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GOJIRA / Fortitude

フランスで1996年に結成されたGOJIRA(ゴジラ)、もともとGodzillaの綴りでしたが2001年にGOJIRAに変更。プログレッシブでテクニカルなデスメタルのスタイルと、スピリチュアルで環境をテーマにした歌詞で知られています。仏産のメタルバンドとしては初めてUSでも成功を収め、2021年にリリースされた本作はビルボード12位。名実ともにメタル界のトップバンドとして活動中です。ローリングストーン誌では「デスメタルの怒りとパンクロックの良心が混ざり合っている」との評価。なんとなく流して聴いていたのですが、こちらの素晴らしい記事を見てこれはちゃんと聞かねばなと襟を正したので、改めてレビューを書いてみます。

ここのところ、メタルの中心地は完全に欧州に移ったような気がしています。USのチャートで成功するのも変わらず重要ですが、同時にWACKENHELLFESTCOPENNHELLDOWNLOADといった大規模メタルフェスに出場する、ヘッドライナーになることも同様に、いやむしろコアなメタルファンにとってはより重要になりつつある。これらフェスによってメタルも「鑑賞する音楽」から「体感する音楽」に変わった。グランジ、オルタナ以降の「スポーツのようなライブ体験」がメタル界にも、いやむしろメタル界にもっとも先鋭的に行われています。ある意味「サウンドシステム」と化しているというか。叩きつける、鞭打つ(スラッシュ)な「波状攻撃」の”波”のサウンドから、”渦”を巻くような聴衆を巻き込む音作りにトレンドが変化しています。

フランスは世界最大規模のメタルフェスの一つ「HELLFEST」の開催国。メタルバンドもALSCESTDeathspell OmegaRISE THE NORTHSTAR、そしてこのGOJIRAなど、まだ数は少ないものの独自の感性を持ったバンドが次々と生まれ、シーンが活性化しています。先日取り上げたYEAR OF NO LIGHTもフランス出身。本バンドも大きなメタルの潮流、「鑑賞から体感」「波から渦」に乗っているバンドですが、その中でどういう新要素を取り入れているでしょうか。ワールドミュージック(非欧州音楽)の要素にも注目して聞いていこうと思います。

フランスってそもそもワールドミュージックが盛んな国。移民を積極的に受け入れてきた国であり、ドイツ、UKと並ぶ移民大国。USほどではないですが人種も多様化しています。フランス共和国は民衆革命によって成立した国家なので平等国家の価値観があり、移民政策も先進的(移民問題には苦しんでいますが)。その過程で移民の文化に対する理解も欧州の中では早く、アフリカやアラブ音楽の音源化も積極的に行ってきました。90年代からワールドミュージックに触れている人はフランスからの輸入盤を多く持っていることが多いはず。現在はネットを通じて世界中(非英語圏)の音楽にも簡単に触れられますが、それ以前から非英語圏、非欧州圏の音楽が一定の頻度で聴かれていたのがフランスです。そういう意味では「非欧州の音楽」、特にアフリカ、アラブ音楽(アフリカ音楽の重要な場所であるモロッコやチュニジアはフランス語圏)を取り入れるならUSやUKのバンドより有利な場所にいます。

出身国:フランス
ジャンル:プログレッシブメタル、グルーヴメタル、ポストメタル、ストーナーロック、オルタナティヴメタル、テクニカルデスメタル
リリース:2021年4月30日
活動年:1996年ー現在
メンバー:
 Joe Duplantier − lead vocals, rhythm guitar (1996–present)
 Mario Duplantier − drums (1996–present)
 Christian Andreu − lead guitar (1996–present)
 Jean-Michel Labadie − bass (1998–present)

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総合評価 ★★★★★

最大の魅力は「聴きやすさ」。高度な芸術性、コンセプトを見事に具現化しながら、大衆性、肉体性を失っていない。この適度なバランス感覚が商業的成功も収めた理由だろう。あまり尖りすぎているとムーブメントは起こせない。

一つのテーマに沿ってアルバムが進行していく。問題提起、それは環境破壊であり、未来に対する諸問題、大きなものから小さなものまで、立ち向かうべき課題と、それらを傍観していると訪れるであろう暗黒の未来が前半で描かれる。音響的には渦を巻くような音。

7曲目から覚醒を促す。「目を醒ませ、行動しろ」。音も直接的になっていく。エフェクトの種類が変わり、より生々しい、輪郭がくっきりした音に。観念の世界から肉体の世界へ。

音響面までコントロールし、一つの流れ、一つの物語を作って見せた作品。Deftones辺りにも通じる卓越したサウンドコントロール。そして、扱われるテーマはメタルの王道である警鐘であり、それを鳴らすのに説得力がある音像。フランスのバンドらしく芸術性も高い。肉体性より鑑賞性が高くなっているが肉体性も失われていないし、後半になるにつれて攻撃性もリアリティを増してくる。こうしたことを意図して、見事に表現しきるのは凄いし、これがUSでも一定の商業的成功を収めたことは影響が大きい。2020年代のメタルシーンのトレンド、ムーブメントの着火点として記録されるであろう作品。

一つ残念なのはワールドミュージックへの接近はそこまででもなかった。あくまで効果音などの引用。グルーヴもメロディも基本的には白人、欧州音楽的。リズムや非欧州音楽的な音色の引用の仕方にはむしろハウスミュージックの影響を感じる。とはいえ、そのあたりは非英語圏、非欧州の「伝統音楽本場のメタルミュージシャンたち(個人的にはトルコとインドに注目している)」がこれから手を付けていく領域なのだろう。その呼び水としては十分。

1. "Born for One Thing" 4:20 ★★★★

マーチングのようなドラム、軍楽的でもある。その上に渦を巻くようなギター。ボーカルが入ってくる。ややグロウル気味だが単語は聞き取れる。バタバタとした渦巻くような音像。ブレイクダウンでテンポが変わる。モッシュ、酩酊。ピットに音が次々と振ってくる。フランス的な優美さ、メロディ展開も感じられる。ギターサウンドはエッジは立ちつつ比較的中高音の鳴りがキレイ、シューゲイズ的。なお、シューゲイズというのは「Shoe(靴)」を「Gaze(じっと見つめる)」から。つまりエフェクターの操作のためにずっと足元を見るから。だからエフェクトが多用されて渦巻くようなギターサウンドがシューゲイズ。かなり体感的でアトラクティブな曲。多少アフリカンなしなやかさも感じるが、リズムは硬質で白人的。

2. "Amazonia" 5:01 ★★★★☆

口ではじく笛のような音。なんだっけなこれ、ビリンバウか。ちょっと喉笛のような音が入ってくる。ああ、これはアマゾン、密林伐採・森林破壊の歌だ。だからブラジル音楽の要素だな。Sepulturaもこのことをテーマにしていた。こうして聴くとモンゴル的でもあるな、ビリンバウとアマンホール(モンゴル口琴)はなんとなく近いところもあるし、喉笛的な音が出てくる。たぶん、モンゴル的要素は意識していないと思うのだけれど。グルーブにはしなやかさがある。去り行く自然。轟音の渦は機械文明だろうか。描いているのは機械文明と自然の対立なのか融合なのか。

3. "Another World" 4:25 ★★★★★

リードトラックとして先行公開された曲。ミドルテンポで展開が分かりやすいわけでもないのだが不思議なキャッチ―さがある。音作りが聴きやすい。反復するリフ、北欧メロデスのように過激に展開するわけでもメロディアスなわけでもないが耳に残る。ややDjent的なリフでもあるが変拍子は使われていない、どっしりしたリズム。サイケデリック、一定のリズムだからトランス的でもある。この曲は名曲。

4. "Hold On" 5:30 ★★★★

アカペラのハーモニーから。サイケデリックな雰囲気、フランジャーが聴いていて揺れるような音。コーラスに加えてリズムが入ってくる。四つ打ちだがややトライバルな雰囲気があるのは鈴の音がシャンシャンとなっているからだな。ミドルテンポで進む、ベースやギターのうねりが強いがドラムは理性的。手数はそれなりに多いがトライバル感はあまりない、むしろポストパンクとか80年代的な、ややアフリカ要素は感じるもののRemain The Lightまでいかない初期トーキングヘッドぐらいのトライバル感。上下に弾むようなサウンド。上昇・下降音。そういえばオリヴィアロゴリゴのアルバム「Sour」には下降音が印象的に使われていた。ダウンする、下降させる音はサウンドジングルとして印象に残る。Sepultura辺りとの連動性も感じるところがあるが、より優美でより白人的。

5. "New Found" 6:37 ★★★★★

酩酊感がある曲、明るい酩酊感。照らされるような。それが単純な陽気さではなく、たとえば原発の爆発のようなどこか死の影、破滅を感じさせる明るさではあるのだけれど。高音で破裂するような、光線のようなギターカッティング。高音域がコーラスで強調されたボーカル。渦に照射されるスポットライトのような音像。全体的に音が明るめで、リフやテンポはぐいぐい攻めてくるのだが耳への圧力は抑えられている。統制されたノイズ。乱打ではないがパーカッションの音が入ってくる。鳴り物が空間を埋めていく。”We’re all on the same boat , we're going down”「私たちは同じボートに乗り、皆で落ちていく」。強い警鐘。

6. "Fortitude" 2:08 ★★★

民族楽器的な音が出てくる、インタールード的なインスト。木琴、木が成長するような、自然のメタファーのような音。森の成長。

7. "The Chant" 5:13 ★★★★☆

前曲のリフレインを引き継いでそのまま曲へ。6曲目は7曲目のイントロだな。蠢く音の渦、Incubas辺りの90年代、00年代オルタナティブメタル勢も思い出す。欧州トラッド的なコーラスが入ってくるのが特徴。先ほどの木琴と言うか木魚のような音が入ってくる。リズムは跳ねるよりはずっしりと、酩酊の方、渦を巻く方に意識が向けられている。アッパー、祝祭感よりはダウナー、内面へ潜る。自己の深奥に近づいていくような内省的な熱狂。”Get Strong”「強さを手に入れろ」、言い聞かせるようなアジテーション。クラシックロック的なリズムとソロ。パリの散歩道。”Wake up to the sound of doom!”「破滅の音で目を醒ませ!」。外に向けて覚醒せよ。瞑想からの目覚めを促す警鐘で曲が終わる。

8. "Sphinx" 4:00 ★★★★

覚醒したかのようなリフ、音の攻撃性がやや増す。微妙な変化だが迫ってくる、襲い掛かってくるような音になる。「石灰岩を彫り、救世主は辿り着いた、あなたはそれになる、顔はライオンの顔をして」。先人たちから学び、過ちを繰り返すな、変化しろ、(石を彫り)ライオンの顔になれ。アジテーションが強くなる。

9. "Into the Storm" 5:02 ★★★★☆

細かいリズム、手数が多い。音の隙間が埋まる。迫ってくるようなギター音が増す。押し寄せるリフ。「やり直せ、目を醒ませ、立ち上がれ、拳を掲げろ」ひたすらアジテーション。アッパーな歌詞。力強いメッセージを音の壁と共に吐き出す。「嵐の中へ」。鼓舞する応援歌。「どれだけ悲しくても、どれだけ遠くてもやり遂げるんだ、嵐の中へ、嵐の中へ」。

10. "The Trails" 4:07 ★★★★

音が生々しい、穏やかな音像に変わるがギターの音は近い。どこか酩酊感があった前半の音作りに比べてより現実感がある。曲そのものはミドルテンポで内省的な曲に戻る、淡々と歩き続ける、探索するような曲調。”Signs in the dream, Beyond the reason"「夢で見た印、理由を超えて」。真理の探究、自らの奥深くに潜っていくが、強い信念を感じる。その意思の強さを太いギターの音が補強する。

11. "Grind" 5:34 ★★★★

これはボートラ的、アンコール的な曲なのか、雰囲気が変わり、飛び跳ねるリフ。弦をスライドさせる音が耳に残る、Djent的でプレイヤーの遊び心がある。”Grind”「挽く」。力強く、さまざまな問題を挽いて粉々にしてしまえ、永遠の課題は解決する、力強い歌。"Surrender to the Grind, Obey!"「グラインドに降伏しろ、従え!」。アンコール的な立ち位置ともとれるし、ここまで語ってきたことを一つ突き抜ける、音楽としての解決策とも取れる。音でねじ伏せるしかないからね。覚醒~信念のある内省~衝動(と行動)で幕を閉じる。最後は美しいアルペジオが余韻として残り、アルバムが去っていく。

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