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Van Canto / To The Power Of Eight

アカペラメタルという奇想天外なジャンルを切り開いたドイツのVan Canto(ヴァン・カント)。7人編成でドラム以外はすべてアカペラ、ドラムはドラマーが演奏しています。こちらは2021年リリースの8枚目のアルバム。メタル界の色物を扱わせたら世界一の呼び声も高いナパームレコードからのリリースです。初めて聴きましたが凄いですねこのバンド。

出身国:ドイツ
ジャンル:A Cappella/Power Metal
活動年:2006-現在
メンバー:
 Inga Scharf – female lead vocals (2006–present)
 Ross Thompson – higher guitar vocals (2006–present)
 Stefan Schmidt – lower guitar vocals, solo guitar vocals, vocals with distortion effects (2006–present)
 Ingo "Ike" Sterzinger – bass vocals (full time member: 2006–2015, studio and selected concerts: 2017–present)
 Bastian Emig – drums (2007–present)
 Jan Moritz – bass vocals (2015–present)
 Hagen "Hagel" Hirschmann – male lead vocals (2017–present)
レーベル:Napalm Records

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1.To The Power Of Eight 01:58 ★★★☆

唸るような声、少し船をこぐようなきしむ音が入る。かすかなヴァイキング感。トトトトトンというリズム。アカペラらしい展開。船を漕ぐリズムが入る。船漕ぎ歌、歌詞は無くハミング。ボーカルが展開していく、さすがアカペラの厚みが違う。いわゆるクワイアコーラスだけを抜き出した感じ。

2.Dead by the Night 03:37 ★★★★

ハミングとドラムが入ってくる、聞いたことのない音像、面白い。どうしてくれようか(どうすればよいのだ)、という気持ちになるが、これはこれで凄いな。ギターとベースがエフェクターがあまりかかっておらず、「人の声」感が強い。何を聞かされているのか脳が混乱する感覚がある。本当にパワーメタルの構成を人の声でやっている、リードボーカルは男女それぞれいて、「人の声」で構築されたパワーメタルの上で朗々と歌っている。これで8作目なのか、良くネタが尽きないな!? メタル界の飛び道具の宝庫、ナパームレコードの真骨頂。困惑が続く。

3.Faith Focus Finish 04:56 ★★★★

ある意味悪夢のような音像だな、何をイメージすればよいのか困る。いちいちベースやリフが「モンモンモンモン」とか言うもので気になって仕方がない。思わず笑ってしまうが、これが狙いなのか。音だけで言えばNanowar Of Steelよりはるかに笑い指数が高い。世の中広いな。衝撃度で言ったらボリウッドを華麗にメタルと融合してみせたBloodywood以来かも。ただ、「カッコいい!」というのとはまた違うなぁ、うーん。やはり人の声というのは限界も制約もある、ただ、その中で挑戦を続ける姿勢が胸を打つといえば打つが、まだ3曲目だと音に慣れない。いろいろな音楽を聞いてきたがここまで違和感が強い、不思議な感覚になる音像も珍しい。しかもこれフィンランドじゃなくてドイツなんだよなぁ。北欧ジョークみたいだが。曲作りとかかっちりしてるしむやみと精密で完成度が高いのがドイツ的。うーん、とにかく「モンモンモンモン」が気になって歌メロが頭に入ってこない。


4.Falling Down 05:11 ★★★★☆

いちいちリフで笑いを取りに来る。というか、本人たちは当たり前にやっているのだろうけれど、いちいちリフやバッキングで言葉を変えるのが笑えて仕方がない。「ダバダバダバダバダバ」かな。リードボーカルに耳がいかない。リフの声に耳が言ってしまう。得体のしれない怪物がうごめいているような気もするが印象としてとにかくコミカル。それでいて完成度が高くてかっちりしているから感情をどこに持っていけばいいのか分からない。

…駄目だ。リードボーカルのラインを聞こうと思って集中してみたが、バッキングの声の方が気になる。むやみと七変化し、変化するたびに笑えてしまう。ここまでの破壊力があるとは。アカペラメタル凄いな。「ドンディキドンディキ」言い出した。たまらん。これ、一度ツボに入ったらツボに入りっぱなしだな。これ、ライブだとどういうノリなんだろう。普通にパワーメタルなんだろうか。「ゥーワァ ゥーワア」といった感じでバッキングが緩急をつけるのもまた笑わせに来ている。


5.Heads Up High 03:37 ★★★☆

低音ボーカルが入ってきた。ドラムも入っているがあまり目立たないな、とにかくギターとベースのボーカル、楽器隊担当のアカペラの存在感が強い。

…ふぅ、ようやく少し慣れてきた。しかし、コーラスだと全体がハモるかと思ったが、リードボーカルは男女各1名なんだな、楽器隊は徹頭徹尾楽器を真似ている。リードボーカルのメロディを聞く心の余裕が出てきた。ただ、これリードボーカルより「ボンボンボンボンボン、ドゥーンドゥーンドゥーン」を口ずさみたくなるな。

6.Raise Your Horns 04:24 ★★★

また得体のしれない呪術のようなリフ。初めてこれを聴いた人はまさかこのまま1曲行くとは思うまい。そういえばゴシック・ドゥーワップという触れ込みのバンドがあったが聞いたところそこまで衝撃を受けなかった。それはコーラスはドゥーワップ的だったけれどほかの楽器の音も入っていたのであまり違和感がなかった。楽器隊を全部声でやっているこっちの方がヤバい。しかし、ここまでリードボーカルに耳がいかないものだとは。得体のしれない楽器隊のボーカルの方が気になる。Magma(フランスのプログレッシブロックバンド)が独自に作ったコバイア語やスタートレックのクリンゴン語ではないが、聞いたことが無い言語というか、そういう違う種族と歌で交信しているような音像か。エイリアンだなまさに。一つ一つ取り出せばアカペラの常套句というか、使われる発声法なんだろうけれど、パワーメタルと絡んだときの違和感が凄い。

この曲の後半は落ち着いてきた、リードボーカルが前に出てくる。でもこれミックスも意図的だな、特にリードだけ前に出るようにはなっていない。声は声としてけっこう均等にミックスされている。


7.Turn Back Time 03:41 ★★★☆

いかにもアカペラ的な始まり方、これはリードボーカルのライン、歌詞を全員でなぞる。違和感が少なく、普通のパワーメタルバンドにも入っていそうなクワイア集めのコーラス曲、たとえばブラインドガーディアンのバーズソングとか、イマジネーションフロムジアザーサイドの曲のボーカルパートだけ抜き出したような曲。あまり楽器隊ボーカルが素っ頓狂な声を出さない。そうか、バラードだと比較的聞きなれた感じになるのか。

しっかり聞いてみると、リードボーカルはそれほど突き抜けるものが無いな。音域的にもうちょっとパワフルだと抜けてくるのだろう。

8.Run to the Hills 04:00 ★★★☆

まさかのメイデン。…...ダメだ、テンポアップするところで「来るだろうな」と思っても笑ってしまった。「ダンディキダンディキダンディキゥーワー」じゃねえんだよ! 突っ込みたくなって仕方がない。壮大なボケを延々と繰り広げられている感覚なのだが、私が変なのだろうか。こういう聞き方を求められるバンドじゃないのかな。ライブで見たらめちゃくちゃ感動したり、胸熱だったりするのかな(これだけ完成度が高いと、完全に再現されると圧倒される可能性も感じる)。

結局「すでに分かっているネタ」なのにずっと笑いがこみあげてくるのは音選びと編曲力が高いんだな。一歩間違えると大滑りするのをアルバム1枚丸ごと、どころかすでに8枚目だから、確立されているのだろう。

9.Hardrock Padlock 03:36 ★★★★☆

これもカバー曲なのかな、メタルというよりハードロック調の曲、これはリードボーカルが表に出てくるし、サマになっている。なんだかLordi(フィンランド)みたいだな。調べたらどうもオリジナル曲のようだ、違和感が(良くも悪くも)ない。それがちょっと物足りなくもあるがこの曲はかっこいい。

10.Thunderstruck 04:52 ★★★★

AC/DCのカバー。声で。これはギターとベースの音に聞こえる、エフェクトが強め。ボーカルが意外なほどAC/DCのモノマネというか、ああいう雰囲気を出すのが上手い。ハードロック向きの声なんじゃないの、男声リードボーカルは。ややハスキーでいい声。メイデンのような違和感はない。楽器隊がずっと「ドゥー」の音で通していて発声を変えないのも安定感があるんだな。エフェクトも強めでベースとソロギターはあまり声に聞こえない。むしろ、こういう音像を想定して聞き始めたら、ここまでの曲は思った以上に「声」感が強くて脳が混乱した。これは完成度は高いが想定の範囲内の音像。

11.From the End 04:54 ★★★★☆

なんだかワチャワチャした音が出てきた。「モンモンモンモン」再び。

ああ! 何かに似ていると思ったらケチャだ、インドネシア(バリ)の。ケチャケチャケチャケチャ言うやつ。あれのような違和感がある。ああいうポリリズム感はなく、あくまでパワーメタルなのでかっちりしているし分かりやすいリズムなのだが、小刻みな単語の繰り返しボーカルが多重に重なっている感じがケチャ的な不気味さ、うごめく感じ、かつコミカルな感じ(シリアスなんだがどこか笑える)を出している。

これはフルパワー、楽器隊も今までに出てきた手法総動員で歌い上げる。疾走曲という位置づけか、アップテンポ。楽器には聞こえないというか、人の声感が強まった。それがかえって妙な箱庭感というか、独自の音宇宙を作っている感じもある。気が付けばもう終盤。なんだかんだアルバムを聴きとおせるだけのクオリティがある。この曲は違和感が強い。この「違和感」こそが特徴なんだな。まさに唯一無二。

12.I Want It All 03:34 ★★★★

お、Queenカバー。歌い出しはかっこいい、もともとハーモニーでつかむ曲なので。男声リードボーカルが前面に出てくる。そうか、ハードロック的な曲だとバックはそれほど音数が多くないから完成度が上がるのか。パワーメタル的な刻みリフとか、楽器隊の音数が増えると必然的に違和感が増す。人の声でそれをやるわけだから無理が出てくる。この曲はそこまで無理がない。リードボーカルがイキイキしているというか、音の隙間が多いのでよく聞こえる。やはりすべて人の声で音の密度が上がっていくと楽器隊の方が口数が多い分目立つ。

総合評価 ★★★★

驚いた。ここまでやるとは思わなかった。一発芸的な発想だが、それをアルバム一枚(いや、今までに8枚!)やり切っているのはすさまじいし、それだけの積み重ねを感じる完成度。これ、芸人枠な扱いなのかなぁ、それともピュアなメタルミュージシャンとして扱われているのだろうか。立ち位置が気になる。フェスとかだと何処まで行っても色物だとは思うのだけれど。あまりに音がほかのバンドと違う。ただ、1曲気に入れば「どれか1曲だけ突出している」ことがなく、どの曲も完成度が高いので最後まで楽しめる。とはいえかなり人を選ぶ気もする。しかし世の中広い。意表を突かれた。

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