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2019年 ベストアルバム10選

2019年のベストアルバムを振り返ってみたいと思います。

今年はボーダーレスな名作が多く生まれた1年だったように思います。既存の音楽ジャンルを拡張するような挑戦的な作品も多くリリースされました。その中で、目新しさを感じつつ、歌ものとして魅力的なものを中心に選んでいます。

10位

IDLE HANDS / 「MANA」

まずは第10位。IDLE HANDSはアメリカ、オレゴン州ポートランド出身で2019年デビュー。作曲能力が優れています。どの曲も耳に残るフックがあり、独自の世界観を作っています。カッコよさだけでなくちょっと情けなさ(最近のイングウェイやティモトルキを思わせるボーカルのルックスもありますが)も感じさせ、この辺りは日本のビジュアル系にも通じる世界観ですね。ボーカルもヘタウマというか、煮え切らない感じですし、音域も狭い。プロダクションもややモコモコしています。

そうしたマイナス点がありつつ、アルバムを通して聞いたときに何とも言えない魅力を感じます。自分の個性を活かす曲作りを知っている印象。このスタイルに至るまでに多くの試行錯誤の後を感じます。KING DIAMONDの復活ツアーの前座に抜擢されたようですが、独自の世界観が評価されてのことでしょう。今後が楽しみなバンドです。


9位

BABYMETAL / 「METAL GALAXY」

BABYMETALは日本発のアイドル×メタルバンドです。2010年結成でまもなく10周年。メンバーの2人も成人しました。今作は3作目、日本のバンドにしては長めのインターバルですがグローバルで活躍する中堅クラスのメタルバンドとしては普通のリリース間隔。前作「METAL RESISTANCE」がいわゆるメタル・フォーマットにかなり寄せた作りで曲の振れ幅が減りましたが、今作は1stのような「アイドル路線」のバラエティー感を取り戻しています。

日本の音楽シーンが世界的にも先端を走っているのは「ゲーム/アニメ」の分野。多くのバラエティーがあり作曲能力も演奏能力も高いプレイヤーが多い。受託型で職業音楽家、職人が一定数存在できるからでしょうか。そうした能力の蓄積が世界に出る形で爆発したのがBABYMETALのように思います。プロダクションや曲作りに凝りすぎてパーツがちぐはぐに思える瞬間もありますが、新しい音楽を生み出そうとする挑戦的な姿勢は変わらず。アルバムごとのワクワク感があります。

以前取り上げた記事はこちら


8位

Devin Townsend / 「Empath」

デヴィン・タウンゼントは多才な人で、天才肌のミュージシャンです。1993年のスティーブ・ヴァイの「SEX&Religion」でボーカリストとして抜擢されてデビュー。ボーカリストでありながらライブではヴァイとツインリードを弾きこなすなどギタリストとしてもかなりの腕前を見せ、爆発力のあるステージパフォーマンスもあり奇人変人(ヴァイのイメージもあるでしょうが)の名をほしいままにします。94年に元Deathのスーパードラマー、ジーン・ホグランを迎えたStrapping Young Lad(SYL)を立ち上げ、かなりヘヴィな音楽を追求。97年にSYLのセカンド「City」と、同年に初のソロアルバム「Ocean Machine: Biomech」をリリース。このソロアルバムが非常に独自性が高く、脳内に流れている音をそのまま表現したような一人多重録音、マルチプレイヤー、作曲家としてのデヴィンの一つの頂点を提示したと思います。続いて98年にはワイルドハーツのジンジャーをゲストに迎えた「infinity」をリリース。この辺りが日本における彼のキャリアの一つのピークでしょう。

この後、2000年初頭は低迷します。精神的にも不安定だったようですが、曲調が似通ったものになり、閉塞感のあるアルバムが続き、一部マニアのみが追いかける存在になっていました。ですが、こつこつと自分の音楽を追求しつづけていたらだんだんと完成度があがり、2019年の本作ではついに第二のピークを迎えたと感じます。ヨーロッパではすでに不動の人気を誇り、ロイヤルアルバートホールでライブをするほどのアーティストになりました。音楽的にはデヴィン以外の何物でもない独自の音世界を作り続けています。


7位

SITAR METAL / 「SITAR METAL」

その名の通りシタールをメインに据えたインドのメタルバンドデビュー作。歌ものを選んだといいつつ、このアルバムはインストです。完成度が高いのでランクイン。中心メンバーのRishabh Seenは1997年生まれの新進気鋭のシタール奏者です。父親のPt. Manu Kumar Seenも著名なシタール奏者。インドのこうした古典楽器はカースト制によって代々受け継がれており、日本だと代々雅楽や歌舞伎に携わる一家の跡継ぎ、みたいなイメージでしょうか。小さいころから家を継ぐべくシタールの練習を重ねるわけです。そうした出自もありシタール奏者としての実力は確かなもの。SITAR METAL結成以前にもさまざまなロックやメタルをシタールでカバーしたり、Mute The Saintという別のプログレ・メタルバンドを組んでいたりとキャリアがあります。伝統芸能の可能性を新しい感覚で開拓しています。

実際に聞いてみると意外とすんなりと耳に馴染み、完成度が高い。考えてみればインド古典音楽はそもそもシタールは速弾きだし、タブラも高速ブラストビート、バックで流れるドローンもディストーションギターと考えると構造的に親和性があります。これはまさにそうしたインド古典音楽の語法に忠実に(何しろきちんと古典音楽の勉強を積んできた人ですから)、完成度が高い音楽を聞かせています。

SITAR METAL中心ではないですが、以前インド音楽を取り上げた記事はこちら。Bloodywoodのフルアルバムも楽しみです。


6位

Myrath / 「Shehili」

Myrath(ミラス)は北アフリカは地中海に面し、イタリアの対岸にあるチュニジア出身のバンド。2007年デビューで10年以上のキャリアを持ち、2016年のLoud Parkと2019年のMETAL WEEKENDで来日も果たしました。アラビア音階を活かした個性的かつ完成度の高いサウンドを聞かせます。古くはIRON MAIDENのPOWERSLAVEや、デスメタルバンドのNILEもこうした音階を取り入れてきましたが(もっとさかのぼればLED ZEPPELINが西洋ロックにアラビック音階を取り入れた先駆者でしょう)、彼らはより自然体に、自分たちの琴線に触れるメロディーとしてそうした音階を取り入れている感覚を受けます。M4の「Dance」のサビなど、独特の節回しが耳に残ります。この曲はPVもストーリー仕立てでなかなか凝った芝居をしています。

音楽的にはアフリカ音楽は大きく2つに大別され、南アフリカ(黒アフリカ)と北アフリカで性質が異なります。南アフリカはフェラ・クティに代表されるアフロビートや、より軽快なアフリカンポップス(キング・サニー・アデなど)、ポリリズム的な音楽がありますが、北アフリカは中近東に近い。チュニジアの音楽はマグリブの音楽、アラブ・アンダルース音楽とも呼ばれ、アラブ、イスラーム圏の音階、音楽の影響を強く受けています。ライ(またはラーイー)と呼ばれるこぶしを効かせた節回しのポップスが隆盛(代表的なアーティストはCheb Khaled)で、ミラスのボーカルスタイルにもその影響が見えます。


5位

The HU / 「THE GREG」

モンゴルから現れたメタルバンドThe HU、デビュー作。BABYMETALのアメリカツアーのゲストにも迎えられ、2020年に来日も決定しました。モンゴルの伝統楽器(馬頭琴など)や伝統歌唱法(ホーメイ=喉笛)を駆使し、自分たちの音楽をフンヌ(匈奴)・ロックと呼ぶ彼ら。The HUはモンゴル語で「人類」の意味です。AC/DCやAcceptのようなどっしりとした、体が自然と動いてしまうプリミティブな縦ノリのリズムが特長で、本能的な心地よさがあります。曲のバラエティが少ないように感じますが、これが一つの型として確立されるのかもしれません。ルックス、佇まい、曲調、すべてが一貫して一つのキャラクター性を主張しており、デビューして間もないバンドながら存在感があります。

モンゴルの音楽シーンは日本の音楽シーンと違い、それほど国内にバンドがいません。ウランバートルを2017年に訪れたのですが、2年前、3年前のアルバムが「新譜」としてCDショップに並んでいました。国内の音楽シーンは決して大きくありませんが、音楽を楽しむ土壌はあり(遊牧民はそもそも歌が好き)、一つのバンドやヒットの息が長い印象です。

以前取り上げた記事はこちら


4位

The Wildhearts / 「Renaissance Men」

ついにオリジナル・ラインナップで復活したワイルドハーツ。ワイルドハーツは1992年デビューで、90年代半ばの洋楽好きには知っていた方も多いでしょう。Burrn!読者には大野さんのお気に入りバンドとしての印象も強いはず。とにかく93年から96年頃の彼ら、ジンジャーの作り出す曲にはマジックがありました。非常に多作なことも特徴で、シングルを量産するとB面曲にも名曲が入っている。シングル盤を買いにディスクユニオンを巡った思い出があります。そんな彼らも97年にノイジーでヘビーな「エンドレス ネームレス」のリリースから失速し、バンド内部の人間関係とビジネスの不調から瓦解。そのあと単発的に再結成するも、今一つ軌道に乗らず。2009年の「フツパー - Chutzpah - 」以来、10年ぶり、かつ黄金期のメンバーが再結集したアルバムがこの「ルネサンス・マン」です。

ワイルドハーツは「ビートルズ ミーツ メタリカ」とも言われた「英国的な捻りのあるポップセンスとヘヴィネスの融合」が特長で、今作はややストレートな曲作りながら、90年代、希代のメロディーメイカーと呼ばれたジンジャーの底力を見せる出来。相変わらずボーカルは弱めですが(その分コーラスは厚い)、安定したバンドサウンドがグルーヴを生み出し、耳に残るキャラクターのある曲たちが並んでいます。今年の来日公演ではスタッフと乱闘になるなどジンジャーは心身の浮き沈みが激しい人ですが、このラインナップで安定して欲しいものです。


3位

Opeth / 「In Cauda Venenum」

1990年結成、まもなく結成30周年を迎えるスウェーデンのOpeth。初期のプログレッシブ・デスメタルからデス色が薄れ、今作ではプログレッシブメタルも超えて独自の音世界を確立した感があります。もともとアグレッションや暗黒性の中に同居する冷たさや透明感を感じる音像が特長でしたが、今作は印象に残るリフと絡み合う流れるようなボーカルラインでメロディーの美しさとメタルとしてのエッジが両立し、確固とした意志と哀愁を感じるワンランク上の音像になっています。

19年の来日公演では非常に落ち着いたステージで、北欧ユーモアたっぷりのMCを織り交ぜつつ独自の音世界を余すことなく再現していました。合唱やヘドバンがほぼないライブでしたが、純粋に音楽の力を感じさせるライブ。2時間以上のライブ中、指定席の会場でしたがほぼすべての観客が総立ちで見入っていたのが印象的です。

以前取り上げた記事はこちら


2位

Tanith / 「In Another Time」

タイムスリップしたかのように現れたTanith。ニューヨークのバンドですが中心人物のRuss Tippinsはイギリス人。NWOBHMの一翼を担ったSATANのギタリストです。センスは英国的ですね。絶妙なメロディーセンス、ツインリード、音の隙間、音作り、すべてがビンテージの風格を持ちつつ、2019年に生きるバンドとしてのフレッシュさ(とはいえメンバーはみなベテランですが)も感じさせる奇跡の新人バンド。ビンテージ風であっても機材やプロダクション技術は2019年版で、それが新しさを産んでいるのでしょう。リーダーはNWOBHMの流れをくむ人ですが、男女ボーカルの絡みは英国フォークや欧州プログレ(ルネッサンスなど)の流れも感じさせます。キャリアのあるミュージシャンが自分の心の赴くままに表現し得た名盤。何より曲が秀逸で、驚くほどの展開があるわけでも、超絶技巧があるわけでもないですが聞いていて心地よい。懐かしい友人に会ったようなぬくもりを感じます。中心の二人はプライベートでもパートナーであり、それも音の親しみやすさや親密さにつながっているのかもしれません。

最初は完全にプライベートなプロジェクトとして7インチのEPをリリースしたのですが、評判になりフルLPを作り、ライブ活動もしています。サイドプロジェクト感が強いですが評論家や市場からの評価も高いのでこのままパーマネントなバンドとして活動を続けていってほしいところです。

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1位

Beast In Black / 「From Hell With Love」

フィンランドの新星Beast In Black(BIB)のセカンドアルバムです。全曲シンガロングで合唱可能なアンセムでありながらメロディーが単調にならず、どの曲もキャラクターが立っています。マンネリになりがちなジャンルながら、シンセをうまく取り入れ、各演奏者の表現力でメリハリをつけています。個人的にはHelloweenの守護神伝2章以来の衝撃。ボーカルの表現力も白眉で、1曲目から心が熱くなります。

中心人物のアントン・カバネン(Anton Kabanen)は元Battle Beast、もう一人のギタリストは元U.D.Oのカスペリ・ヘイッキネン(Kasperi Heikkinen)と演奏力の高いメンバーがそろっています。ボーカルのヤニス・パパドプロス(Yannis Papadopoulos)はギリシア出身で元Wardrumというバンドで3枚のアルバムを残しています。当時からボーカルとしての力量は確かでしたが、アントンの作曲能力と出会ったことで一皮も二皮も向けた印象です。王道的なパワーメタル、スピードメタルでありながら、盛り上がりの緩急のつけ方がうまい。これ以上盛り上がらないだろう、と思わせてさらに高音域でシャウトする、など、今作における煽情力にはボーカルの力と、それを引き出し切った作曲能力との相互作用が働いています。

ツアーの合間を縫ってかなりタイトなスケジュールで制作され、アントンはあまり制作中の記憶がないそうですが、振り返ってみたときに名盤と呼ばれるのではないでしょうか。ファーストはもっと攻撃的で、このセカンドはバラエティに富んでいるのですが、それはそうした慌ただしい中だからこそアントンの好み、嗜好が素直に出て、さまざまなメロディー、バラエティに富んだ内容になったのかもしれません。2019年はフィンランドのメタルバンドを集めたSuomi Feastと、METAL WEEKENDの2イベントでなんと2回来日し、アルバムと変わらぬハイパワーなパフォーマンスを見せてくれました。この声域がライブで出るのは凄い!

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それでは皆さん、来年も良いミュージック・ライフを。

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