見出し画像

Volbeat ‎/ Servant Of The Mind

総合評価 ★★★★★

50年代~90年代までのロックミュージックのさまざまなスタイルを取り入れた硬派なメタル。このバンドのトレードマークであるロカビリー感はもちろん、サーフミュージックや70年代的なハードロック、80年代ヘアメタル(およびヨーロッパに代表される美メロの北欧メタル)、90年代のグルーヴメタル(というかメタリカ)、そして90年代中盤以降のメロコアを取り入れたかなりミクスチャーなサウンド。一部では90年代後半以降のメロデスやブラックメタルなども取り入れられている。ある意味「メタルの歴史をたどるアルバム」とも言えるけれど、それだけ雑多(かつパロディ的)でありながら色物的にならず、聞き終えたときはどこか硬派な、芯が通った感覚があるのは通底するビートの強さとメロディの良さがあるからだろう。どの曲もビートがしっかりあってノレる。ビートが強靭だから聞いていて心地よい。また、どの曲にも印象的なメロディが入っている。このメロディセンスは流石一流バンド。さまざまな要素を「取り入れてみました」的なやけくそさではなく、完成度の高さでうならせる1枚。御見それしました。

1.Temple Of Ekur ★★★★☆

ミドルテンポでハードロックなリフ。ややニューメタル、いや、ポストグランジというべきか、少しダークなUSメタル感もある。ボーカルラインは少しアラビックなイメージ、デザートロック感もあるが、コーラスはメロディアス。さわやかなコーラスを持ったメロディアスハードロック。面白いメロディ進行。カナダのハーレムスキャーレムのような「グランジを通過したハードロックバンド」という感じがする。デンマークのバンドだし、一応北欧メタルなんだよな。この曲は北欧というより東欧感があるが。かすかにロックンロール、ロカビリー的なノリもある。もともとロカビリー+メタルがウリで出てきたバンドだし、この曲もそのノリは健在。

2.Wait A Minute My Girl ★★★★★

メロコア的な、勢いの良いスタート。基本的にロックンロールでビートがしっかりしているのがいい。お、サックスソロが入ってきた。ハートランドロック(ブルーススプリングスティーンとか)的でもある。暴走ロックンロールではなく、きちんと50年代、60年代初頭までの「ダンスミュージックとしてのロックンロール」なんだよな。サイケの前の。ホンキートンクピアノも入ってきた、これは王道のロックンロールパーティー。

3.The Sacred Stones ★★★★☆

トライトーンを使った不吉な、ブラックサバスやジューダスプリースト的なオープニング。デンマークだからキングダイアモンドの末裔でもあるんだよな。ちょっとアラビックな音階がここにも出てくる。お、この曲はパワーメタル感があるな。初期DIO的なビートというか、ファンタジックな様式美。ボーカルはジェイムスヘットフィールドとロニージェイムズディオの両方を意識したような歌い方。語尾はヘットフィールドだし、歌い上げ方はディオ。器用だな。


4.Shotgun Blues ★★★★★

ザクザクしたリフ、ただ、極端な暴虐性よりはきちんと統率された感覚、プロダクションが洗練されている。さすがトップレベルのバンド。聴きやすい。そこまで低音が強調されていないんだな。中音域が厚めだけれど音は幅広くなっていて、解放感はある。音のレンジが広いと音が散るから、しっかり広いレンジを使ってアレンジされている印象。おお、これは北欧メタルっぽいメロディだな。そこにちょっとモダンな、90年代以降のリフが乗る。ビートは少しロカビリー感がある。体を動かすとロカビリー、ロックンロールのノリなんだよね。そういえばスコーピオンズとかもけっこうこういうノリ。横ノリというか。アクセプトもそう。ジャーマンメタルだってベテラン、70年代から活動しているようなアーティストはロックンロール直系感が強い。お、途中からリフが変わった。これはメタリカっぽい展開。ラーズと違って軽快なドラミングだけれど。


5.The Devil Rages On ★★★★☆

ヘヴィでダウナーなリフ。ちょっとオリエンタルなリフ。LoadとかReloadのころのメタリカ感というか、実験的なグルーヴメタル感。お、そこからちょっとサーフサウンドっぽくなった。面白い展開だな。軽快なサーフロックンロール。バンドの根幹にあるユニークさ、ロカビリー感、ダンスロック感はしっかり保ちつつ、バリエーションを出してそれぞれの曲のキャラクターが経っている。「この展開からこう来るのか」という面白さがある。

6.Say No More ★★★★☆

ミドルテンポでスラッシュメタル的なスタート。リフの後はロックンロールなリズムに。全体としては2nd、3rdのころのメタリカ感が強い。というか、まんまメタリカだなこれ。うーん、でもメロディセンスはブラックアルバム感でもあるか。笑えるぐらい「Sad But True」と「Say No More」のリズムが一緒。ただ、曲そのものの完成度は高くてカッコいい。メタリカのパロディであることは分かるが、全体としてはかなりオリジナル性が高い。しかしこんなにBeatallica的なメタリカオマージュをするバンドだったっけ。

7.Heaven's Descent ★★★★☆

お、ストレートなハードロック、そしてコーラスでは北欧メタル的な透き通るメロディ。同郷の先輩プリティメイズにも通じる。ただ、そこにロカビリー的なリフが入ってくるのが面白い。途中から雰囲気が変わる、このメロディセンスはUK的、ワイルドハーツとかにも近いミクスチャー感だな。そしてギターソロがストレートにカッコいい。グランジ期のメタリカ的なヴァース→北欧メタル的なコーラス→ロカビリーなリフ、という対比が面白い。


8.Dagen Før (Featuring Stine Bramsen) ★★★★☆

おお、透き通るメロディ。フロンティアレーベル的なメロハー。女性ボーカルがコーラスではいってくる、ゲストだな。Stine Bramsenはデンマークで最高のポップグループAlphabeatアルファビートのリードボーカル、らしい。デンマーク本国でのヒットシングル向けか。ラジオでかかりそうな曲。コーラスが分厚い。全体的にさわやかメロハーだがリフはちょっと音程がひねくれていて、このバンド”らしさ”を主張している。


9.The Passenger ★★★★☆

お、パンキッシュなナンバー、シンプルなビート。ブラックアルバムにおける「So What」みたいな。だけれど、コーラスに入ると爽やかなポップロックっぽくなる。ミクスチャーの幅が広いな。通底しているのはメロディセンスの良さ。どの曲もしっかりとフックの効いたコーラスがある。間奏ではちょっとパワーメタルというかバイキングメタル的なパートも出てくる。そこからメロディアスで爽やかなパワーポップ的コーラスへ。


10.Step Into Light ★★★★☆

サーフっぽいスタート。ミザルーとかの音程。ボーカルが入ってくる。50年代、60年代的な音楽要素を入れるのが特徴なんだな。そこに80年代のヘアメタルやメロディアスな北欧メタルと90年代以降のモダンメタル(主にメタリカ)を組み合わせるというミクスチャー技。この曲もサーフから始まるがコーラスはヘアメタル的なコーラスが出てくる。ベースはサーフで間奏もサーフ。面白いな。変拍子はないけれど(ドラムパターンは変わるがBPMは一定)プログレとも言えるかもしれない。


11.Becoming ★★★★☆

かなり高速な刻み、スラッシーな感じ。お、ボーカルも切り込んでくる感じに。このボーカル多彩だなぁ。さすが、現在の欧州メタルのトップ前線で活躍しているバンドだけある。フェスのヘッドライナークラスだよね。コーラスでは爽やかな北欧メタル的なメロディが出てくる。このちょっとオリエンタルなメロディはどこ由来なんだろうなぁ。ロカビリーとかサイコビリーにはこういうテイストがあるよね。最初と最後は激しい刻みでデスメタル的。そういえばこのボーカルはもともとDeathに影響を受けてデスメタルバンドからキャリアをスタートしているらしい。


12.Mindlock ★★★★★

ミドルテンポでうねるようなリフ。グルーヴィーな90年代メタリカ、といった趣。しかしブラックアルバムのテイストをこう再現するとは。ちょうど30周年だし、本作のテーマが「1991年」だったのだろうか。この曲のコーラスはメロディアスでメロコア的。そういえばメタリカもSt.Angerとデスマグネティックはけっこうメロコア的な要素も入っているんだよね。しかし、「爽やかなコーラスパート」の完成度が高いなぁ。さまざまな年代、ジャンルの音楽を魔改造的に組み合わせつつギャグで終わらないのは各パートの完成度が高いから。特にコーラスのメロディラインは捨て曲なし。


13.Lasse's Birgitta ★★★★☆

本編最後の曲。30分台、40分台のアルバムも多い最近にしてはけっこう長尺のアルバム(ボーナストラック含めると78分)なのだけれど短く感じる。最初はややブルージーというかストーナーな感じからスタートして途中から疾走というか、アップテンポのスラッシーな音像に変化する。そこからメロディアスなサビに展開。この曲は8分近い大曲。パートも次々と展開していく。雨音の中で響く鐘の音で終わり。最後はブラックサバスオマージュか。長尺曲でも中だるみさせず聞かせきるのはやはりビートが強い、しっかり踊れる心地よいビートだからだろう。

Bonus Disc

14.Return To None ★★★★

本編終わり、ここからボーナストラック。ザクザクした刻みリフ。思い切りメタリカっぽい歌い方。吐き捨て型ボーカル。「ちょっとやりすぎ」ということで本編からは漏れたのだろうか。なかなか面白い曲。


15.Domino ★★★★

ディスコサウンド的な曲、お、ボーカルはニューウェーブなスタイル。80年代っぽいな。今回のアルバムは「50年代から90年代のさまざまなサウンドスタイルをミックスして、でもしっかり硬派なメタルサウンドにする」といったところだったのかな。このサウンドはやってみたけど浮いた、という感じなのかな。プレスリーのパロディみたいな歌い方で、ニューウェーブ感がある。実験的なサウンドだけれど曲の骨子は完全なロカビリー。


16.Shotgun Blues (Featuring Dave Matrise) ★★★★

本編に入った曲のボーカル違い。Dave MatriseはUSのデスメタルバンドのボーカルらしい。ああ、スタイルがグロウルだ。だいぶ雰囲気が変わるな。ヴァースがデスボイス。実験してみたけれどやりすぎた、と思ったのだろうな。クリーントーン(もともとのボーカル)とグロウルの組み合わせ、というのをやってみたかったのだろう。確かにこうして聞くとヴァースはメロデス感もある。

17.Dagen Før (Michael Vox Version) ★★★★

本編に入った曲のボーカル違い。ポップボーカリスト(女性)ではなく、本人が歌っている。確かにいい曲だけれどこれだとフックが弱いからデュエットにしたのだろう。アルバムの制作過程での模索が分かる過程。

18.Don’t Tread On Me ★★★★☆

これはMetallica Blacklistに提供したバージョンかな。Metallicaのブラックアルバムに入っている曲のカバー。今回の大きなリファレンスはブラックアルバムなんだろうな。やはりカッコいい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?