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Arogya / Genesis

AROGYA(アローギャ)はインドのバンドでインド系ネパール人のメンバーによって2014年に結成、ネパールを中心に活動していましたが活動の幅を広げ本作は全英語詩の3作目。ダークな雰囲気を持ったシンセメタル、アリーナロックで、スケール感のある音像を作り出しています。本作はドイツのレコードレーベルOut of LineMusicからのリリース。2021年作。

サンスクリット語でAROGYAはヒーラーを意味し、彼らの音楽は壊れたものを癒し、精神を高め、魂の香油になることを目的としています。AROGYAの曲のテーマは、うつ病、自殺、現実、人類、愛、戦争など、日常的に直面する個人的な経験や社会問題に触発されています。

1. Sky Afar [04:17] ★★★★

デジタル音からスタートして王道ハードロック的な、スケール感のあるコード進行とアリーナロック的なギターリフ、そしてボーカルが入ってくる。ボーカルは独特な感じ、少し透き通った発音があるがグロール感もある、このあたりは中央アジア、インドのシンガーの特徴。透き通った聖なる響きを持ちつつ声そのものには倍音成分、歪みがしっかりある。スケール感があるメロディ。音がクリーンなのにしっかり芯がある。このバンドはプロダクションもいいな。Turbulenceとかに近い、洗練されて整理されているが複雑さを失っていない。

2. Broken [04:12] ★★★☆

適度にザクザク感があるバッキングにシンセが乗る、ドラムの手数はそこまで多くないがパワフル。ヴァース前に雰囲気が変わり静謐な感じ、神秘的な音世界に。ボーカルが入ってくる。

3. Dust [03:41] ★★★☆

デジロック、適度なアグレッションがありつつメロディアスでフックがある。アニソン的な煽情的で分かりやすいメロディもあり、ラウドロック的な緩急もある。ただ、邦楽ほどボーカルメロディに上下移動が激しくないか。ネパールということでインド的な節回しの強さ、独特さはやや薄い、アジアンポップスとの共通項の方が大きいかも。その点でJ-POPはアジアンポップス全体でみれば大きな市場・潮流なので通じるものがあるのか。

4. Lonely Night Descends [03:50] ★★★☆

良質なメロハー。イタリアのフロンティアレコード組のようなメロハーとはまた違うメロディセンス。そういえばアーネル・ピネダ(ジャーニー)もインドネシア人なんだよなぁ。最近のジャーニーにもちょっと近いものがあるかもしれない。適度に重さのあるギターリフ。コーラスのコード進行がややひねくれていてやや強引なコード変更。でも英語上手いなぁ。

5. Dark World [04:17] ★★★☆

デジタルなトライバル・リズムからスタート。そこから電気加工された雄たけびのような声。コードストロークがあふれ出てくる。ギターサウンドが太いがクリア、心地よい感じ。こういう音作りは中央アジアのメタル、ハードロックバンドに共通しているプロダクションのような気もする。裏声も交えたコーラス。ギターは轟音というか、シューゲイザー的ともいえる、コードを的確にならすサイケな音の渦。

6. Misery's Lair [03:34] ★★★★

ちょっとこの微妙なゴシックさ、ダークさはイタリアのDeath SSも思い出すなぁ。適度なポップセンスもあるし。フィンランドのLordiにも通じる。ポップで口ずさめるメロディがありつつどこかダークでゴシックな雰囲気がある。とはいえ、歌メロはめちゃくちゃ凝っているわけでもなくどこかサラッとしている。何かを投げつけて帰ってこないようなリフ。反射しているような音階。

7. Charade [02:32] ★★★

攻撃性が高めのリフ、ギターのゆがみと音圧が強い、シンセも強調している。ドラムの手数も心持多め。ボーカルは少し喉にかかったような、倍音多めの声、からグロールへ。グルーヴィーなパートが出てきた。すぐに元に戻りテンポアップ。そういえばメタルコアにありがちなブレイクはあまりなかったな、今出てきて気が付いたが。緩急はあるがテンポチェンジはあまり使っていない。電子音が飛び跳ねるブレイクパート。そういえばこういうハードな音像を出すテクノユニットがいたなぁ、HAL from Apollo69だっけな。唐突に思い出した。

8. Lies [03:49] ★★★★

また元の世界観に戻り、デジタルで滑らかに進む曲、洗練されている。ただ、洗練された産業ロック、メロハーというにはやはり出自というかアジア、辺境ゆえの勢いや独自のフィルターが出ていてそこが独自性として機能していて面白い。この曲はボーカルがやや割れ気味、こういう「耳障りではない歪んだ声」を出させたらアジア圏~北アフリカ圏のシンガーは本当にうまい。自然に喉を使って倍音を含ませる。いわゆる「叫び声」ではなく、歌声としての割れた声。もともとの伝統音楽の歌唱法に近いのだろう。そういえばアメリカの白人は年を取るにつれて歪みを好まなくなるらしい。白人全般に言えるのか分からないが。とにかく透き通った声、コーラスに惹かれていく。グレゴリアンチャントみたいな。で、アジア圏はそもそも歪みがある、カッワーリーにせよ演歌にせよ。個人的には歪みが好きなのでなんとなく納得感がある話。

9. Break Free [03:58] ★★★☆

勇壮で王道なメロハー、この曲はかっこいいな。ヴァースからブリッジは素晴らしいがコーラスがやや弱いなぁ、惜しい。お、2番でさらにテンポアップ感、ギアチェンジ感が出てきた。アレンジがうまい。間奏のメロディもいい。コーラスも別に悪くはないんだが、、、もうちょっとでキラーチューンになれるのに、惜しいなぁ。

10. Throne [03:47] ★★★☆

雰囲気が変わり、ポップなイントロ、からのヘヴィなリフ。かなりメロディアスなフレーズをシンセが奏でる後ろでギターがアグレッション高めな音像を作る、その二つが絡み合って面白い音像を作っている。ボーカルはその間をすり抜けていく。途中から展開し、ニューウェーブ的なシーンへ、そこからメタルコア的なスクリーム。うーん、コーラスの展開がいまいち。コーラスの落ち着くべきところがもうちょっと違う感じだといいのだけれど。間奏、ギターソロの組み立て方は上手い。

総合評価 ★★★☆

惜しい、どの曲もクオリティは高めでセンスもいいが「キメ曲」や「キメフレーズ」に欠ける。イントロ~ヴァースはいいのにコーラスが印象に残らない、とか。ただ、アルバムを通して聞くと心地よい、音作りが適度にメロディアスで適度にアグレッションもあり、聞き疲れず、聞き飽きない。なんとなく手元に置いておきたい佳作。

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