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YEAR OF NO LIGHT / Consolamentum

2001年、フランスのボルドーで結成されたYears Of No Lightは今年結成20周年を迎えます。2006年のデビューアルバムNordでは、バンドは暗くてアグレッシブなスラッジメタルサウンドとポストロックやシューゲージにインスパイアされたサイケデリックな雰囲気を組み合わせました。2008年、彼らはラインナップを大幅に変更してインストルメンタルバンドに変身。本作は7年ぶりの5作目です。好評だった前作「Tocsin(2013)」と同じラインナップで制作。前作から本作までのリリースまでの間に過去の映画に対するサントラの仕事をしており、作風に影響を与えたとのこと。たとえば、2013年にCT Dreyerの1932年の映画「Vampyr」のobituary-soundtrackの作成や、バンドとしてパリのケブランリ美術館で演奏したJeanRouchの1955年の短編映画「LesMaîtresFous」のオリジナルスコアなど。また、前作Tocsinのトラック「Désolation」が映画「Jessicaforever」のサウンドトラックに登場しました。映画音楽的な構成、視覚的な要素が本作には取り入れられています。現在メンバーは6名。それぞれ別のバンドで活動しており、サイドプロジェクトという位置づけ。

活動国:フランス
ジャンル: ポストメタル、スラッジメタル、ドローンメタル、ポストブラックメタル
活動年:2001-現在
メンバー:
 Jérôme Alban – guitar (2001–present) 
  (Baron Oufo, Donald Washington, Metronome Charisma)
 Bertrand Sébenne – drums, percussions, keyboards (2001–present) 
  (Metronome Charisma)
 Johan Sébenne – bass guitar, keyboards, electronics (2001–present)
  (Altaïr Temple, Nexus Sun)
 Pierre Anouilh – guitar (2002–present)
  (Déjà Mort)
 Shiran Kaïdine – guitar (2008–present) 
  (Monarch!)
 Mathieu Mégemont – drums, keyboards, synthesizer (2008–present)
  (Aérôflôt)

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総合評価 ★★★★☆

最初のノイズから不思議なキャッチ―さというか、聴いていて心地よさがある。次はどうなるのだろう、というワクワク感というか。ただ、ボーカルレスなので身を委ねる、音の渦を感じる聞き方。かなりゆっくりとした、性急さがない展開であるが適度に展開し、どこか包容力や人懐っこさがある。メロディやコード進行そのものに優美さがあるからだろう。芸術作品、アート性を強く感じる。映画や美術といったものとの親和性がある。時間をキャンバスにして、その上にどのように絵を描いていくか。各パートのプレイヤーがそれぞれの作家性を出しつつ、全体としてはきちんと設計、構築された曲作りになっていてアンサンブル力が高い。酩酊するのに適した作品。

1.Objurgation 12:46 ★★★★☆

タイトルの意味は「厳しい非難、けん責」。長く続くノイズ、だんだんと曲が立ち上がっていく。とにかくゆっくりとした動き。ただ、だんだんと動きが高まっていく。荘厳さは失われず、かといって過度に冗長でもない。だんだんと動き出す。確かにサントラのようだが音楽だけで雄弁。大きなものが動き出す、鼓舞する、あるいは怪獣映画か。とてもゆったりとした感情の流れ。インストなのでボーカルによる煽情性がない。13分弱かけてゆったりと表情を変える。音像的には実験的な要素もあるが聴感はけっこうスラッジメタル、分かりやすい盛り上がりがある。去年の衝撃盤に選んだNeptunian Maximlism / Éonsをかなり聞きやすく、曲ごとのフックを高めた感じ。

2.Alètheia 07:39 ★★★★

タイトルの意味はギリシア語で「真理(アレテイア)」。ややアンビエントな音世界、クリアで透き通った世界から曲が始まっていく、シューゲイザー的な透き通ったノイズがあるコードが空間を埋める。けっこうリズムは性急。ブラックメタル的音像とも言える。シューゲイズとブラックメタルのコードかき鳴らしは近い。ただ、ドラムパターンはブラストビートではない。どちらかといえばトライバルな感じで手数は多いが隙間がある。いや、だんだんと盛り上がってきた。ブラックメタル的音像とも言えるが美醜の対比でいえば醜というか強い歪みであるボーカルが無い分、純粋な吹雪の美しさというか、美の要素が強い。

3.Interdit aux Vivants, aux Morts et aux Chiens 11:10 ★★★★☆

タイトルの意味は「生者、死者、犬には禁じられている」。スラッジ、ストーナー的。ひたすらスローでヘヴィなリフだが不穏さや緊張感はそこまで強くない。どこか鎮静させる、包み込むような和音。酩酊感を誘う。ただ、音自体は禍々しさ、不穏さがある。反復を続けるうちに音のレイヤーが重なる。打楽器のリズムが増え、高揚感が出てくる。後半に向けてテンションが高まっていく。フランスのこうしたバンド群、たとえばAlscetにしても、極端な攻撃性というよりはどこか優美さがある。このバンドは多人数、各パートのプレイヤーがいる分、アンサンブルというか各パートのアイデアが多重に織りなされている印象を受ける。だからそれぞれのパートで少しづつ表情が変わっていく。途中からメロディが現れる。

4.Réalgar 12:45 ★★★★☆

静謐さも感じるアルペジオからスタート、シューゲイズ的なギターが入ってきて空間が埋まるが、全体としては穏やか。哀切や郷愁といったもの悲しい雰囲気もあるが慟哭ではない。情景としては静けさもある。ただ、音はだんだんと緊迫感を増していく。全体的に音の緊張感は強い。ジャズのような、各プレイヤーが精神を研ぎ澄ましているのが伝わる。美術館で演奏、とバイオグラフィーにあったがしっくりくる。アート的、芸術的な側面。だんだんと創り上げていくような感覚がある。ただ、キャッチ―さもある。歌メロが無い分Toolほどキャッチ―ではないが、変拍子も少ない。延々と前衛的というわけではなくビートはしっかりとあるのでビートに導かれる酩酊感があるし、メロディそのものには物語性がある。タイトルの意味は「鶏冠(とさか)石」。

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5.Came 10:55 ★★★★

スロウ、スローモーションで地面に落ちる錘のように、あるいは水面に物を落とした時の水の飛び跳ね方をスーパースローモーションで見るようなドラム音。ゆっくりとスローモーションのように感じる。時の流れが遅くなるような感覚がある。タイトルの意味は「来た」。意図的に途中でリズムがさらに遅くなっていく。テンポが遅くなるというよりは、頭の拍が少し遅くなる。全体として延ばされていく。キーボードフレーズも。さまざまなものが遅延していく。ブラックホールに吸い込まれる光か。最後に突然加速する。飲み込まれていくのか、逃げ出すのか、抜け出したのか。「来た」。

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