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51.中国、内モンゴル自治区のフォークメタル = NINE TREASURES(九宝)

前回の「越境メタルベスト10+1」でも取り上げた中国、内モンゴル自治区のフォークメタルバンド、NINE TRESURES(九宝)。2010年に内モンゴルのハイラルで結成。バンド名は古代モンゴルの詩で幸運を呼ぶとされる9つの宝(金、銀、青銅、鉄、瑪瑙、琥珀、翡翠、真珠、珊瑚)から。2019年フルライブがオフィシャルチャンネルで公開されていたので改めて取り上げます。こちらは2019年のTAIHU MIDI FESTIVAL(太湖迷笛音樂節)のライブの模様。迷笛音樂節(MIDI FESTIVAL)は北京のMIDI音楽学校が主宰している中国大陸3大フェスの一つで、最大かつ最も歴史が古いフェスティバルです。1997年にスタートし、複数の都市(北京、上海、深圳、蘇州)で開催され、4万人から8万人を動員するとされています。ちなみに3大フェスの他の2つは東海音樂節(EAST SEA FESTIVAL)と草莓音樂節(Strawberry Festival)です。九宝は5月4日の“战国”舞台(戦国ステージ)のトリを務めました。以前、中国ロックはあまり盛り上がっていないと書いてしまいましたが、こんな大規模なフェスが開催されているんですね。不勉強でした。2019年、迷笛音樂節の他のラインナップはこちら(中国語)。日本からもThe STAR CLUBやASTERISMが参加しています。この3大フェスを入り口に、また改めて中国ヘヴィ・ロック界隈を掘り下げてみたいと思います。

さて、今日は内モンゴル自治区の音楽を取り上げましょう。以前、モンゴル×メタルとしてThe HUを取り上げました。内モンゴル自治区のバンドは音楽的にはThe HUに近いものがありますが、九宝は中国古典音楽からの影響も感じます。The HUは世界に羽ばたいたわけですが、モンゴルには国内市場がほぼないので自然に世界に目が向いたのでしょう。中国は、これだけロックフェスが活況ということは国内ロック市場が育ってきていて、中国での活動を主としてバンドが成り立つのかもしれません。中国のサイトは中国語でしか情報がなく、また、接続が重い(中国政府の規制)ため国外からアクセスしづらい面があり、なかなかシーンが見えてきませんが、あきらめずに掘り下げてみるといろいろと面白いバンドが眠っていそうです。

ふと考えてみると言語の壁は日本も同じかもしれませんね。日本のメタルバンド、ロックバンドの情報は海外のファンからは取りづらい気がします。

中国は新疆・ウィグル自治区やチベット自治区の少数民族に対する弾圧問題が取り上げられていますが、内モンゴル自治区にも同様の弾圧があった。むしろ、各自治区の中でも古くから弾圧されています。そもそも匈奴=モンゴルですから、漢民族の天敵。過去何世紀にもわたって敵対しつつ勝ち負けを繰り返してきました。最近もモンゴル語教育を禁止するという通達が出て問題になっていますが、そうした弾圧にも負けず、音楽的にもルックス的にもモンゴル色の強い九宝は人気バンドとして中国国内で活躍しているようです。なかなか他国の内情というのは外からは分からない(報道機関によってバイアスが強い)ものですが、こうして音楽シーンで見てみるのもまた一つの視点です。彼らが人気バンドだということは、内モンゴル自治区出身者にもある程度均等に活躍の機会が与えられているし、モンゴル文化そのものが禁止されているわけでもないのでしょう。

他にも内モンゴル自治区出身のバンドを紹介します。

HANGGAI(杭盖)は2004年結成、2019年のFUJI ROCKにも参加しています。結構日中のバンドは交流があるんですよね。もともと爆風スランプのファンキー末吉氏が中国ロックの先駆けとも言える黒豹のメンバーと個人的に知己を結んだことなどがきっかけで、日中のロックシーンはさまざまな交流が生まれてきました。こちらはHANGGAIの2013年の曲。モンゴル色が強めです。こちらは内モンゴル自治区の映像のようですが、こうしてみるとほとんどモンゴルと変わりませんね。ちなみに、今はHANGGAIは北京で活動しているようです。このころはモンゴル伝統音楽の影響が強いフォーク・ロックでしたが、2016年ぐらいからは従来のモンゴル色に加えてなんというか日本の歌謡曲的な、強い節回しも加わってより個性的なバンドになっています。

モンゴル音楽とメタルの融合ということだと、パイオニアはEgo Fall(颠覆M)の2008年のアルバム、蒙古精神(Spirit Of Mongolia)でしょう。この前にもあったのかもしれませんが今のところ見つけられていません。こちらも内モンゴル自治区のバンド。

この時点でかなり完成度が高く、他に聞いたことがない衝撃的な音像を打ち出しています。むしろ、モンゴル色が薄めでアグレッションが強いので一番モダンに感じるかも。この後、影響をうけたかどうかわかりませんが2010年にはアメリカでTengger Cavalry(テンガー・カヴァルリー)というモンゴル音楽を取り入れたメタルバンドがデビューします。テンガー・カヴァルリーの創設者はNature Ganganbaigal(ネイチャー・ガンガンバイガル)というモンゴルと漢民族のハーフで、北京出身の中国人。彼が渡米して興したバンドです。2008年ごろからモンゴル音楽とメタルの融合は試みられてきていたのですね。もっと古いものを見つけたらまた取り上げようと思います。

最後は、純粋なモンゴリアン・フォークをお届けしましょう。モンゴルの女性シンガー、Erdenechimeg Gantung(Гантөгсийн Эрдэнэчимэг)。ホーメイ(喉笛)と並ぶモンゴル音楽の特徴的な節回しオルティンドー(長い唄、日本の追分の原型とも言われる)を駆使した美しい歌声を聴かせてくれます。

内モンゴル自治区以外の中国ロックを取り上げた記事はこちら
九宝の歌詞を訳した記事はこちら


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