見出し画像

人間椅子 / バンド生活三十年~人間椅子三十周年記念ワンマンツアー

画像1

人間椅子は日本のメタルバンド。ブラックサバス直系のドゥームメタルをベースとしながら日本独自、出身地の青森の要素(津軽三味線的な奏法など)を取り入れ、「ジャパニーズフォークメタル」と呼べる独自の音像を築き上げているバンドです。結成30周年を記念して中野サンプラザで行われたワンマンライブ。その様子を映画化した作品がBlu-ray化され、映像特典としてライブのフルセットが収録。映画版は映画館で見たのと、ダイジェストにされていたのでフルセットの方を今回は見ていこうと思います。

<バンド生活三十年~人間椅子三十周年記念ワンマンツアー>
2019年12月13日(金)東京・中野サンプラザホール公演

活動国:日本
ジャンル:ヘヴィメタル、ハードロック、ドゥーム、ストーナー、フォーク
リリース日:2021年6月23日
活動年:1987-現在
メンバー:
 和嶋慎治(ボーカル・ギター)
 鈴木研一(ボーカル・ベース)
 ナカジマノブ(ボーカル・ドラムス)

画像2

総合評価 ★★★★☆

30年の歴史を感じる内容。昔から音楽性が一貫しているバンドの印象が強いが、改めて聴くと70年代HRの影響はもちろんだが80年代、90年代のスラッシュメタルの影響も強い。また、グランジ・オルタナを経て生まれた「音が渦を巻く感覚(エフェクト等で実現される)」や「ノイズを積極的に使う作曲法」も取り入れている。コードかき鳴らしのパートもあり、ああ、30年間のハードロック、メタルの変遷とともに生き延びてきたバンドなんだなぁという思いを改めて持った。変わらずにいたら時代とたまたまリンクしたわけではなく、時代時代と共に変化してきて、世界のメタルのトレンド、USメタルの一つの潮流であるストーナー、90年代のLoad以降のメタリカの方向性にも通じるところまでたどり着いたのだろう。

また、驚くのが音の良さ。S/N比がいいとかハイファイとかそういうことではなく、なんというか音に職人芸を感じるし音作りも絶妙。音響的な心地よさ、洗練を感じる。これも2010年代のメタルならでは。ライブ会場で大音量で聞きたい。きっと気持ち良いだろうなぁ。フェスに出て評価が上がったというのも良く分かる。理屈ではなく音が心地よい。こういう「音そのもの」の説得力にメタルシーン、いや、より広く音楽シーン全体が移りつつある。その中で「今を生きるバンド」感が強い。和嶋が自分でエフェクターを創ったりする、もともと音響面に拘りが強い面があったのも時代とかみ合ったのだろう。

1. 宇宙からの色 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★★

SEと共に入場。リフが始まる。引っかかりがあるリフ。乾いたギターの色も良く分かる。カメラの光の感度が良い。映画版と違いライブ感が強い映像。何かの中継用らしい。TV的な作りと言えばそう。映像がクリアで見やすい。映画版とはまた違う質感。和嶋さん歌上手くなったなぁ。もともと線が細い感じだったのが。まだバンドは硬め。1曲目だし。とはいえスリーピースとは思えない音の絡み合い。ステージングはやや硬さが見られるが演奏はさすがの安定感。曲調はプログレッシブロックと言える複雑なもの。(ボーカルタイプはかなり違うが)Rush的ですらある。スリーピースだし。なんというか70年代ハードロックのエッセンスも感じるんだよなぁ。

2. 羅生門 作詞:和嶋慎治 作曲:和嶋慎治,鈴木研一 ★★★★☆

MCなく二曲目へ。どことなく和風な音程のアルペジオリフ。シンプルなステージセット、そのあたりも70年代的。演出より演奏を聴かせる、ライブショーというより演奏会とでも言うべきタイムスリップ感。音楽だけでドラマチックで情景を浮かび上がらせる力があるからだな。ミドルテンポでじっくりと羅生門の物語が紡がれる。だんだんと音の流れが音楽の力を呼び覚ます。ライティングも簡素で、本当に「ただ演奏している」。サンプラザの広いステージで、ほぼ直立不動(ベースもギターも歌いながら弾くのであまり動けない)。居合切りのような達人の業を見ているようだ。途中、三三七拍子から津軽三味線的ギターへ。

3. 品川心中 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★★☆

鈴木さんのMC、「30周年記念第二弾ライブへ来てくれてありがとう、オジーオズボーンと同じステージに立てて感無量です」的な。そうか、オジーもサンプラザでやっていたのか。「ステージが広いから互いが遠い」とも話している。長めのMCから品川心中へ。完全に和風のイントロ。そこからテンポアップ。素晴らしい曲構成。ベースとギターのハーモニーが美しい。歌いながらよくこんなフレーズ弾けるなぁという運指。ギターの指板の上を左手が飛び回る。ギターソロは必殺の三味線フレーズ。動きまくる、蠢くベースライン。よくぞここまで自分たちの音楽性を高めたものだ。途中寸劇というか落語が入る。やり終えてドヤ顔なのが良い。「おあとがよろしいようで」

4. 芋虫 作詞・作曲:鈴木研一 ★★★★☆

ベースリフ、そこにスライドギターが入ってくる。ギターの音が心地よい。金属的でエッジが立っているのだがどこかビンテージ。音の粒立ちが良い。ギターサウンドがなんとなくジミーペイジを思わせる。ギブソン使っているから視覚的なものもあるのかな。全体としてはサイケデリックな音像。念仏、マントラのような。坊主頭に黒袈裟姿という鈴木研一のルックスもあるかもしれないが。ドラムのナカジマノブも観音像のようにも見える。周りに金物で飾られているからね。後ろの銅鑼が後光か。南無南無。倍音はないが喉笛のような、喉を鳴らして歌っている。サイケデリックトランス念仏。ハードロック仏陀マシーン。かなり長尺なギターソロ。ジャム的。Deep PurpleやLed Zeppelinのような、70年代的ジャムセッション。テルミンを出してきた。展開するメタリックなリフへ。ダミアン浜田作の聖飢魔Ⅱの曲のような趣もある。冒頭がやや冗長だが、後半の盛り上がりが凄い。

5. 愛のニルヴァーナ 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★☆

不思議なスケール、キングクリムゾンも彷彿させるフレーズ。そこからメタリック、というかスラッシーなリフに。Overkillとか80年代スラッシュ的。途中でテンポダウンしてドゥーミーなパートへ。またテンポアップ、ミクスチャー感も出てきた。Anthraxみたいな。

6. 死神の饗宴 作詞:和嶋慎治 作曲:鈴木研一 ★★★★☆

スロウでドゥーミーなリフ。音には渦巻く感じがある。ストーナー、サイケ。ちょっと快活さがあるナカジマノブのドラムがここまでハマるとは加入当初は思いもよらなかったが、和嶋、鈴木のどちらかといえば粘り気のあるグルーブに対してカラッとしたナカジマのドラムがいいアンサンブルを生み出している。鈴木ボーカル曲の酩酊感が強い。人間椅子は大音響で音の渦に飲まれたいバンドだ。Opethにも近い。

7. 悪夢の序章 作詞:和嶋慎治 作曲:鈴木研一 ★★★★

MCもイキイキしてきた、バンドがノッて来た。スラッシーなリフ、展開。ツーバス連打が入ってくる。疾走感があるわけではなく、80年代、90年代スラッシュメタル的な曲構成。本当に最小限の構成なのに音が豊か。この曲はそれほどエフェクトが強いわけでもない。もともとのベースとギターの音、ドラムの音が良い。ハイファイすぎず、混沌過ぎず、良いバランスで各楽器、声が存在する。全員歌も歌えるから3楽器+3声。

8. 命売ります 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★★

混沌としたがちゃがちゃなリフ、ハードコア的な性急なツービート。和嶋ボーカル。これは何かのタイアップだったな、「命売ります」。人間椅子ならではのキャッチ―さ。

9. 無情のスキャット 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★★

YouTubeでバズり、海外からの評価も得るきっかけになった曲。長めのアルペジオ、欧州HM的なスタート。そこから硬質でたたきつけるようなリフ。まさにスラッシュ(鞭打つ)メタル。テンポそのものはミドルテンポ。クリフバートン時代のメタリカにも通じる曲だな。途中からテンポチェンジ、人間椅子の”らしさ”が出てくる。再び鞭打つようなリフに。全体の質感はちょっとGojiraあたりにも近いものを感じる。こうして聴くとモダンなメタルのトレンドを踏まえて曲作りに反映させているんだなぁ。ある意味、一番グローバル、特にUSのメタルシーンと連動したリアルタイムの音を鳴らしているバンドなのかもしれない。

10. 芳一受難 作詞:和嶋慎治 作曲:鈴木研一 ★★★★☆

鈴木ボーカル、和風な童謡を思わせるボーカルメロディ。リフそのものは80年代メタル的なリフ。異形のLAメタル。途中、読経が出てくる。読経はある時期から様々なバンドが取り入れ始めたが、黒袈裟の坊主頭(鈴木)が演じると説得力が高い。これより本格的なのは(実際の僧が参加している)達磨楽隊ぐらいじゃないか。ボーカルが白熱する。

11. 深淵 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★★☆

不思議な音階、クラシカルかつ不協和音で、ノイジーな音響でギターアルペジオが続く、グランジとクラシックの融合のような。酩酊感がありつつ強い知性を感じるメロディもある。イントロを経て刻みリフへ。ベースの低音がうねりをもって渦巻く。非常に独特な音像。モダンなメタル。ストーナー。これだけザクザクしているのに渦を巻く感覚が強い。大サビが気持ち良い曲。

12. 地獄小僧 作詞:和嶋慎治 作曲:ナカジマノブ ★★★★

兄貴ことナカジマノブボーカル。MCから盛り上げていく。会場の雰囲気が変わるいいコーナー。客席も映し出されるが全体的に年齢層が高い。昔からの人間椅子のファンというより、なんだろう、もっと古くからのロックファンもいるような印象も受ける。70年代HR好きというか。ドラムセットが中央にあって盛り上がっているステージも、なんだか昔(初期)のクィーンみたいだし。たたずまいが70年代。音はストーナー。そもそもストーナーは70年代HRのエッセンスを現在の機材や音響でより洗練させてリバイバルさせているものだから当然そうなるのか。

13. 陰獣 作詞:和嶋慎治 作曲:和嶋慎治,鈴木研一 ★★★★

独特の香り立つような世界観。ドロドロしたドゥームなパートから切り替わるように加速してザクザクしたリフ。サバスを日本的に再現した初期の曲だが今のサウンドでやるとストーナー感が強い。そういえばインディーズ盤を持っていたな。今思えば希少盤。アレンジはほとんど変わらないが粗削りなガレージ感があった。

14. 人面瘡 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★★☆

不協和音的なアルペジオ。これも初期の曲。まだプリミティブながら人間椅子というバンドのコンセプトが初期から完成していたことが分かる。むしろ「和風ブラックサバス」のコンセプトが純化されて分かりやすい。「ダラダラドロドロ血みどろ人面瘡」。やけにキャッチー。歯でギターを弾いている。こういうところも70年代的。

15. 針の山 ★★★★☆

そしてバッジ―のカヴァー曲(Breadfun)へ。ステージ上を飛び跳ねる和嶋。サンプラザのステージの広さを使いこなしている。鈴木もベロでベースを弾き出した。ジーンシモンズ的。一度ステージを去る。特効でテープが飛び出す。何もかも70年代的笑。一切映像とかレーザーとか使わない。

EN1-1. 雪女 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★★

アンコール、の声が祭囃子のように響く。こういうお囃子的なアンコール、2声に分かれて掛け合う、みたいなのはいつから生まれたんだろうなぁ。着替えてメンバーが戻ってきた。和嶋はロングTシャツにもんぺ、鈴木は白装束、ナカジマノブは法被的なシャツ。MCを経て曲へ。ややモダンな曲、80年代、90年代スラッシュテイスト。からの70年代HR的なパート、ユニゾンを決めてみせる。そして津軽三味線ソロ。

EN1-2. 地獄 作詞・作曲:鈴木研一 ★★★★☆

アイコン的な曲。人間椅子の世界観を端的に伝える。この曲だけならポストパンク的でもあるな。途中、サイケデリックなギターノイズの応酬。ノイズを積極的に取り入れるのはオルタナ的。

EN2-1. なまはげ 作詞・作曲:和嶋慎治 ★★★★☆

一度ステージからはけたあと、第二アンコール。ここで「今日のステージは映画になります!」宣言。最初に言えば緊張するから、だそう。すっかり緊張も解けてやり遂げた感。「わるいこはいねがぁ」とご機嫌な様子。こういう落語の口上的なMCがサマになってきた。酩酊するようなリフ。ザクザクと刻んではいるのだがおとが溶け合って渦巻く感覚がある。最後は銅鑼の連打、からのコーラス。妙な祝祭感がある。考えてみたらそもそもなまはげって祭りだものな。なまはげは異世界からの稀人であり「なまけものはいねがぁ、ないてるわらし(童)はいねがぁ」のフレーズは祝祭の祝詞なのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?