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Prioritise Pleasure / Self Esteem

Self Esteemセルフエスティームは、Rebecca Lucy Taylorレベッカルーシーテイラーが行っているエクスペリメンタルポッププロジェクト名です。2017年からUKで活動中。音楽メディアを集計しているAOTY(Album Of The Year)で2021年のトップに躍り出たので聞いてみます。

テイラーは以前、2006年にシェフィールドで結成されたフォークデュオSlow Clubのメンバーでした。2016年にデュオは音楽的相違で解散。その後、ソロプロジェクトとしてSelf Esteemをスタートさせています。本作は2年ぶり、2作目のアルバム。

活動国:UK
ジャンル:エクスペリメンタルポップ、インディーポップ
活動年:2017-
リリース:2021年10月22日

総合評価 ★★★★★

素晴らしいアルバム。一言で言えば「ブリットポップなマドンナ」とでも言えるのだが、アルバム全体を分解してみるとグローバルミュージック、各地の伝統音楽や民族音楽を取り入れつつ、ベースはヒップホップ、ゴスペル、R&Bなどモダンなヒットソングのサウンド、フックのあるメロディ。ミュージカルや映画音楽的なオーケストレーションが盛り上げる。そして後半になるにつれてブリットポップ的な壮大さ、アシッドな感じが出てくる。音楽的にかなり多岐にわたる要素が織り込まれた豊穣な作品。

最初数曲はバラエティには富んでいるものの「音響的には面白いけれど普通のポップだなぁ」と思っていたが、アルバム中盤からだんだん世界観に引き込まれていく。世界観も深く、内面に潜っていく。かといって難解さはなく、ずっと歌メロのクオリティが高く、歌モノとしても魅力的なのだけれど、どこか敬虔な佇まい、よりシリアスというか、こちらもきちんと聴かなければならないような説得力を増してくる。「何か凄いものを聞いているぞ」という感覚、というか。入りやすいのだけれど気が付くとけっこう複雑、奇妙なところにいるような、とはいえ最後まで分かりやすく親しみやすいような。不思議な作品。あまり他で聴いたことがない。AOTYで1位になるのも分かる気がする。ものすごく突出しているか、と言われると「何か凄いことは分かるがどう凄いのか説明しずらい」感じがあるのだけれど、逆に非の打ちどころがない。音楽的面白さ、野心、実験性、娯楽度、それらがすべてそろった作品。

1.I'm Fine 03:01 ★★★★☆

かなり強めの低音。音響的に面白そうな作品。うめき声のような声が入ってきた、と思ったら、そのあと加工された、切り込むようなボーカル。面白い声、音響。Tones And Iにも少し近い、強めの声。ちょっとボーカルメロディの節回しにトライバル、グローバルミュージックの感じもある。北アフリカ音楽かな。いや、これは中部アフリカか。UKのアーティストだが、UKのトレンドというより孤高な感じもあるな。大きく言えばLittle Simzとかアーロパークスに近いものも感じるけれど、質感がだいぶ違う。

2.Fucking Wizardry 03:52 ★★★★☆

急にポップな雰囲気に変わった。ただ、ビートはかなり隙間がある。M.I.Aみたいな感じ。だけれど、この曲は音が軽めだな。全体的に音域が中高音に寄っている。前曲がかなり低音が強調されていたのにこの曲は低音が空白に近い。バスドラも入ってくるがけっこう音域は高め。これ、UKなのか。US、NYのアーティストと言われたら「そうだなぁ」と思う。なんというか実験精神とポップの同居している感じがNYっぽい。この曲はモダンなミュージカル的な感じもする曲。

3.Hobbies 2 03:46 ★★★★☆

かなり隙間が大きい音。これがベースのサウンドなのかな。その上にR&B的なボーカルが乗る。ちょっと節回しが二グロアフリカン的な感じがある。USヒップホップを越えて、アフリカンポップ感がある。ちょっと音が割れているような加工がされている。トラックは隙間が多いが、ビートが飛び回るように配置されている。骨組みだけになっている感じだがなめらかな構造。断絶的なビートではなく流線形のイメージ。未知の世界へ潜る骨組みの宇宙船。ちょっとコズミック。

4.Prioritise Pleasure 04:05 ★★★★★

低音が強めになってきた。お、きしむような音、ノイズが入ってきた。この組み合わせは面白いな。ノイズとゴスペルというかクワイア。ノイズはギターサウンドかな、かなり歪んでいる。エクスペリメンタル、実験的だけれど全体的な音像としてはきちんとポップスになっている。ノイズがいつのまにか包み込むようなオーケストラに変わり、ビートとクワイアが繰り返され、コーラスが盛り上がっていく。

5.I Do This All The Time 04:53 ★★★★☆

ボーカル、雨の音、ビート、ぽつんと置かれるようなシンセ音。ボーカルが語りに変わる。情景が浮かぶ曲。語りと歌が交互に出てきて、そこにオーケストレーションが絡んでくる。これはLitlle Simzとか、今のUKのメロディアスなヒップホップシーンとの連続性を感じる曲。オーケストラのアレンジはUKっぽい。ただ、語りは本当に「語り」で、特に韻を踏んだりはしていない。

6.Moody 03:20 ★★★★★

力強い節回しと断続的なビート、途中から弾むような、80年代的ポップでファンキーな感じに変わる。これは予想外の変化。しかもノリがいい。シンディローパーの曲を歌うマドンナ、みたいな。そういえばこの人、声がちょっとマドンナ的かも。もうちょっと高音域に音域は広い感じだけど、中音域のちょっとドスが効いた感じとか、声が今プレサッサーかかったみたいな、耳に入ってきやすい強さとか。このジャケットのビジュアルもそう気づいてみるとマドンナっぽい。ユニット名の「セルフエスティーム」は「自尊心」で、20代の経験を経て自尊心を身に着けたということをユニット名にしたそう。本人はバイセクシャルを公言しており、LGBTとして、マイノリティとしての自負もあるのだろう。

7.Still Reigning 03:49 ★★★★★

ゴスペル的な曲、波のように次々とコーラスが寄せては返す、後半はオーケストレーションが入ってきて壮大に盛り上がる。UKロック的な盛り上がり方。メロディが良い。

8.How Can I Help You 02:21 ★★★★

強いビート、強い歌い方。勢いがある。最初はビートとボーカルだけ、儀式的、かなりトライバル。打楽器と声だけだから民族音楽的。前の曲からの切り替え、景色の変わり方が凄い。インタールード的な立ち位置か。M.I.A.的。

9.It's Been A While 03:03 ★★★★☆

ヒップホップビート、ちょっと民族楽器、コラのような音が入っている。コラはチュニジアだったかな。えーと、ママドゥ・ジャバテとか、、、マリだったか。ディジリドゥのような低音ドローンも出てくる。ボーカルはヒップホップ的。全体としてグローバルポップの取り入れ方が面白い。ただ、どの曲もフックがある歌メロというか、コーラスがきちんと入っているのが娯楽作としての完成度を高めている。そこまでメジャーなアーティスト(ヒットしている)というよりは、知る人ぞ知る存在のようだ。2019年にはQアワードのブレイクスルーアーティストを受賞している。

10.The 345 04:15 ★★★★★

急にメロディアスな曲に。ボーカルが歌い上げる。ディズニーソングのような力強いメロディ。ハーモニーが重なる。ビートが入ってくる。ビートはヒップホップ的というか、トライバルというか。両方あるな。隙間が大きいリズム。壮大な曲、スピリチュアライズド的な浮遊感と壮大さ、ブリットポップ感も出てきた。後半はヴァーブのアーバンヒムズ的な感じも。繋がっている。

11.John Elton 02:50 ★★★★☆

ジョン・エルトン。なかなかなタイトル。ピアノとボーカルの曲。ただ、あまりエルトンっぽさはメロディにはない。ハーモニーが壮大、オーケストラが途中から入ってくる。単にいろいろな曲が入っているアルバム、ではなく、全体としての流れがあるな。後半になるにつれて世界観が深まっていくというか、より内面の吐露、深いところに踏み込んでいく感覚がある。追憶のような、話し声、歌声を加工したノイズが入る。断絶。

12.You Forever 03:45 ★★★★★

奇妙なテープループ、ビートルズのサイケのような(笑い声が延々続く針飛び)。そんなオープニングから急にビートがしっかりした曲になる。メロディアスな曲。途中からボコーダーで加工されたボーカルに、P-MODELみたい。ちょっと実験的な、アニソン感もある。この曲は心地よい。途中、ゴスペル的な掛け合いへ。さまざまな伝統音楽、民族音楽を取り入れながらノイズ、ヒップホップ、ゴスペル、そして今のUSポップス、UKのメインストリーム的なフックあるメロディが組み合わされている。豊穣な音楽。

13.Just Kids 02:18 ★★★★★

大仰な、ゴスペル、強いハーモニー、教会オルガンとコーラス。ただ、リバーブは弱めで石造りの教会で合唱している感じはない。空間が不明で、ただ、そこにコーラスと音だけがある。不思議な感覚。最終曲、祝福感がある。




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