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Low / Hey What

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ロウは、1993年に結成された、ミネソタ州ダルース出身のアメリカのインディーロックバンドです。このグループは、創設メンバーのアラン・スパーホーク(ギターとボーカル)とミミ・パーカー(ドラムとボーカル)で構成されています。ベースも在籍し、基本的にスリーピースバンドですがベーシストは流動的。現在のメンバーはスパーホークとパーカーの2名です。

スパーホークとパーカーは結婚しており、2人の子供がいて、モルモン信仰としても知られる末日聖徒イエス・キリスト教会の会員として活動しています。9作目のC'mon(2011)をAlternativeロック史でも取り上げたアーティスト。スパーホークとパーカーの男女ハーモニーが特徴的で、どこか静謐で神聖な感じ(≒讃美歌的)な音像が特徴的なバンドでした。

本作は13枚目のアルバムであり、プロデューサーBJ Burtonとの3枚目のアルバム。どんな音像になっているでしょうか。聴いてみましょう。

活動国:US
ジャンル: インディーロック、スローコア、ドリームポップ
活動年:1993-現在
リリース:2021年9月10日
メンバー:
 アラン・スパーホーク-ボーカル、ギター(1993–現在)
 ミミパーカー-ボーカル、ドラム、パーカッション(1993–現在)

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総合評価 ★★★★☆

強烈な作品。ノイズの海の上で舞うハーモニー。他にない音像。かなり本格的なノイズで非常階段とかボアダムスとかヤン富田とかメルツバウとか不失者とか、本当に「ノイズの塊」であり、その上に力強く美しいハーモニーが乗る。全体としては歌モノ、ハーモニーが核になっているのだけれど、それを支えるサウンドは美しいノイズ。1曲目のWhite Horsesを聞いてみてほしい。あまりほかにない音像で、これが最後まで続く。もともとハーモニーを核としながらも変わった音響、ノイジーな音響が特徴的ではあったが本作ではノイズの度合いが極限まで振り切れている。マジカルミステリーツアーのころのサイケデリックなビートルズナンバーをノイズ成分を大きくして、さらに回転数を遅くして再生したようなサイケ感もある。音響は攻めまくっているがあくまでハーモニーとメロディが中心にあるので歌モノとして成り立っている。

1.White Horses 05:03 ★★★★☆

ギターノイズ、いや、何か破壊音のような、ノイジーながら少し和音感もある音からスタート。音像がゆがみながら変化していき、何かを打ち付けたような。切り刻まれたノイズがビートになり、その上にスパーホークとパーカーのコーラスが乗る。この「途切れたノイズ」はL’Rainも使っていたな。ストリーミングだとネットワーク断線かと思うのでうまい表現だなぁ、聞いていて驚くなぁと思っていたらこちらはより大胆に取り入れている。バックが完全にノイズ、ノイズを切り刻んだトラックの上で、Lowの特徴である讃美歌的な、雄大でメロディアスなハーモニーが乗っている。これは予想外の音響。ひび割れた時計の秒針のような音が加工され、加速し、拡大されていく。その音がまた変化する。ノイズで作ったミニマルテクノ的な音像に。かなり実験的。

2.I Can Wait 04:02 ★★★★

そのまま次の曲へ、前の曲からビートが続いている。そこに美しいコーラスが入ってくる。そういえばこのボーカルハーモニーや讃美歌的なメロディを組み合わせる手法はFleet Foxesにも近いものがあるな。ノイズ感は少し減ったものの相変わらず奇妙でいびつなトラックの上でハーモニーが進む。最後にノイズだけが残される。かすかな声が響いてくる。シガーロスにも少し近い。

3.All Night 05:14 ★★★★☆

アンビエントで、オーロラが蠢くようなかすかな変化で和音が変化している。音のカーテン。テープが逆回転されたようなエフェクトで和音とビートが入ってくる。その上に乗るハーモニー。実験的な後期ビートルズのサイケデリックなナンバーをさらにサイケ感を増したような音。「All Night All Night」のリフレインが耳に残る。不思議な、これはサイケデリックゴスペルであり、ララバイなのだろうか。ドリームポップともとれるが、ノイズが強い。ファズでゆがみまくったギターの音が入ってくる。シューゲイズも入っているが、全体としてかなり独特の音像。やはりこのハーモニーが強いからだろう。30年近いキャリアを持つハーモニーの存在感と説得力が独特の音像の核になっている。

4.Disappearing 03:32 ★★★★

引き続き逆回転エフェクトの上に乗るハーモニー、サイケデリック・ビートルズをレコードの回転数を落として再生したようなサウンド。スローなテンポでノイズの塊の上にハーモニーが乗る。この徹底したノイズの海は凄い。スローテンポなだけにじっくり展開するメロディ。

5.Hey 07:41 ★★★★☆

前の曲から続く、ここまでどの曲も曲間が繋がっている。一つの組曲というかタペストリーのようだ。この曲は最初からハーモニーが明るめ、差し込んでくる光のような美しさがある。音の塊、中空に浮かぶ雲のような、音の雲と差し込む光といったところか。実体がない、つかみどころがないノイズの塊をコーラスが差し照らしていく。ノイズの塊は和音があり、整然とビートに沿って配置されている。スーパーマリオの雲のステージのような。現実にはない浮遊した世界なのだけれど、そこにはテンポがあり流れがある。後半、時間が引き延ばされたような、空白のような時間。

6.Days Like These 05:20 ★★★★☆

急にハキハキした音像に、美しいアカペラのハーモニー。目覚ましのようだ。穏やかなアルぺジオが入ってきた、、、と思ったら音が劇的に歪み、ノイズの塊に。期待を裏切らない。ホワイトノイズの「音としての気持ちよさ」を追求している。ボアダムスとかシュトックハウゼンとかメルツバウとか非常階段とか、とにかくノイズ・ノイズ・ノイズ。ノイズへのこだわりを感じる。「バンドサウンド」ではなく波形で直接編集された、出力された楽器というか。音の塊。ヤン富田もこういう探求をしていたな。ただ、中央にハーモニーが配置されることで歌モノとしてきちんと成り立つという面白さ。どの曲も後半30秒以上余韻が続くんだよな。ビートが消えて、かすかなノイズだけが残るシーンがある。これはかなり意図的。

7.There's a Comma After Still 01:51 ★★★

ノイズが迫ってくる。バタバタと、ヘリコプターの回転音のようだけれどちょっと音が隔てられている。音響実験的。

8.Don't Walk Away 04:07 ★★★☆

スロウで、チャーチオルガンに聞こえなくもないぼんやりした音像の上にハーモニーが乗る。穏やかなバラード。

9.More 02:10 ★★★★☆

切り裂いてくるリフ、女性ボーカル、ハキハキした、勢いのある声。前の曲からの緩急のつけ方がすごい。これはアルバムの流れの中にあると驚く。まさに「音の霞を切り裂いてくる」ように現れる。ポリフォニー、ブルガリアンヴォイス的な、複数のボーカルレイヤーが重なる合唱的なメロディ、後ろのノイズはだんだんと暴れる度合いが強くなっていく。

10.The Price You Pay (It Must Be Wearing Off) 07:08 ★★★★☆

音世界の締めくくり、今までに出てきた手法がどんどん出てくる。変化する音像、ノイズ、その上に乗る美しいコーラスハーモニー。一つの方向に向かってノイズの塊が進んでいく。比較的くっきりとしたビートが立ち上がってくる。ミドルテンポでゆっくりと、アルバムでたどってきた道のりを振り返るように曲が展開していく。途中、ノイズだけが行進を続ける。だんだんと音の密度が高まっていく。急に静寂、ノイズが去り、鼓動音のようなビートが残り、ハーモニーが戻ってくる。だんだんとノイズも戻ってくる。ノイズとハーモニーのパレード。

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