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The Killers / Pressure Machine

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USのロックバンド、キラーズの7作目のアルバム。キラーズは21世紀最大のロックバンドの1つと見なされており、ネバダ州でこれまでで最も成功したバンドであり、米国だけで1,080万枚を含む、世界中で2,800万枚以上のレコードを販売しています。彼らは、マディソンスクエアガーデン、ウェンブリースタジアム、グラストンベリーフェスティバル(2007年と2019年)などの巨大ステージを含む6大陸50か国以上で公演を行ってきました。

バンドはコロナウイルスのパンデミックの間に自宅で彼らの新しいLPを録音しました。2020年のアルバムImplodingthe Mirageをサポートするツアーが中止となったため、キラーズはフロントマンのブランドン・フラワーズの子供時代を入り口としたプロジェクトをスタート。本作のテーマの多くは、小さな町であるユタ州ニーファイでの彼の成長に由来すると付け加えています。

「自動車産業の進歩がなかったら、90年代のニーファイは50年と変わらなかったと思う。僕は自分が向き合ってこなかった故郷での深い悲しみをテーマにした。ニーファイでの思い出のほとんどは優しく、心温まるものだ。しかし、恐れや大きな悲しみに囚われて感情的に追い詰められたこともあった。バンドを始めた頃よりも様々なことへの理解が深まり、自分が育った小さな町での物語や生活を正しく伝えられたことを願っているよ。」

フラワーズはアルバムの音楽を書く前にアルバムにすべての歌詞を書くことに決め、その過程で彼自身の子供時代を振り返ろうとしました。”Quiet Town”では、1994年にユニオンパシフィックの列車との踏切事故で17歳のときに殺された、10代のカップルのティファニー・ジャネイ・テイラーとレイモンド・レオ・ニュートンに花を捧げています。

「僕がまだ中学2年生の時、本当にこの列車事故の影響を本当に受けたんだ...高校の2人の先輩が殺された。僕はその朝、それらの1つを見てしまった。彼らには赤ちゃんがいたんだよ。僕はグリーフカウンセリングに行かなかった、彼らは僕の親友と言うわけではなかったからーだけれど、私がこの聖なる詩を書き始めたとき、僕がどれほど感情的であったか、そして、25年たってもまだ影響を受けていることにただショックを受けたよ。」

”Terrible Thing”の歌詞は、自殺を考えているゲイのティーンエイジャーの視点から書かれました。フラワーズは次のように述べています。

「とても大変だった。世界はよりポジティブな方向、より多様性を認める方向に動いていると思うけれど、これはまだ90年代であり、人々の偏見はすぐ近くにあったんだよ。」

※フラワーズ自身はゲイではなく(妻と3人の子供がいる)、彼の身近にあった話でしょう。

各種メディアでは「これは控えめな里帰りだ、英雄としてではなく、謙虚で繊細な態度での(NME)」「ユタ州から生まれたこの小さな宝石はいたるところで愛されるだろう、これはユタ州の生活をありのままに描写している(KXRKラジオ)」「スーパースターの大ヒット作ではなく、アートハウスのドラマの規模になったようだ。曲には息をする隙間がある(デイリー・テレグラフ)」等、高評価です。それでは聞いてきましょう。

活動国:US
ジャンル:フォークロック、インディーロック、オルタナティブ、ハートランドロック
活動年:2001-現在
リリース日:2021年8月12日
メンバー:
 Brandon Flowers –リードボーカル、キーボード、ベース
 Ronnie Vannucci Jr. –ドラム、パーカッション
 Dave Keuning –リードギター
 Mark Stoermer –ベース、リズムギター(2016–活動休止中)

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総合評価 ★★★★

全曲にナレーションが入る。一つの街の物語が展開されていくのだが、惜しむらくは曲の中にそうした物語性が薄いところ。たとえば9. "Desperate Things"は曲の中でストーリーに合わせて音響も変化して、「そういうシーン」が音だけで想起できるが、他の曲はあまりそういうものを感じない。どうせ物語性を強めるならナレーションを単独で存在させるのではなく、もっと物語そのものを音楽に入れ込んでほしかった。たとえばリングアイグノタとかロレインとかは音だけで物語が伝わってきた。それぐらい音楽と物語が融合していたらもっと面白かったと思う。

全体的にはビッグプロダクションでかなり整理された音。カントリーっぽい曲が半数以上を占めるが、そういう音はなんというか漂白されて引っかかりがなく、(個人的な好みだけれど)いくつかの曲は凡庸に感じる。むしろ、ややいびつなロックンロール、開き直ったような5,7,8辺りはこのバンドらしさを感じる。カントリー路線の中だと2はいい曲。

この凡庸さ、ちょっとした退屈さ、刺激のなさも含めて「アメリカの小さな町」と言われたら正にその通りかもしれないのだけれど。

1. "West Hills"   5:42 ★★★★

インタビュー音声から。若い女性、男声、女声。カセットのスイッチを入れるような音と共に穏やかでアコースティックな音像が入ってくる。哀愁がある、ケルティックな響き。ベースの刻みがちょっとU2っぽい。ゴスペル的なコーラス。そういえばある程度成功したUSのロックバンドはどこかでカントリー、ハートランドロック的になる気もするな。Lost Highway以降のBon Joviは典型例。同じような路線変更なのだろうか。あるいはそういうルートを切り拓いたのがBon Joviなのか。大きな残響音、スペーシーでシューゲイズな音空間に。地元でのドラッグの流行(オピオイド)を歌った歌らしい。Free in the West Hillsというのはそこでみんなキめてたということだろうか。

2. "Quiet Town"   4:45 ★★★★☆

こちらもインタビューから。物語がナレーションで語られていくのか。80年代的なイントロ。なんだろう、シンセポップというかディスコというか。ボーカルが入ってくるとハートランドロック的に。アコギとボーカル。ブルーススプリングスティーンとかを連想。もともとREMとかもこんな感じだし、USロックの王道と言えばそうなのか。スプリングスティーンとの違いはホーンセクションがハーモニカに変わっているところ。というか、むしろホーンが入るのがスプリングスティーンの特徴なのだけれど。きらめくギターのアルペジオ、ちょっとネオアコ系。ハーモニカが哀愁を誘う。完全にカントリー感がないのはやはりビートの強さと音響的な面白さか。コーラスの盛り上がり、力強さはボス(スプリングスティーン)的。少しアリーナロック的。ベタだけれどいい曲。

3. "Terrible Thing"  3:52 ★★★☆

つま弾くアコギとボーカル。ただ、沈み込むような感じはなくポップなフックがある。目の前にいるような感じはなく空間は大きい。「ベッドルーム」と歌詞に出てくるがベッドルームポップス、部屋の中で歌っているような親密さまでは無い。せめてキャンプファイヤーというか。もっと広い空間で歌っていて、人の気配はそこまで強くない。ベッドルームポップとドリームポップの差は人の気配が強いか弱いかだ、という論考を見たことがあるが、それで言えばドリームポップ的。これが自殺を考えているゲイのティーネイジャーの歌か。夢見るような、どこか哀切な表情。

4. "Cody"3:50 ★★★☆

ナレーションから、かならずナレーションが入るのかな。低音にドローン音がかすかに鳴っている。クリアなアコギのアルペジオが入ってくる。ドラムビートが入ってくる。けっこう地味な曲。ベテランの安定した一曲という感じ。

5. "Sleepwalker"   4:27 ★★★★

ナレーション。こうした「物語る手法」はヒップホップから学んだのだろうか。ストリーミング時代におけるアルバムの存在意義とは物語性のあるもの、と考えたのかもしれない。ややデジタルな感じも受けるビート。ビートが強い。この曲は音響的に冒険感があり、少しいびつなバランス。リバーブが少なくてデッドな感じのボーカル。隙間はあるけれど薄く空間を埋めている和音、キーボードとギターか。つぶやくようなコーラスがところどころに浮かんでは消える。そこに多少無神経とも思える遠慮のない、ややもすると乱暴なドラム。ビートの力を感じる。最後に打ち鳴らされる希望の鐘のようなキーボードの和音が響く。

6. "Runaway Horses" (featuring Phoebe Bridgers)  3:54 ★★★★

アコギとボーカル。きちんと神経が行き届いたスタジオで録音された感じのする良い音。ゲストがファービーブリッジャーズ。コーラスでは男女混声によるハーモニー。ややブリティッシュトラッド的な、落ち着いたメロディ。トラディショナルなフォークのメロディ。アコギもスリーフィンガーのアルペジオ。オーケストラが入ってくる。

7. "In the Car Outside" 5:28 ★★★★☆

労働者同士の会話、鉄を失くしてどうこう? 的な。自動車工だろうか。こちらも80年代的なビート。シンセドラム。打ち込みなのだろうか。ドラマーがいるから生で叩いているのかな。独特な煌めき、人工物の猥雑さ。アコースティック楽器を使っているがビッグプロダクションなので、こういう人工的な音の方が合っている気がする。開き直った感じがする、ちょっとポストパンク的なやけくそさもあるニューウェーブサウンド。アコースティックな曲でしっとりしておいて要所要所にこういう曲を入れるのは上手い作り。レトロでフューチャリスティック(90年代に描かれた近未来、みたい)なロックンロール。このサウンドはむしろ”今”っぽい。

8. "In Another Life"   3:45 ★★★★★

テープを巻き戻しながらインタビューが再生されていく。さまざまな立場の人の証言。そこから煌めいたキーボードと、落ち着いたドラムとバンドサウンド。ボーカルの距離が近い。メロディが面白い、完結するようで続いていく、よくあるメロディのようで予測できない。望郷の思いだろうか。「ありえたかもしれない他の生活」への夢想。それは少年期を思い出しているのかもしれない。「こうありえたかもしれない自分」であり、今もそれを夢見る人に向けての歌。

9. "Desperate Things"   5:16 ★★★★

浮遊するようなギター、前半のアコギよりこういうシューゲイズというかエフェクトがかかったギターの方がサマになっている。ビッグプロダクションでアコギはちょっと漂白されすぎているというか。もっとアコギは生々しい方がいい。この曲のギターサウンドは心地よい。空間的なギター、ビートはない。ドラムレス。ボーカルが優し気に歌う。流れるようなスローバラード。時が流れて去ったような。空間の感覚がなくなるような浮遊する音。過去を漂う。後半、かなり実験的な音響に。同じメロディフレーズが連呼されて、さまざまなSEで表現される。愛する女性のために酒場で喧嘩をして警察に捕まる? 彼女の為に夢をあきらめる、といった歌のよう。

10. "Pressure Machine" 5:09 ★★★☆

再びアコギの音像に。アルペジオ、カントリー的な音像。ビートが低く続いている。すっきりした音像。こういう音像になるとU2っぽい。穏やかに流れていく曲。バイオリンが残る。

11. "The Getting By"   5:09 ★★★☆

アコースティックなサウンド。カントリー的。後ろにドローン音が鳴っている。キラキラと煌めくギターの音で、結構加工されている。美しいハーモニー。穏やかに、包み込むような落ち着いたサウンド。

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