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Ben Harper / Winter Is For Lovers

Ben Harper(ベン・ハーパー)は1994年デビューのアメリカのミュージシャン、ギタリスト・ボーカリスト・シンガーソングライター・プロデューサーであり、サーフ・ミュージックのスター、ジャック・ジョンソンを見出した男でもあります。本作は2020年リリースのソロ名義の作品で、前編アコースティックギター1本によるインストという実験的な作品、かなり生々しい、フィールドレコーディングのような録音がされており、ギターのきしむ音、弦が揺れる音、弦を指が滑る音などが装飾音のようにはっきりと聞こえてきます。目の前で弾いているというよりさらに近い、不思議な感覚があります。ふとTIDALで見つけて「ベン・ハーパーってそういえばルーツミュージックをうまく昇華したロックの人で、ギターが上手い人だったよな、聞いてみるか」と思って聞いてみたら全然違う企画盤だったという。期待していた音像とは違いましたが、なかなか他で得難い感触のあるアルバムでした。

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2020年リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Istanbul
ブルージーなアコースティックギター、一本
ベース音とメロディ、コードが展開していく
曲名に対してそこまでオリエンタルな響きはないが、やや中東的
イスタンブールに訪れた時に作ったサウンドスケッチなのだろうか
オリエンタルというよりはグランジ、オルタナティブブルースのコード進行か
一部、終盤はイスラムの祈りのような音階
インスト
★★★

2.Manhattan
こちらもアコースティック、もしかしたらアコースティック1本の企画アルバムなのかな
アーシーで落ち着いた音像だがやや跳ねるような、ちょっと雪合戦のような響き
雪玉がはねる、あるいは雪の街の道路か、車が行きかうが雪が音を吸い込んで静けさがある
いろいろなものが行き交うが、それをどこか遠くから、静けさの中で見つめている
ブルースがベースにある、ギター一本のブルース
音がスライドとチョーキングでうねりはじめる
インスト
★★★☆

3.Joshua Tree
タメがあるメロディ、ゆらめくような音
弦を滑る音が響く
暖炉を想像する、あまった弦が揺れている
U2のアルバム名と何か関係があるのだろうか、ヨシュアの木というのは何かの童話だったかな
一音一音が響く、伸ばす、落ち着いた緊張感、音に集中しているのが分かる
なめらかな音移動だがスライドではなく指で滑らしているのだろう、弦のスライド音が聞こえる
親指ではじく音が温かく丸みを帯びている、指の力を感じる
いや、小指にスライドバーをはめているのかな、音移動がなめらかすぎるな
こんなに滑る音がでない気もするが、、、
弦が揺れる音などの環境音まで音楽に組み込んでいる
★★★☆

4.Inland Empire
今度はワルツ調のアルペジオ
こちらもなめらかな音にスライド音、スライド音が呼吸のように聞こえる
こちらもどこかの指にスライドバーをつけているっぽいな
メインの音階が下降するときに、ピッキングハーモニクスだろうか、高音に上がっていく音が聞こえる
ギター一本なのだが、そうした環境音が比較的大きめに入っていて、偶然のハーモニーが生まれている
楽器というより生物というか、ギターの鳴き声だけでなく生体音、足踏みや身震いの音のように感じる
何気ないアルペジオの曲なのだが、ギターの響きが十二分に味わえる
曲としてはスロウなカントリー
なんだろう、クラシックのチェロとかの独奏を録るようなプロダクション、フィールドレコーディング的
生々しい
★★★★

5.Harlem
嘶くような、牛のような、どこかゆったりとしたメロディ
牧歌的で間延びしたメロディ
弦の揺れる音が響く、風の音のようにも聞こえる、麦畑を吹き抜ける風か
ただ、ハーレムということはNYの風景なんだよな、路地裏だろうか
これは牧歌的と言うよりゴスペルの歌声でも表しているのだろうか
風が吹き抜ける街をぶらつくような
★★★

6.Lebanon
音階が下降してくる、中東的な音階
揺れる節回し、12音階より細かい音
短い曲
★★☆

7.London
軽快、規則正しさ、ユーモラス、いろいろなものが行き交っているがメロディが明快
ブルージーというよりブリティッシュフォーク、アイリッシュトラッド的
なるほどロンドンか、二階建てのバスに乗ってロンドンを走る
宮殿や時計塔、観光だろうか、曇り空、灰色のコート、霧
やや靄のかかったコード進行、行き交うのはテムズ川の船か
大きく音階移動、コード全体の移動、大波のようだ
激動の歴史だろうか
★★★★

8.Toronto
だいぶ間をあけるコード展開、音の余白が大きい
音を探りながら進んでいくような
あるいは人気ない街だろうか、音がどこかに吸い込まれるような
弦の揺れる音があまり聞こえない、やや寒さがある
「トロント」という単語から想起するのかもしれないが
ギターの環境音が少な目になり、純粋に「弾いた音」が強調されている
曲によってギターを変えているのだろう
★★★☆

9.Verona
こちらは弦の揺れる音がもどってきた、小刻みな、人為的ではない自然音
スライドの音も強い、もしかしたらナイロン弦とスチール弦? ギターはアコースティックだと思うが
揺れる、あまった弦の揺れが人間の声帯の細かいヴィヴラートのようにも聞こえる
フェードアウト
★★★

10.Brittany
クラシカルな曲、きちんとコード進行がある
金属感、スチール弦の響きに聞こえる、短い曲
★★★☆

11.Montreal
明るめの音、スライドギターの音でコードが変わる
明朗なアルペジオだが何か物思いにふける、何が描かれているのだろう
雄大さ、どこか人懐っこさ、ポジティブな雰囲気を感じる
テンポがかなり揺れる、走ったり止まったり
時間の流れがバラバラなのだろうか
音階もなめらかに移動していたかと思うとスライドで構造物全体が地すべりするような瞬間がある
★★★☆

12.Bizanet
つかみどころのないタイトル
クラシカルなアルペジオ、クラシカルだがガットギターではなくスチール弦
金属感のある響き、スライドする音が聞こえる
弦をはじく破裂感は強い、スライドして音階が飛び跳ねる
音階移動はゆったりしているが、けっこう手の指の動きはあわただしい
すこしづつテンポが速くなる、コード進行が変わる
少しハードロック的なコード進行、リフっぽいものが出てくる
音程移動が激しくなる、インストなのでリフとはいえめまぐるしく展開する
ボーカルメロディも他の楽器もないのでコード全体、調そのものが上下する
★★★★

13.Toronto(Reprise)
ふたたび余白の大きいメロディ、リプライズとのことだがさっきもこれだったかな
ただ、確かに見たことのある風景な気がする、短いインタールード
★★

14.Islip
ブルージーでアットホーム、再び暖炉の前で語らうような響き
コード進行に対して歌うようなメロディラインがある
カントリー的なメロディ
おそらく親指だろうか、はじくベース音は力強い
ゆれる余った弦の音が自然なヴィヴラートをかける
スライドギターとアルペジオの組み合わせ
★★★★

15.Paris
散歩するようなリズム、メロディ
パリ、優雅さを感じる、シャンゼリゼだろうか
エッフェル塔か、凱旋門、行ったことがないのでイメージでしかないが
パリの散歩道、どこか跳ねるようなリズム、シャンソンか
ギターの自然音、弦をこする音、揺れる音、自然なハーモニクス、スライドバーと弦がこすれる音
それらがハーモニーを奏でる、街の喧噪、風の音、車の音、あるいは天気の音か
口笛のようにも聞こえるメインメロディ
スライドギターによるどこかアーシーさ、アメリカンな感じも残っている
最後は揺れるメロディで終わり、旅立ちだろうか
★★★★☆

全体評価
★★★★
企画アルバムなのだろう、すべてインスト、ギター一本
サウンドスケッチ集といった趣で、タイトルから連想する風景をどうギターで表すか
本当にツアー中に、各地で作った曲なのかもしれない
けっこう雰囲気が違うというか、小さなスケッチやエッセイ、短編集を読んだような感触
だいたいどの曲も1分~2分で短い
ギターの音がとにかく生々しいというか、ギターの音だけを集中して聴いている感じ
音色だけではなく、生ギターが出す自然音、弦の揺れ、フレットの擦れなどが自然のハーモニーを作る
趣があって面白い作品、ふとしたときに流したい清涼剤

リスニング環境
昼・家・ヘッドホン

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