入門編.初めてメタル音楽を聞く人におススメしたい10曲 2023
2020年に同名の記事を書きまして、その改訂版です。
メタル(ヘヴィ・メタル)と聞いて、どんなイメージがあるでしょうか。この間、メタルを知らない人と話していて気付いたのですが、その人のメタルのイメージは「すごくうるさくて、メロディーがなく、どれを聞いても同じに聞こえるノイズのような怖い音楽」というイメージでした。でも、僕のメタルのイメージは「メロディアスで起伏が激しくて演奏が上手い音楽」です。「メロディーがなく」と「メロディアスで」の間にはだいぶ差があります。確かに一部極端なバンドはいますが、意外とメタル全体についてこういう印象を持っている方もいるのかもしれません。
今回は、僕が「メロディアスで起伏が激しくて演奏が上手い」と思う曲を10曲選んでみました。メタル音楽を聴いてきた中で一番メロディが美しいと感じたトップ10曲です。その分、かなり個人的なメロディ嗜好が色濃く出ています。具体的にはかなり欧州、それも北欧寄りになりました。なんだかんだJ-POP的なコード進行が複雑な曲が好きなんですよね。J-POPって世界的に観てもかなりメロディアスで歌モノとしてはコード進行が複雑。それに一番近いのが北欧音楽だと思います。
美しいメロディに加えメタルならではの静と動のコントラスト、エネルギーのある演奏と歌唱を感じる10曲です。メタル音楽の美しさに触れ、興味を持ってもらえれば幸いです。
Blue Öyster Cult / (Don't Fear) The Reaper
USのバンドの中で最初期に「ヘヴィメタル」を前面に打ち出したBlue Öyster Cultの1976年のヒット曲。「ヘヴィメタル」という単語が特定の音楽ジャンルとして確立していくのは1970年代半ばからであり、より具体的には1970年代後半のN.W.O.B.H.M.からです。それ以前はハードロック、プログレッシブロック、アートロックなど「60年代後半から発展してきたロック」の延長線上にあった。この曲はソフトロック的な響きもある美しい曲ですが、途中のギターソロに入る曲展開や歌詞のテーマなど、「ヘヴィメタル」とされる要素も満たしています。1970年代後半からJourneyやTOTO、Bostonなどがヒットを飛ばすようになり、1983年のQuiet Riotの「Cum On Feel the Noize」の全米1位から80年代のヘヴィメタルブームが始まっていくわけですが、それらに先駆けた「ハードロックシーンで最初期のヒット曲」でもあります。
Annihilator / Sounds good to me
カナダのスラッシュメタルシーンを牽引したアナイアレイターの1993年のアルバム「Set The World On Fire」からのナンバー。USはグランジブーム真っ只中でしたが、その中でカナダらしい清涼感がある美しいメロディを含んだアルバムをリリースしました。アナイアレイターの全カタログの中でもこのアルバム、この曲は異質なんですよね。こんなに美しいメロディが突然変異的に顕れた。個人的に90年代の空気感を代表する曲の一つ。ジャケットの写真もダメージジーンズで廃墟にたたずむ女性が90年代的です。中心メンバーのジェフウォーカーズはメガデスのデイブムステインと並ぶリフマスターであり、このアルバムの他の曲にはカッコいいリフが満載。
TNT / Tonight I`m Falling
90年代後半にメロデスが台頭する以前の北欧メタルと言えば「美しいメロディ、透明感のあるハーモニー」といった印象がありましたが、その印象を作ったのはEurope、TNT、220VOLT、Treat、Stratovariousといったバンド達だったと思います。その中でもこの曲が僕の「北欧メタル」のイメージを体現した名曲。北欧、特にスウェーデンはABBAの出身国であり、北欧ポップスはコード展開とメロディ展開の妙が特色。カナダもそうですが北の方に行くほどメロディを重視する印象がありますね。TNTのこの曲は「北欧らしい美しい歌メロ」にヘヴィメタルらしい演奏技巧、ダイナミズム、歯切れの良さが組み合わさった名曲。発表は1989年で、メタルシーンの中心はヘアメタル、グラムメタルにあり、スラッシュメタルも台頭していた頃。残念ながらTNTは世界的成功を収めることはできませんでしたが、80年代メタル史に燦然と輝く名曲を生み出しました。
Ghost / Square Hammer
Europe以来の世界規模の成功を収めつつあるスウェーデンのGhost。2016年に発表されたこの曲は「2010年代のメタルを代表する名曲」としてLoudwire他海外メディアで1位に選出されています。いわゆる第一世代の「美しく透明感のあるメロディ」を引き継いだ北欧メタルサウンドにメイキャップした「メタル」のイメージを体現したようなビジュアル。入り口は分かりやすく、中身は複雑という奥深いバンドで、2020年代のメタルシーンを牽引するバンドの一つになりました。フックがあり美しい歌メロに加えて曲のアレンジも絶妙です。各楽器隊のフレーズ、組み合わせ方が魔法のように嚙み合っている。珠玉。
Lordi / Hard Rock Hallelujah
2021年、イタリアのマネスキンがユーロビジョン(ヨーロッパ全域の国対抗歌合戦番組)で優勝して話題になりましたが、2006年、同じユーロビジョンで優勝したのがローディのこの曲。フィンランドから出た初の優勝者であり、メタルシーンから出た初の優勝者でもあります。ローディはKISSをさらにディフォルメしたようなモンスターメイク(というか被り物)というインパクトのあるビジュアルであり、最初はデスメタルバンドかと思われていたそうなんですね。だけれど実際に奏でる曲は人懐っこいメロディを持ったパーティロックンロール。そのギャップも受けたのでしょう。やっぱりロックもメタルも根っこはライブエンターテイメントですから、ビジュアル的なインパクトと曲の楽しさが重要。ダミ声ながら北欧らしいフックのある印象的な歌メロを持つこの曲。ユーロビジョン優勝も納得の名曲です。
Harem Scarem / The Death Of Me
カナダ出身で90年代から活躍するハーレムスキャーレムの2020年発表の曲。卓越したメロディセンスを持ちながらグランジムーブメントの流れの中で一度は沈没したバンドでしたがその後復活して再び輝きを放っています。ちょっとヘヴィなリフからフックのあるヴァース、展開し続けるメロディ。2010年代からイタリアのフロンティアレーベルを筆頭に「メロディアスハード」のバンド達が復活して次々とアルバムをリリースしていますが、そのムーブメントから個人的ベストトラックを1曲選んでみました。
Dizzy Mizz Lizzy / Glory
1994年、デンマークから新星のように現れたDizzy Mizz Lizzy。なお、デンマークも北欧です。北欧はスウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、アイスランドの5国。それぞれ国別に差異はあるのですが共通しているのがメロディの美しさですね。多くの名曲の中でもこの曲は不思議な人懐っこさと耳に残るメロディを持っています。グランジ・オルタナムーブメントも通過した少しけだるく生々しいサウンドでもあり、控えめな哀愁が身に沁みます。個人的には90年代を代表する1曲であり、90年代を代表するギターリフ。
Dream Theater / Another Day
ここで1曲バラードを。US、プログレッシブメタルと呼ばれるジャンルを深化させたドリームシアターの1992年のナンバー。バークリー音楽院卒のメンバーを中心に結成された演奏力が非常に高いバンドで、クラシックやジャズの奏者とメタルの垣根がなくなっていく契機となりました。メタルはもともと演奏力が高いプロフェッショナルな音楽という側面がありましたが、「ロックスター」のライフスタイルのイメージもあり、「練習の虫」「楽器職人」の側面より(特に80年代は)ビジュアルや悪魔的なイメージが先行していた。テクニカルな音楽としての側面を真剣に訴えたのはドリームシアターの功績だったと思います。この曲もさまざまな音楽的要素が組み込まれた曲で複雑な構築美があります。最後、ジャズ・フュージョンっぽい表情が出てくるのも当時としては斬新。なお、メタル音楽のメロディアスな側面が顕著に出るのはバラードなのですが、メタルバラード特集はまた別途やろうと思うので今回はバラード調の曲はこの1曲だけにしておきます。
Nightwish / Wish I Had an Angel
2000年代初頭のNuMetalブームを最後に新しいメタルの世界的ムーブメントはまだ出てきていません。大きな潮流が不在の中でUK、USが中心だった世界のメタルシーンは各地のシーンのトレンドが分裂していき、欧州メタルシーンはドイツと北欧を中心に独自の発展・嗜好の進化を遂げます。その中でも最大の商業的成功を収めたのがフィンランドのNightwish。フィンランド音楽界で最大の成功者とも言えるでしょう。フィンランドは北欧の中でも特に人懐っこい、というか僕個人の琴線に触れるメロディを奏でるバンドが多い国。女性のオペラティックなボーカルと少しグロウル気味(ハーシュボーカル)の男性ボーカルが絡み合うモダンメタルスタイルの曲。2004年発表のこの曲は2000年代北欧メタルを代表する曲です。
Beast In Black / One Night In Tokyo
このプレイリストの最後はハイテンションなディスコメタルで締めましょう。2020年前後から欧州メタルの潮流の一つに「ディスコサウンドの導入」があります。その中でも耳に残るフックがある曲。フィンランドのBeast In Blackの2022年のナンバー。ベタベタなイントロからこれでもかとコテコテに盛り上げる感覚がパーティー感を盛り上げます。ベタながらしっかりボーカルパフォーマンスやギターソロ、コード展開が練られていて流石の1曲。フィンランド本国ではナショナルチャート1位を獲得するほどのバンドになっており、欧州メタル界の中でさらに頭角を現してほしいバンド。日本市場で言えば新世代のHelloweenのような存在になれるポテンシャルがあると思います。
以上、10曲でした。プレイリストを置いておくので通しでも聴いてみてください。
後記
前回の記事は「入門編」ながら、「幅広いメタル音楽を紹介」するという視点で選んだ10曲でした。そこで想定していた読者はある程度の音楽マニアだったんですよね。というのも2020年の時点で「メタルを聴いてみたい」という時点である程度マニアックな聴き手だろう、と。メタルってぜんぜん流行と関係ないところにいましたから。
ただ、その後ずっとPVが一定数あるんですよね。多くの人に表示されている。これは「メタルに触れてみたい」という人が増えているのだろうと考えました。考えてみたら日本はメタルのガールズバンドも増えてきたし、アニメソングやゲームミュージックもハードロック調、メタル調のものが増えてきましたよね。もっとライトな、J-POPが好きな層がメタルに興味を持っているのかもしれない。そう思って今回の記事を書きました。10曲中フィンランド3曲、北欧だけで6曲とかなり偏っています。残り2曲もカナダだし。どれだけ北の国ばかり選ぶんだよと。でも、北の国のメロディセンスはJ-POPに近いように感じるんですよね。僕もJ-POPで育ったから北欧メタルのメロディに惹かれるんじゃないかと。だから今回はこのあたりの曲を入り口として選んでみました。
より「様々なメタル音楽に触れてみたい」という方は前回の記事も見てみてください。
それでは良いミュージックライフを。
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