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Alternative(オルタナティブ)ロック史⑧:10年代前半

60年代から見てきたオルタナティブロック史もついに2010年代。最後のDecade(10年間)に突入です。今回は10年代前半の2010-2014年までを見ていきましょう。今までの記事はこちら。

Alternative(オルタナティブ)ロック史①:60年代
Alternative(オルタナティブ)ロック史②:70年代
Alternative(オルタナティブ)ロック史③:80年代
Alternative(オルタナティブ)ロック史④:90年代前半
Alternative(オルタナティブ)ロック史⑤:90年代後半
Alternative(オルタナティブ)ロック史⑥:00年代前半
Alternative(オルタナティブ)ロック史⑦:00年代後半

一般的に、2010年代は(特にUSでは)ロック冬の時代と言われます。「ロックのヒット曲が出ない」「新人スターが出てこない」「ラジオでロックが流れない」等々。日本、いわゆるJ-Rockシーンはそうでもないですが(King GnuとかSEKAI NO OWARIとか、”ロックバンド”が新しく出てきている)、USではZ世代(2000年以降生まれ)はロックを聞かないとされています。マーケティングセグメントで言えば、ロックは懐メロであり、中高年の音楽である。若者が聞くのはヒップホップでありアイドルでありR&Bでありダンスポップである。どこまで「ロック」とするかという境界はあいまい(純粋な音楽スタイルや聴覚上の感覚だけではなく、ファッションなども含んだアーティストイメージや音楽マーケティング上の分類)だったりしますが、いわゆる「ロックバンド」は時代遅れとなっている、と言われます。

別の軸で見ると、音楽の主体が「バンド」という組織・集団から「アーティスト」個々人の時代になっているとも言えます(例外的に思いつくのはK-POPの「アイドルグループ」ですが、USで流行ったのは2020年代の新しい流れ)。基本的に2010年代に活躍したUSのアーティストは「個人」か「プロジェクト」が多い印象を持っています。対して、ロックミュージックは昔から「バンド」が強い。個人で活動するシンガーソングライター的なアーティスト(ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーン)やデヴィッド・ボウイのようなロックスターもいますが、基本的には「バンド」であり、群像劇の側面があった。そうしたものが解体されたのかもしれません。2010年代は「バンド」から「アーティスト」にフォーカスが移る時代だったのではないか、という仮説に立ってみると、3つの原因が考えられます。

1.DTMソフトの発達でバンドを組まなくても音楽が作れるようになった(むしろ、バンドを組む方が難易度が高い)。音楽が好きでとにかくやってみたいと思った人は「まず一人でやってみる」がスタートラインになった。

2.「バンドにしか出せない音」はあるが、「バンドには出せない音」もある(たとえばドラマーがいるバンドはドラムレスのアルバムは作りづらい・そういうものを作るとメンバー不和や解散の原因になりがち)。「(ボーカル・ギター・ベース・ドラムという編成の)バンドサウンド」は50年代から00年代までさんざん実験されてきたので、「バンドには出せない音」の方が手つかずの領域が多かった。

3.各種SNSなどで発信する個人が増え、人々の興味の主体(時代のトレンド)が「組織」から「個人」に移った。個人のほうがイメージプロデュースも管理もしやすく、アーティストストーリーもシンプルで分かりやすい。

前置きが長くなりました。今回はこの仮説も検証しながら2010年代を振り返っていきましょう。この時代に「ロック」とされたアーティストや、名盤とされるアルバムはどんなものだったのでしょうか。そして、この時代であえて「ロックバンド」であることを選んだアーティストたちは、どんな音を鳴らしたのでしょうか。

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1966年-現在進行中、400バンド以上のアーティストと共に振り返るオルタナティブロック史兼ロックを通したUS、UK史。序文と最新話は無料です。

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