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Jaubi / Nafs At Peace

総合評価 ★★★★☆

パキスタン、ラホールの4人組バンドが多くのゲストを迎えて作ったアルバム。基本はジャズロックと北インド音楽(ヒンドゥスターニー音楽)の融合であるが、北インド音楽とロックの融合、という意味ではこの記事で取り上げたアーティストのような衝撃はない。その分、西欧音楽というかジャズロックの範疇には収まっており、より普遍的な層にもアピールできるというか、バランスが良いのかもしれない。インド古典音楽のファン層よりジャズロックのファン層の方が(インド文化圏以外では)多いからね。面白いアルバムではある。3曲目はスリリングな出来栄え。

その他情報


1.Seek Refuge 02:18 ★★★★

ヒンドゥスターニー音楽(北インド音楽)のラーガ形式、ゆったりとしたアンビエントなメロディ。雄大な時間が過ぎていく。壮大なオープニング。

2.Insia 05:15 ★★★★

ジャジーな空気、少し手数の多いビート、テンポが変わってファンクというか、アーバンな空気感になる。リバーブが効いたギター、ジャズ的な音像。弦楽器、伝統楽器がはいぅてきてインド色が増していく(パキスタンだが)。エレピとギターフレーズがユニゾン、フュージョン、ジャズロック的な音像に。そもそも北インド音楽は速弾き、シタールの速弾きとかタブラも速いし、高速プレイというのが楽器の特性として織り込まれているから西洋楽器を弾かせてもプレイアビリティが高い、驚くような超絶技巧がさらっと出てくる。だからプログレとかジャズとか、複雑で演奏技術が聴き処になる音楽は凄い。

3.Raga Gurji Todi 06:13 ★★★★★

タイトルにラーガ、とある。ラーガというのは「旋法」で、メロディの型。これは昔からある曲なのかな、メロディラインは幾度も耳にしたことがある、おそらくこの旋法が定型なのだろう。その定型に沿ってメロディが展開していく。これヴァイオリンかな。奏法が北インド特有。ああ、サーランギーか。タブラとサーランギーがせめぎあう、インド古典音楽に忠実なフォーマットながらジャズロックのスリリングさがある好曲。

4.Straight Path 07:27 ★★★★

静かなフルートの調べ、サーランギーが入ってくる。こうして聞くとパキスタンは北インド音楽と音楽的にはほぼ同じなんだな。文化的にも近い、ただ、信仰はイスラームだけれど(インドはヒンドゥーが多い)。イスラムかヒンドゥーかで大きく国が分かれたが、音楽文化的にはそこまで差異はないのだろう。カッワーリーはパキスタンに特有というかパキスタンが中心地な気がするが。あれはイスラームとインドの音楽がぶつかり合って生まれたのだろう。楽器隊だけだとそこまで明確な差はない、かも。アンビエントな空気感の上で伝統楽器がせめぎあうゆったりとした曲。スペーシーなキーボードが空間を浮遊する。

5.Mosty 07:40 ★★★☆

やや透明感がある、隙間のある音響。民族音楽色は強いがアフリカ的な反復。ベースの反復が強い、グルーヴ感があり、曲を引っ張っている。全体的な音像としてはジャズロック。

6.Zari 05:51 ★★★★☆

ビートフリーなイントロからビート強めのリズムが入ってきて曲が展開していく。けっこうビートはしっかりしていてロック的、ジャズロック的。この曲はややインド的なフレーズが入っている。過剰過ぎない感じがいいんだろうな。伝統音楽として見ると超絶技巧が少ないし、2019年ベストアルバムに選んだSitar Metalやこちらの記事で取り上げたような最新系のロック+インド音楽とまではいかないが、適度にオシャレでジャズとしても聞ける、逸脱していない。その逸脱の弱さ、インドの本場のテイストは入っているけれど西欧音楽としても聴ける、みたいなところが評価が高いというか特性なのかも。アヌーシュカシャンカールとかもそうだよね。あの人は何しろシタール奏者の名家シャンカール一族なので本格的だけれど、音響とか曲構成は西欧音楽としても聴ける、というか。

7.Nafs at Peace 07:54 ★★★★☆

この曲はずいぶんプログレっぽい。カンタベリー派とか、ジャズロック寄りのプログレ。だんだんと盛り上がってくる、張り詰めた間合いというか、互いのインプロビゼーションで盛り上がる。乱打されるドラム、吹き散らされる管楽器、その中で静謐さを保つピアノ。これはサックスかな。サックスとドラムがバトルを続ける。最後だけあって盛り上がる。


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