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人間椅子 / 色即是空

日本の誇るストーナー/ドゥームメタルバンド、人間椅子の2年ぶり、23枚目のアルバム。1989年のデビュー以来、ほぼ1年か2年おきにアルバムをリリースし続けるという偉業を成し遂げています。継続は力なり。ドラムがナカジマノブ氏に変わった2004年以降、現体制としては12枚目のアルバム。現体制でのアルバムが全カタログの過半数を超えました。不遇の90年代後半~00年代を経てOzzfest Japanへの参加を契機にももクロへの楽曲提供やYouTubeでの海外でのバイラルヒットなどセールス的にも勢いを増してきた人間椅子。これだけベテランかつ多作でありながら音楽的にも「今が最盛期」と呼べるクオリティを深化させている凄いバンドです。本作では安定の上にどんな深化を遂げているのか楽しみです。

※星を見直します、聞いた時のテンションで3段階評価
★★★ 感動した/ウルッと来た
★★ ワクワクした/耳を惹かれた
★ 平常

総合評価 ★★★

さすがの出来。今回は全体的に明るく、ライブ映えしそうな曲が多い。人間椅子のライブはとにかくグルーヴやサウンドの説得力に酔えるのだけれど、さらにコールアンドレスポンスやダンス(やヘドバン)で参加しやすいテンション高めの曲が多い印象。2020年のワールドツアーが成功に終わり、その後コロナで世界に出れていなかったからまた本作を引っ提げて海外にもいくつもりなのだろう。シンプルな言葉の反復や「オーオーオー」といった歌詞のないシンガロングフレーズなど、日本語がわからない人でも参加しやすくフックが効いた作品だと感じた。歌メロもしっかり盛り上がりがあり、リフも不協和音感は少な目でストレートなハードロック、曲調も一本調子ではなく曲の中で多様に変化していくなどアイデア、技巧、熱量が込められた素晴らしい作品。一人で籠って聞く音楽ではなく、他人とカーステレオでも聴ける感じのハードロックでパーティーなアルバム。あくまで「人間椅子としては」だけれど、かなり「外に対して開かれた」「娯楽性の高い」アルバムだと感じた。

ただ、ちょっと物足りないのはシリアスさ、陰鬱さに欠けるところ。最近はバンドの調子がよく、メンバーのプライベートも充実しているというか人生にいろいろ折り合いがついたのだろうと思うけれど、昔の人間椅子にあった暗鬱さはかなり薄れている。複雑怪奇なリフもなく、ちょっとストレートすぎる。そのあたりがやや不満だったけれど11~13曲目でしっかり暗黒面もカバー。全体としては明るいし極端な音像はないのだけれど、12~13曲目のシリアスさは人間椅子流メタルの流儀が詰まっている。そうそう、やっぱりハードロック椅子もいいけど、ヘヴィなメタル椅子も欲しいんですよ。音像だけでなく、そこで表現されている世界観ね。音は最初から最後までずっとかなり良いんだけれど。ギターサウンドはザクザクしているしベースはブリブリしているしドラムもライブ感がある。そこで描かれる世界観がポジティブでアッパーか、シリアスでヘヴィかということ。最後2曲はヘヴィ。このあたりのバランスがしっかりとれていつつ、全体としては明るいからリピートしやすいのも高評価。何度も聞きたくなる/聞ける娯楽性の高いアルバム。

01. さらば世界 8:16 ★★☆

ギターアルペジオのリフからスタート。荒々しくもどこか温かみのあるギターサウンド。このギターサウンドへの拘りが人間椅子の特長の一つ。ドラムとベースが入って熱量が増す。各楽器が火花を散らしているような、鉄工所のような鋼鉄感。ベースのザクザク感が程よい。ミドルテンポだがけっこうしっかりビートがあってアッパーな曲。途中で軽めのテンポチェンジが入る。曲構成が正しくサバス直系。ギターリフとボーカルの絡みがスリリングで、研一氏の「なにもない」合いの手コーラスも良い感じ。呪術性(まがまがしさとうさんくささ)と身体性(踊れる感じ、乗れる感じ)が絶妙にブレンドされている。全体的にギターサウンド、バンドサウンドの快楽性が高い。オープニングトラックから要素がかなり盛沢山。8分もあるのか! これだけの長尺曲を一気に聞かせる+冒頭に持ってくるのは素晴らしい。

02. 神々の決戦 5:03 ★★

研一氏ボーカルの曲、相撲テーマか。神と悪魔の相撲の曲。なんとなくギャンブルというかパチンコかスロットの演出を見ながら作った歌なのかなぁと思ったり。パチスロやらないからわからないけれどこんな演出があるのかなぁ。研一氏お得意のギャンブルソングというか、ちょっとおちゃらけた感じもある曲。早いわけではないがそこそこアップテンポでノリが良い。ドラムも跳ね気味。曲が終わったかと思ったらまた続く。曲展開が凝っている。「はっけよいはっけよいはっけよいのこった」はライブで盛り上がりそう。人間椅子はユニゾンが多い。全楽器が一体となってリズムを刻む。

03. 生きる 4:01 ★★☆

こちらもユニゾンからスタート。70年代ハードロック、ユーライアヒープとかを彷彿させる重厚感のある曲。ワジーの青春というかポジティブ文学青年ソング。カンカンとカウベルの音が入ってくる。70年代的だなぁ。カウベルと言えばブルーオイスターカルトの死神を彷彿する。「カウベル」というサタデーナイトライブのコントの影響もあるけれど。この曲はリフもかなり70年代ハードロックっぽいなぁ。マイケルシェンカー期のUFOのようでもある。4分とこのバンドにしては短めの曲。

04. 悪魔一族 5:21 ★★

こちらもユニゾンからスタート。ここまでは全体的にバンドの一体感が高いというか、バンド全体が絡み合いながら変化していくような曲が多い。ただ、ちょっとリズムユニゾンを多用しすぎかも。研一氏ボーカル曲。この曲も「ブルゾンブルゾン」という合いの手コーラスが入る。ここまでの印象として「けっこうポップだなぁ」という感じ。このバンドにしては、だが。今作はそうした歌メロのポップさ、ライブでの盛り上がりとかを意識したのだろうか。けっこう全体的にライブ感があるなぁ。ギターソロのバッキングにギターも重ねていない? 3つの楽器(+声)だけが鳴っている印象。ロックバンドとしての熟練の技を感じる。最後の「エロイムエッサイム」連呼はアングラかつイロモノな感じが素敵。そう、やはり人間椅子には「イロモノ」感がないとね。今回全体的にイロモノ感が強めかも。

05. 狂気人間 6:34 ★★

ツーバス連打。曲のテンポ自体が速いわけではないが足数、破裂音多め。ワジーの曲。狂気人間というと狂気山脈(黄金の夜明け収録)を思い出すが、あの曲はスローな長尺ドゥームソングだったと思うがこちらはけっこう軽快。というかここまでの5曲はけっこう通底する雰囲気が似ていて、ノリが良くて盛り上がり系。いろいろな仕掛け、コーラスなどでフックが作られていてポップな感じ。逆にすごく暗鬱でシリアスな感じは希薄。音そのものが熱量が高いので軽い感じはしないが、曲調やフックの多さがテンション高めな感じがする。後半沈み込んでいくのかな。ギターソロパートではベースのリフとギターソロが絡み合う。こういう「ハードロックの醍醐味」を分かりやすく入れ込んでいる感じ。どの曲もかなりバンドとして編曲した、アンサンブルを練り込んだ感じがする。

06. 人間の証明 5:39 ★★☆

またハードロックなリフ。ここまでずっと70年代ハードロック的だな。先日10枚選んだNWOTHMやUS POWER METALと連動しているというか、オールドスクールスタイル。バンドアンサンブルは一流だが、陰鬱さや凄味は希薄かも。やはり今回はポップな方に振ったのかなぁ。多作だけれどアルバムごとに色があるからね。あまり不協和音的なものはなく、比較的素直でハードロック的な和音、リフの音運びが選ばれている。人間椅子が開くハードロックパーティー的な。最近はこういうモードなのかな。研一氏の曲だけれど人生応援歌的なテーマ。分かりやすくハードロックな曲調も相まって普段ならノブ氏が歌いそうな曲とも言える。ペンタトニックスケールを用いたベタなリフだけれど、バンドの熟練があって音に説得力はある。こういうシンプルなハードロックを堂々と演奏できるようになるというのは円熟の証なのかもしれない。なんだかんだ、こういう力強くシンプルなハードロックサウンドには人生応援歌(あくまで文学青年的だが)な歌詞の方が合うかも。

07. 宇宙電撃隊 5:21 ★★☆

ちょっとスラッシーな感じに。メタルジャスティスの頃のメタリカっぽい。ベースははっきり聞こえるけれど。そこまでやけくそに早いわけではなく、きちんと統制されたストップ&ゴー。スラッシュは「鞭打つ」という意味で、「速い」というわけではないのだ(速さを追及したのはスピードメタル)。架空のヒーローテーマソングみたいな。サビで急にポップになる。Metallicaの新譜のTo Far Goneもそういえばサビでメロコア(というかMisfits)みたいにポップになるが、こちらも似たような構成。パンク的なメロディというよりヒーローもの主題歌的なメロディだが。面白い。これは日本の音楽文化から生まれた音だなぁ。この曲もサビの後にシンガロングなパートがあったり、合いの手があったり、今作はかなり「ライブ映え」を意識した曲が多い。

08. 宇宙の人ワンダラー 4:40 ★★

また凄いタイトル。ムー的な。最初サイケデリックな音、ギターエフェクターをいじくりまくっている。そこからザクザクとしたギターリフが入ってくる。この緩急のつけ方はうまい。でもリフそのものはシンプル。今作はあまり複雑なリフは出てきていないなぁ、この曲もグランジアーティストにも通じるようなシンプルで勢いのあるリフ。研一氏ボーカル曲。これもミドルテンポだけれど勢い、テンションは高め。ギターソロは津軽じょんがら、三味線っぽいフレーズ。単曲では悪くないけれど2曲続けて宇宙ネタ続くとちょっとおなかいっぱいかも。最後になってコーラスが重なり、ドラムが手数が増えて盛り上がった。

09. 未来からの脱出 3:27 ★★

これまたシンプルなハードロック曲、これは疾走感がある。お、ノブさんボーカル。パンキッシュなスタイル。テーマも「人間が数字で管理される未来」ということで80年代SF的。アイアンメイデンにも「プリズナー」という曲がありましたね。SF、ホラー、オカルトのネタをふんだんに取り込んだ人間賛歌、応援歌的な歌詞が多い。シチュエーションはさまざまだが根底にはポジティブなメッセージがある。これも70年代ハードロック、80年代メタル的な曲。

10. 地獄大鉄道 4:43 ★★☆

ミドルテンポでツーバス。こちらもハイテンション気味。研一氏ボーカル。うごめくようなボーカルとベースライン。がたがたんがたがたん、と擬音。こういうシンプルなフレーズの反復は海外も意識したのかな。このアルバムをもって海外ツアーを計画している気がする。この曲も熱量が高く、聞いていると熱が体内に籠ってだんだんとテンションが上がってくる感覚がある。ギターリフの刻みとアップテンポのドラム&ベースの掛け合いを聞き続けるとテンションが上がる体質なんですよ。

11. 星空の導き 4:59 ★★

お、アコースティックギターの弾き語りからスタート。キレイだけれどどこかいびつで歪んだコードの響き。これは今までと毛色が違う。ただ、テンポはやや早めで娯楽性は高い。バラードになるのだろうが沈み込む感じはない。美しくサイケデリックな感じ。プラネットキャラバン(サバスの曲でパンテラもカバーした)を歯切れよくした感じ。ちょっとコード展開とかはああいうサイケな感じだけれど、やっぱり日本らしいメロディアスに展開していくボーカルライン(メタルが一定以上根付いている地域の中で、日本と北欧はめちゃくちゃメロディアスなものが好まれる音楽市場だと思っている)と歯切れのよい演奏が明るさを感じ。途中でプログレ、というか(最近の)スティーブハウのアコースティックギター的なフレーズが入る。ああ、この曲はいわゆる70年代プログレの人たちの最近の曲っぽいかも。ちょっと例えとして複雑な表現だけど。

12. 蛞蝓体操 5:28 ★★☆

読みは「なめくじ」、なめくじたいそう。これはだいぶドロドロとしたサウンド、カオティックなサウンドが出てくる。音の塊感があるリフ。研一氏ボーカル。人間椅子のおどろおどろしい面が出てきた。ただそれでもちょっと明るめというか、ギターサウンドがブライトなのかな。完全な暗闇というより日の光が差し込んでいる感じはある。北欧、ノルウェーのブラックメタルとか吹雪とか暗黒感があるじゃないですか。ああいう音像に比べるとノイジーだけれど温かみがある。ただ、タイトルのとおりうごめく感じの曲。このアルバムの中ではやや異質な曲。ひたすらダウナーに行くのかと思ったら途中からアップテンポ+読経的なコーラス。これはカッコいい。人間椅子にしか出せない。

13. 死出の旅路の物語 7:41 ★★★

切り込むようなリフからスタート、メロディアスなツインリードのリフとリズム隊の絡み合い。北欧メロデス、マイケルアモット的な展開というか。ボーカルが入ってくる、ボーカルはもちろんグロウルではない。歌い上げる和嶋氏の声。ちゃんと歌メロが展開していくというか、ここまでのハードロック的な展開だけではなく、J-POP的なコード展開という感じ。かなりメロディアスで起伏がある。1曲目と13曲目が大曲だが、どちらもそれだけの分数を飽きさせない大量のアイデアと工夫が詰め込まれていて素晴らしい。この曲はヘヴィさ、シリアスさもある。人生応援ソングではなく死、7つの審判についての歌。どれだけせいいっぱい生きたとてやがて死ぬ。死というテーマを扱う以上明るいだけでは仕方がない。重厚感がある曲。1曲目の「さらば世界」も死の歌ともとれる(世界と別れる歌)だったが前向きだったのに対して、こちらは死の辛さ、苦しさ、その道程に思いを馳せている。ヘヴィ・メタルの大曲としてはこちらのテーマの方が個人的好み。こういうのばかりでも疲れるけれど。アルバムの最後だけシリアスというのは上手い。

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