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Crazy Lixx / Street Lethal

Crazy Lixxクレイジーリックスは2002年にスウェーデンのマルメで結成されたグラムメタルバンドです。モトリークルー、デフレパード、エアロスミス、キス、アリスクーパーなどいわゆるヘアメタル、日本ではLAメタルと呼ばれる80'sの華やかなポップメタルの直系のサウンドを鳴らすバンド。以前、スウェーデンのメタルバンドを特集したときにも取り上げました。

本作は2年ぶり、7枚目のアルバムで、2010年のセカンドアルバム以降所属しているイタリアのフロンティアレコードからのリリース。メロハー、80年代の精神を引き継ぐバンドをひたすらリリースしているレーベルで、ブルーオイスターカルトのようなベテランもフロンティアレコードに所属したらメロハー色が注入される(もとからないわけではなかったが、強化された)など、「メロハーっぽいバンドを集める」だけでなく、「所属するとメロハー化する」という非常に強い個性、サウンド嗜好性を持ったレーベルです。このレーベルは各種企画バンドも精力的に組んでおり、最近は活動停滞していたベテランバンドのメンバーが再結集し、新しいバンドとしてデビューすることもしばしば(しかもクオリティが高い)。日本野球界における野村再生工場ならぬ、ハードロック界におけるフロンティア再生工場のような立ち位置にいます。

そんな安心のフロンティア印、かつて「北欧メタル」といえば透き通った音像のメロハーを想起したこともありましたが今はノルウェジアン・ブラックメタルやスウェディッシュ・エクストリームメタル、北欧メロデスなどの「激烈音楽の坩堝」のイメージが強い土地柄に。その中で往年の「北欧メタル」を鳴らしている現在進行形の希少なバンドです。待望の新譜、メディアやマニアの評価も上々の様子。聴いてみましょう。

活動国:スウェーデン
ジャンル:ハードロック、グラムメタル
活動年:2002-
リリース:2021年11月5日
メンバー:
 Danny Rexon – vocals, guitar (2002–present)
 Joél Cirera – drums (2002–present)
 Jens Anderson – bass (2012–present)
 Chrisse Olsson – guitar (2016–present)
 Jens Lundgren – guitar (2016–present)

総合評価 ★★★★★

哀愁の北欧メタル、80sメタルを真空パックして現代に解凍したような音。2021年の作品なので音響とか、歌メロのつくり方とかは30年分の蓄積、レガシーの効果があって洗練されているけれど、「80年代の伝説の名盤のリマスター盤だぜ」と言われたらちょっと信じてしまうかも、な出来(それにしてはプロダクションがモダンだけれど)。いやぁ、素晴らしい。あと、当時のメロハーのアルバムと違ってどの曲もクオリティが高い。突出した1曲だけ、じゃなく、全曲手が抜かれていない。今でもこういうスタイルをやる、ということは、もうある程度パターンが出尽くした後だから高品質、かつ、複数のフックが必要になるけれど、それらをしっかり満たす匠の技。メロディそのものはけっこうオーソドックス、予想できる展開なのだけれど、編曲やアンサンブルがいい。プロジェクトではなくしっかりとしたバンドだから、各楽器隊の魂のこもり方、熱量が違う。さらっと聞ける爽やかな娯楽作だけれど、深くまで楽しめる緻密さもある。個人的ハイライトは5~6のメドレーと10曲目かな。11曲目はデビューアルバムの頃のBON JOVI感もある。80年代、TNTとか初期Europeの「北欧メタル」好き、また、80年代のヘアメタル好きに広くおススメできる良作。

1.Enter The Dojo 1:01 ★★★☆

フルートというかやや尺八的な、時代劇がかったイントロ。そこから透明感のあるシンセのイントロが入ってくる。期待を高めるイントロ。

2.Rise Above 4:23 ★★★★☆

ギターリフ、正統派HM的な、80年代メタルのリフ。80年代JP的なリフとも言える。そこにモトリー的なボーカルが入ってくる。ギターそのものはダブルギターなこともありやや重め、圧はある。ツインギターのサウンドにヘアメタル的ボーカルが乗る。歌メロは王道メロハー的。そこまで歌メロはひねりがなく、煌めきとハッとする北欧感はないがこの曲はリフとの絡みが良い。ツインリードも適度に入ってきていい感じ。プロジェクトではなく「バンド」なのが分かる各楽器隊のアレンジの魂のこもり方も良い。きちんとしたバンドサウンド。フロンティアの作品はいいものが多いけれど、やはり単発とかスーパーグループ的なプロジェクトだとメロディは良くてもアンサンブルが弱いものもある。本作はバンドサウンドのグルーヴが心地よい。

3.Anthem For America 3:40 ★★★★☆

またベタベタなリフ、なのだけれど、途中からちょっと展開してモダンさ、洗練された感じがある。サウンドプロダクションもレトロなんだけれど明るくて解放感があり、聞いていて心地よい音。横ノリのグルーヴ。華やかな感覚があるけれど演奏そのものはかなりかっちりしている。ハーモニーも正確で分厚い。それでいて適度なライブ感もある。ライブ行きたくなる。

4.The Power 4:20 ★★★★☆

アカペラとドラムによるハーモニー。シンガロングなスタート。パワーコードとアルペジオを織り交ぜたリフ、JP感がある。歌メロはメロディアス。これはメロディセンスが北欧メタルだな。歌メロにフックがあり完成度が高い佳曲。

5.Reach Out 3:38 ★★★★☆

青春ポップス! ちょっとほろ苦いイントロ、から転調感のあるボーカルの入り。おお、つかみが強い。キラキラ感があるギターリフ。解放感がある、滑るようなコーラスへ。マイナー調に行くかと思ったらメジャーかぁ。なんだかんだある程度アップテンポで哀愁感がある曲がメロハーだと好きなんだよなぁ。個人的には。だけれどいい曲。サビも2回目がめぐってくるといい展開だなぁと思ってきた。

6.Final Fury 2:17 ★★★★

80年代的シンセサウンド。サザンのマチルダBaby的(例えがどうかと)。Beast In Blackとかもこんなサウンドになってきたよね。80sリバイバルが様々なところで起きていて、Chvrchesとかも80sっぽい新譜を出していたし、UKのポストパンクリバイバルもその流れだろう。欧州は80sに回帰している。そういえばUSはどうなんだろう。USは90年代回帰、かなぁ、あまりUSのバンドだと80年代感を感じるアルバムが、、、なかった気がする。この曲はインスト。ちょっと箸休め。

7.Street Lethal 3:02 ★★★★★

そのままタイトルトラックへ、前の曲からの繋ぎはカッコいいな。パワーメタル的な曲にメロディアスなボーカルラインが乗る。ギターリフがしっかり構築されている、ギターが曲の骨格をきちんと支えるメロハー。リズム隊も力強い。どれかが突出している、というよりバンドサウンド全体で迫ってくる感じ。80年代の名盤をリマスタリングした感じもするが、やはり曲の完成度は「レガシーのいいところをしっかり研究して作られた」感じがする、モダンで洗練度が高い。6~7の流れはここまでのクライマックス。

8.Caught Between The Rock N' Roll 4:42 ★★★★☆

ちょっと雰囲気を変え、アーシーな感じに。お、メロディが展開した。ちょっとB'zみたいだな。TAK MATSUMOTO感のある展開。ボーカルが入れば雰囲気が変わる。80sの北欧メタル。キャッチーなリフからコーラスまでキャッチー。ミドルテンポでシンガロングなアリーナロックアンセムのお手本のような作り。アメリカンハードロックのテイストをうまく取り入れた曲。

9.In The Middle Of Nothing 4:48 ★★★★☆

ミドルテンポでイントロが入ってくる。さわやかな歌メロ、王道のメロディだが解放感がある。必殺パターン的な。こういうベタな展開をこれだけ説得力を持って2021年に鳴らせるというのは凄いな。このスタイルに対する確信と自信、そしてバンド力。やっぱりこういうサウンドが記憶に快楽として結びついているんだなぁ。少しリバーブがかったアルペジオがいい。パワーコードとアルペジオの組み合わせいいよね。しかしどの曲もクオリティが高い。曲のクオリティにばらつきが少なく、アルバムを通してずっと良質なメロハーが詰まっている。

10.One Fire - One Goal 5:13 ★★★★★

哀愁のギターメロディ、ややアップテンポで軽快な哀愁。駆け抜けるドライブ。ほろ苦い青春感。80年代が真空パックされたような音像。One Visionという歌詞が出てくる、Queenを彷彿させる歌詞だが音像的にはもっとメロディアスでハードロック。フェアウォーニングとか、ハーレムスキャーレムとか、ちょっと哀愁のメロハー。これは良い曲。

11.Thief In The Night 7:24 ★★★★☆

ややスペーシーで荘厳なシンセ音、その上にメロディアスなツインリードが踊る。そこからミドルテンポに。長尺曲だからバラードかと思ったらそこそこのテンポ。ギターリフとボーカルが絡み合う。キーボードと絡み合うボーカル、ホワイトスネイクのサーペンスアルバス的な哀愁のメロハーと初期BON JOVI的な哀愁のキーボードリフ。ああ、この曲は初期BON JOVI感あるなぁ、夜明けのラナウェイの頃の。哀愁のマイナー調メロディの奔流。


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