ、3万円を費やした時点で50万円の売上、5万円では70万円と、数字は至極順調に伸びつづけていきました。

率直に言って私はそれまで、Webマーケターという職業全般に対する漠然とした不信感を抱いていました。
「SNS広告運用でラクしてガッツリ稼ぐ!」といった謳い文句をインターネット上でしばしば目にすることもあり、胡散臭さのようなものを感じていたのです。
しかし、成果を数字として目の前に突きつけられてしまえばぐうの音も出ません。
どんな業界においても、すごい人というのはやはりすごいものなのだと、ひしひし痛感させられた出来事でした。

「売れればいい」で終わらない文章へ


さて、プロジェクト開始後の広告運用で申し分のない結果を叩き出してくださったこのマーケターさんは、今回のプロジェクト用にLPのセールスコピー執筆も手がけてくださいました。
素人目に見てもその文章は、LPを見てくれた人の商品購入を後押しする仕掛けが随所に施された、いわば「計算ずく」のものでした。
ただ、私はそのセールスコピー案を受け取ったとき、「本当にこれでいいんだろうか?」と違和感を覚えました。

たしかに商品をより多く売ることだけを考えたら、購買意欲をそそることに特化した文章で訴えかけることが効果的かもしれません。
しかし率直に言ってしまうと、その文章を見て最初に私が感じたのは「ちょっといやらしすぎないか?」という印象だったのです。
ブランドとして高級感や洗練された印象を打ち出していきたいという思いがあったことも、「売ってやろう」というスタンスが前面に出た文章を使うことへの抵抗感につながっていたように思います。

そこで、Twitter経由でお付き合いのあった都内のブランディング会社の社長さんが激賞していた、とあるライターさんにお声がけして、文章全体のブラッシュアップをお願いしてみることにしました。
そのライターさんは、WebマーケティングやSEOに関する専門性があるわけではないものの、知的さを感じさせる上品な文章を書かれる方でした。
書かれた文章もいくつか実際に読んでみて、「この方であればブランドとして打ち出したいイメージに合った文章を作成してくれるだろう」と強く感じたため、TwitterのDMで依頼のご連絡を差し上げました。

快くお引き受けいただいたのち、ほどなくして上がってきた文章を見て、私は自分の直感が合っていたことにホッとしました。
セールスコピーとしての狙いをきちんと汲みつつも、悪い意味での商売っ気が絶妙に取り除かれた、機能的かつ洗練された文章へと磨き上げられていたのです。

Webマーケターさんも「僕の言いたいことや意思を汲み取って綺麗な文章に直してくださった」「この方は優秀なライターさんですね」と賞賛されていて、頼んでみてよかったとあらためて思いました。
このライターさんには、クラウドファンディングの後も引き続き、プレスリリースやホームページの文章作成にご助力をいただいています。
プロダクト×マーケティング×クリエイティブ
さまざまなクリエイターさんやマーケターさんのご助力をいただいた甲斐もあって、当社初のクラウドファンディングプロジェクトは、目標金額の実に6倍以上もの応援購入金額を達成し、大成功のうちに終わりました。

プロジェクトを振り返って強く思うことの一つが、やはり一般消費者向けにモノを売っていこうと思ったら、自分たちを見つけてもらうため、そして選んでもらうための工夫を欠かすことはできない、ということです。
すでに述べたことですが、私たちのようなBtoBメインのマテリアルメーカーは、クリエイティブや広告・宣伝にそれほど力を入れなくてもモノが売れてしまう、いわば世の中から隔離された業界です。

しかし、D2Cで一般消費者向けに商品を売っていきたいとなれば、プロダクト一辺倒ではどうしても突破できない壁が存在します。
「いいプロダクトを作り出し、いいクリエイティブで表現し、いいマーケティングで伝えていく」という三つを怠りなくやり抜いたかどうかが、事業としての成功を左右すると言っていいでしょう。

逆に言えば、私たちメーカーはモノづくりのプロフェッショナルであり、自社の製品やそれを生み出す技術力には大いに自信を持っていいはずです。
そしてそうである以上、盤石な主柱であるモノづくりの片手間に、クリエイティブやマーケティングにも目を向けて、地道に力を蓄えていくことも十分可能なはずです。

手前味噌ですが、私自身さまざまなクリエイターやマーケターの方々と関わり、皆さんからいろいろと教えを乞うなかで、少しずつクリエイティブやマーケティングの良し悪しを見抜く目が養われつつあるのを感じています。
もちろん、センスや才能を無視することはできない領域であり、その第一線でお仕事をされている方々には遠く及ばないことは百も承知ですが、それでも学べば学んだだけ身につくものは、確かにあると言っていいと思います。
すぐれた技術で生み出されたすぐれた製品ならば、クリエイティブやマーケティングの力を正しく味方にできれば、世の中に何十倍、あるいは何百倍もの規模で広まっていく可能性があります。

そして、世の中のそれだけ大きな部分にリーチしていけるようになれば、目に見える世界もそれまでと大きく違ったものになるはずです。
そのためには、使える限りの手段を使って、何が本当に良いものなのかを学び取っていく必要があると思います。

私もまだまだ道半ばですが、これからも自社の経営資源のポテンシャルを最大限引き出して、より多くの人たちを喜ばせることができるよう、センスを磨いていきたいと考えています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?