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L'Rain / Fatigue

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L’RainことTaja CheekはUS、ブルックリンで活動するエクスペリメンタリスト/マルチインストゥルメンタリストです。本作が2作目。NYでの美術館(MoMAなど)の音楽を担当したり、ナアマ・ツァバール、ケビン・ビーズリー、ジャスティン・アレンら現代美術家とのコラボを行った経験があり、その経験を通じて2021年の現代社会に向き合う音楽を作り上げたのが本作のよう。bandcampのリリースノートより抜粋します。

私たち自身のために、どのように変化を実際に起こすのでしょうか? 社会にどのように変化を起こすのですか? 奴隷制度を廃止するための活動に、内部的に関与することはどういう意味なのでしょう? これらの問いかけが、本作の音楽の力を構成し、進めています。

(中略)

オープニングトラック「Fly、Die」の締めくくりの瞬間に、「あなたは何を変えたのですか?」と尋ねられます。この質問は、招待と呼び出しの両方です。変化は、一人で行われるものではありません。それは人々が力を合わせるプロセスです。L'Rainは、集団が彼女と一緒に反省し、感じ、認め、否定し、バランスを取り、破棄し、検討し、実行することを望んでいることを明確にしています。

このアルバム(タイトルの意味は「疲労」)が2021年にリリースされたのは偶然ではありません。私たちは進行中のパンデミック、大量死、国家の手による黒人に対する継続的な暴力、そして人々の安全とセキュリティを妨げる山岳地帯の体系的な問題によってもたらされる絶え間ない「疲労」の、巨大で迫り来る姿をナビゲートしています。この一連のイベントは、倦怠感に対する私たちの回復力を損ないます。倦怠感を意識して変化の本質に疑問を投げかけることは、排気ガスの本質に疑問を投げかけることです。私たちは何を出しているのでしょうか。

(中略)

「このアルバムは、人間の感情の同時性の探求です。悲しみの結果としての喜びの大胆さ。達成に直面した失望。この感情の層の広がりは驚くべきものであり、力を与える可能性も、落胆させる可能性もあります。これらの感情の重複は、常に、すべての瞬間に発生しています。」

(中略)

本作は、私たちが誰であるか、そして、変化を休息のアンチテーゼではなく人生に組み込む時、私たちが何ができるかを聞き、笑い、嘆き、口ずさみ、定住し、認識し、知り、受け入れ、解放することを奨励します。

Pitchfolkで85点、Pitchfork「BEST NEW ALBUM」獲得。Allmusicで★★★★☆

活動国:US
ジャンル:EXPERIMENTAL
活動年:2017-現在
リリース日:2021年6月25日
クレジット:
 All songs written by Taja Cheek
 Produced by Taja Cheek and Andrew Lappin
 Executive produced and engineered by Andrew Lappin
 Co-produced by Ben Chapoteau-Katz
 Mixed by Jake Aron and Andrew Lappin
 ※演奏参加者はBandcampページ参照

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総合評価 ★★★★★

音楽とは時間の芸術である。時間ということは時空間(時間と空間は表裏一体)なので、時空間そのものを埋めるのが音楽である。それをどうやって埋めるか。14曲ながらコラージュや断片も多く、全体で30分ほど。30分の時間を使ってまさに芸術作品を作り上げている。楽曲としての輪郭も出てくるが、どの曲がどう、というより、30分間で一つの作品を鑑賞したという感覚が強い。2021年の音楽表現に対する一つの提示。音響的にもとても面白く、聞いたことがない聴覚が楽しめる。面白い体験。それほど長くないのでぜひ一度体験してみてほしい。楽曲として「聞く」というより、「体験してみる」といった方がしっくりくるアート。30分という時間も集中力の限界を試されなくて聞きやすいボリューム。音楽をDigっていると、時々こうした予想外の作品に出会えるから楽しい。音楽という表現方法にはこんな可能性もあるんだなという心地よい驚き。真っ暗な映画館で、映画館の音響設備をつかって聞いてみたい。

1.Fly, Die 02:00 ★★★★

崩れる音、突然の無音。ネットワークが断線したのかと思う突然の無音。つながっているのかつながっていないのか。こういう音響効果を使うのはびっくりする。さまざまな音が入ってくる、サウンドコラージュ。「すべての音はあなたの脳内にインプラントされる」。音像が目まぐるしく変わっていく。途中から夢見るような、スペーシーでドリーミーな音に。コーネリアスのファンタズマ的な音。オルタナ、インディーポップバンド的。

2.Find It 06:17 ★★★★☆

前の曲から続いて低音が迫ってくる。机をたたくような音。生々しい。音楽内の音なのか外界の音なのか一瞬わからない。反復する、テープで繰り替えるようなハーモニー。ボーカルが入ってくる。このハーモニーは10ccのI’m Not In Love的でもあるな。あれは独自の演奏装置を使っていたはず。何か、テープを早送るするような、吸い込まれるような音。ボーカルフレーズも反復する。ニグロアメリカン的な、アフロな雰囲気も纏うが都会的で洗練もされている。今のUSを生きる都市の黒人を想起させる。不思議な聴覚体験。"Make a way out of no way"「道を切り開く」のフレーズが連呼される。間奏部、水中で音が響くような。潜る感覚。そこから周囲の音が消える。男性の、ゴスペル的なボーカルが入ってくる。追憶の中の教会、といった音像。昔のビデオを再生してそれを録音したような、ちょっと遠い音。ボーカルが終わるとともにサウンドがカオスに。テンションが上がる。後半は教会音楽のシーンだ。

3.Round Sun 00:21 ★★★

断片、ノイズと雑踏。カットアップ。

4.Blame Me 03:31 ★★★★★

揺らぐようなSEと、ちょっとハワイアンテイストもあるスライドギター。Bjork、いや、Kate Bushのような泳ぐボーカル。寝起き、朝の光の中でつぶやくような。けだるさがある。メロディが展開していく。ディズニーミュージック的な、お姫様のシーンのような夢見る壮大なメロディ。祈りのような、幾重にも重なるコーラスと弦楽器。複雑なタペストリーのように織りなされる多層的な音響。スピリチュアルな音。

5.Black Clap 00:26 ★★★

シーンが変わる、差し込まれてくる。手拍子、話し声(歌の練習?)、巻き戻り、電波チューニング。

6.Suck Teeth 03:56 ★★★★☆

モダンR&B的な、深いベース。ジャジーな雰囲気、アーバンソウル。揺らめきながら展開していくメロディ。何度も何度も湧き上がってくる。少し変拍子、反復が4小節ではない。引っ掛かり、うごめくような。ただ、醜悪な感覚ではない。ジャジーな雰囲気だが、平常。洗練された日常的でもあるし、深い憂いのようなものもある。繰り返される、低音から上昇していく、湧き上がってくるメロディ。音が途切れていく。途絶えていく。

7.Love Her 00:17 ★★★

ふざけるような歌。笑い声。

8.Kill Self 01:51 ★★★★

音に解放感がある、いろいろな生活音がうまく入っているからだろう。ギターをつま弾く音。ずれていく手拍子。リバーブや、ずれていくボーカル。ずれ方がリズムを刻む。四つ打ちのビートが入ってくる。喧噪だろうか、上音はだんだんくずれて輪郭を失っていく。ビートと切り刻まれたサウンドだけが続く。

9.Not Now 00:10 ★★★

話し声、雑談。

10.Two Face 04:06 ★★★★☆

ジャズ、上原ひろみ的な。変拍子で反復するピアノ。ボーカルが入ってくる。別の時間軸、別次元で重なっているような。重ね合わせのボーカル。複数のレイヤーが存在する。反復する小節数も異なるサイクルで回る。マスロック、いや、キングクリムゾン的。吹きすさぶ風のようなコーラスだけが残り、またビートが戻ってくる。全体としてさまざまな音響実験、コラージュがあるものの音そのものの印象は明るい。光を感じる。クラクションのような音。ナレーション。

11.Walk Through 00:17 ★★★

ギター、ささやき、ウープス。

12.I V 02:25 ★★★★

最初と同じく、途切れるシーン。回線の断線を表しているのか。この効果は面白いな。確かにストリーミングになって音が途切れることはあるし。かつてレコードの音飛びを使ったのがスクラッチだったが、断線を音楽に取り入れるのは今の時代ならでは。この曲は1回だけ。ボーカルが入ってくる。ドリーミーなポップというか、カリカチュア、どこかディフォルメされて強調されたオールディーズポップス、Bjork的でもある。泡のように音が湧き上がってくる。サイケデリックでもある。

13.Need Be 01:01 ★★★

ピアノ、ゆがんだ声、記憶だろうか。ピアノフレーズが展開して曲らしさがある。ピアノの練習だろうか。音はだいぶ加工されている。

14.Take Two 03:09 ★★★★

場面が変わり、荘厳な雰囲気に。旅の終わり、たどり着いた目的地、といった感じか。出迎える女神のような声。周りに揺らめくオーラのようなシンセサウンドを纏っている。揺らめく、「抱擁」を音像化したような。ゴスペル的なボーカルが音響要素として使われる。ボーカルは入っているが曲として展開していくというより場面、音時空そのものが進んでいく。

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