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In Vision / In Vision

総合評価 ★★★★☆

ロシアのメロデスバンド、デビュー作。2021リリース。惜しい、あと一歩。メロデス作品としてはかなり完成度が高く、デビューアルバムというのは驚き。Triviumとかにも近い、アグレッションとメロディの組み合わせ方の才能を感じる。もちろん、デビューアルバムなのでTriviumのような「多重に重ねて盛り上がっていく力」とか「ドラマの緩急の幅」みたいなものは楽曲力も、もちろんプロダクション(音響)でも劣るけれど、それを補う個性も感じる。

このバンドの個性として、まず1曲(4)をのぞけばどの曲も3分台。かなりドラマティックに盛り上がるのにコンパクトにまとまっている。これは最近のSabatonとかPowerwolfとかのモダンなメタルに近い感覚。短い中で簡潔にドラマを作る力がある。

やや惜しいのは「北欧的」すぎて、「ロシアのバンドならでは」の個性がやや弱めなところ。最終曲の9ではなんとなくロシアならではのミクスチャー感が出てくるけれど、こういう要素がもっと全編に自然に組み込まれるとこのバンドならではの個性になると思う。

とはいえデビューアルバムとは思えない完成度。一部メロデス界隈では話題になっていたようだけれど、もしこれが90年代後半、いや、2000年代前半でもいいけれど、そのころにリリースされていたらメロデス界の超新星として扱われていただろう。チルボドが好きだった方には特におススメ。


1.Intro 02:14 ★★★☆

ギターアルペジオの中、切り込んでくるツインリード。正統派HMのオープニング。The Hellionに北欧的な、いや、ロシアのバンドなので、北の大地を思わせる荒涼とした静謐な大地。白く静かで静止した光景を思わせる。大自然の大きなドラマ、ドローンで荒涼とした森や荒野を映し出すような光景が目に浮かぶ音像。

2.Disbelief 03:45 ★★★★☆

しっかり終曲してから次の曲へ。短いイントロを経てドラムが入ってくる。わかりやすい疾走感と抒情性があり、チルドレンオブザボドム、ボドムアフターミッドナイトにも近い。ボーカルはグロウルスタイル。ちょっとゴシック的、UNTO OTHERS(元IDLE HANDS)的な歌メロ感もある。Misfitsとかにも通じる、ちょっとダークでホラーな感じといえばいいかな。グロウルの中にところどころクリーン、というかバリトン(中低音)ボーカルのパートがあり、抒情性が増す。

3.In Vision 03:55 ★★★★☆

ちょっとオカルティックかつ荘厳なイントロからリフがなだれ込んでくる。よくある感じながら音響も良い。各楽器がしっかり分離している。最近のポストメタル的な深化した世界観までは感じさせないが、そちらは楽曲にどことなく北の大地感、ロシアのエキゾチック感があり別の魅力で補っている。量産型メロデスではなく、独自の個性を感じる音像。何より、リフやメロディといった楽曲の根本的なクオリティが高い。これ、90年代後半のメロデスが盛り上がりを見せていた時期だったらめちゃくちゃ話題盤になり超新星扱いをされていただろう。最近、メロデス第一世代はたいていプログレやポストメタルの方に行ってしまい、こういうかっちりしたメロデスをやっていたのはかなり少なかったと思う。チルボド、いや、ボドムアフターミッドナイトぐらいか。ここまで適度な大衆性、キャッチーさを兼ね備えたメロデスは久々に聞いた気がする。Soilworkとかも企画盤にはそういう曲が入っていたが、アルバム全体ではもっとプログレ色が強いし。

4.Memories 05:49 ★★★★★

アコギのアルペジオから、印象的なギターフレーズが切り込んでくる。これはうまい。Arch Enemy的な、「最初のギターフレーズで持っていく」術を身につけている。そこからゴシックなボーカルが入ってくる。これは煽情力がある名曲。今までの曲は3分台で、ドラマティックに盛り上がりながらもコンパクトに収められていたのがこの曲は6分弱。長尺な中でしっかりとドラマを描いている。豊富なギターメロディ、オーソドックスな正統派メタルの手法とゴシックで荒涼とした世界観、今のメタルの王道を感じさせる音。

5.Before We Die 03:37 ★★★★☆

イントロのギターリフ、スクリームを経てシンフォニックなアレンジに。とにかくドラマティックにしたい、という意図が伝わってくる。何だろう、クレイドルオブフィルスとかにも影響を受けているのかな。あそこまでの独自性はこれがデビューアルバムなので持ち合わせていないけれど。リズムブレイクなど、モダンなメタル。メタルコアではない(ブレイクダウンはない)、ストレートなメタル。まだ若いバンドということでフレッシュな魅力、各曲に全力を投入している感じがして聞いていて清々しい。

6.Run! 03:48 ★★★★☆

ややホラー味のあるイントロ。そこから激烈なツービートの疾走へ。オールドスクールデスメタル的。ただ、オーケストレーションが入り、シンフォニックデス、Dimmu Borgirとか、ああいう感じの曲。どの曲もドラマティックなのにコンパクトにまとまっているのはイマドキのバンドならではか。こういう展開なのに3分台でかっちり収まるというのがこのバンドの個性かもしれない。

7.Poison 03:15 ★★★★☆

分かりやすいコーラスメロディを持った曲、ライブで盛り上がりそう。ミドルテンポで始まりながらコーラスでは手数が倍に増え、倍速の疾走感が出る。ゴシックなボーカルが前面にでた曲。少し民族音楽的なフレーズが出てくる、この反復感はかすかにロシア~東欧の伝統音楽を思わせるが、それほどフォークメタル色はない。言われないとロシアのバンド、とは思わないんじゃないかな、多分北欧だと思うだろう。ロシアと言われるとなるほどと思う部分も多少あるが。

8.Djoser's Door 03:29 ★★★★★

バイキング的な、トライバルなリズムからスタート。そこからザクザクしたリフが入ってくる。どの曲も勢いが良く潔い。4曲目をのぞけばすべて3分台で統一しているのは強い意志があるのだろう。ドラマティック、アグレッシブ、スピーディー、コンパクト。これは面白い戦略かもしれない。音のレイヤーが重なってテンションが上がっていく、激烈な攻撃性がある曲。

9.Victoria 03:55 ★★★★★

アコースティックギターのカッティングからスタート、ちょっとフラメンコというか、変わった感じのイントロ。お、最後でイメージを変えてくる曲。シンフォニックな感じになるのだけれど、今までにない感じ。ロシア的なメロディや要素が入っている、と言えるかもしれない。やや伝統音楽の影響が強め。ちょっとインダストリアル感のあるビート、少し奇妙な混声ボーカル。ラムシュタインとかああいう感じもある。東ドイツの感じ、というか、それがつまりロシア、ソ連的。この曲のごった煮度合はロシアのロックを感じさせるけれど、ベースがもうちょっとブリブリしていると面白いなぁ、ロシアンハードベース的な音だとより面白かったのに。スピリットボックスのローラーコースターみたいなベースがブリブリしている曲、ロシアのバンドがやってもサマになるとは思うんだよね。

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