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53.南京生まれ北京育ち、俳優もこなす中国ロックスター = 朴树

朴树(Pu Shu)は1974年生まれ、1996年デビューの中国のシンガーソングライターです。2019年の太湖迷笛音乐节(MIDI音楽祭)では5/4のメインステージのトリをつとめる他、昨年、中国ロックシーン最大の話題となった「The Big Band(乐队的夏天)」の1stシーズンのファイナルコンサートでもスペシャルゲストとして呼ばれています。この番組には中堅どころのロックバンドが多く出場していましたが、ゲストとして一段上で呼ばれると言うことはロックシーンの枠を超えて、別格的な大物(国民的歌手)扱いなのでしょう。それほど多作な人ではなく、2002年に2ndアルバム「Life Like A Summer Flower(生如夏花)」を出した後沈黙。2014年に発表された曲が今日紹介した「The Ordinary Way(平凡之道)」です。映画「未来会議(后会无期)」の主題歌として使われ、この映画も2014年の中国で大ヒットしました。この曲はどこかシャンソンのような、美しい言葉の響きを感じる佳曲です。中国語の響きの印象が変わりました。

「The Big Band(乐队的夏天)」は2019年に第一シーズンが放映されたiQIYIのオリジナル番組でヒット作。人気が出たので2020年には第二シーズン放映が決定し、現在放映中。なお、iQIYI(アイチーイー、爱奇艺)は中国の巨大IT企業である百度(バイドゥ)の傘下企業で、中国版ネットフリックスみたいなものです。乐队的夏天はいわばイカ天やえびす温泉のような「バンドが対決して得票数が多い方が勝ち残る」番組です。第一シーズンは全中国から選抜された31バンドが出場し、最終的に5バンドが勝ち残りました。中国ではこの番組のヒットによってロックシーンが再び活性化した、という評価もあるようです。

乐队的夏天出場バンドをいくつか紹介しましょう。得票数1位に輝いたのは、以前も紹介した新褲子(New Pants)。1996年結成のベテランで、今までに8枚のアルバムをリリースしています。どことなく浮遊感と哀愁がある音作りが耳に残ります。メロディーが良い曲が多いですね。

続いて第二位が痛仰樂隊(Tong Young)。1999年結成。こちらも20年以上のキャリアがあるベテランです。昔は痛苦的信仰乐队(英文:Miserable Faith)と名乗っていました。ちなみに「乐队」と「樂隊」は同じ意味で、「バンド」です。中国は文末にこれをつけることが多い。一般名詞を使ったバンドが多いので(左右乐队とか)、乐队をつけないとバンドの名前だと分からないからでしょうか。昨年、痛仰乐队は乐队的夏天でのライブの模様です。こちらもちょっと浮遊感があるギターとやや哀愁のメロディーですね。

続いて3位が刺猬(Hedgehog)、ハリネズミです。女性ボーカルで、初期はややパンキッシュでポップな音楽性でしたが、やはりニューウェーブ的、浮遊する落ち着いたメロディーで聴かせるスタイルへ移行しています。途中から跳ねるラップに切り替わるミクスチャー感覚が面白い。6分あるやや長尺の曲ですが展開で長さを感じさせません。名曲。

続いては最終ベスト5には残れませんでしたが、ベスト9に残った面孔樂隊(The Face)を。中国のメタルバンドです。80年代を強く感じさせる王道スタイルですね。それもそのはずで結成は1989年。活動歴30年のベテラン。ギリギリとはいえリアル80年代組です。このチープさがあるCGはゲームか何かとのタイアップなのでしょうか。目新しさはないですがしっかり編曲しているし、一定のレベルを超えたいいバンドだと思います。再生回数がえらく少ないのが不思議。中国国内ではメタルの人気は低いのですかね。

もう1組メタルバンドを。 萨满(Samans)は2007年に吉林省長春で結成された中国のメタルバンド。2019太湖迷笛音乐节(MIDI Festival)の5/3の戦国ステージのトリを務めたバンドです。ちなみに翌日5/4のトリを務めたのが前々回紹介した九宝。こちらのSamansのメンバーにも内モンゴル自治区出身者がいます。歌詞はほとんど英語ですが、中国的なフォークメタル、シンフォニックメタルを感じます。

中国のロックシーンには朴訥とした、素朴さを感じるメロディーが多い気がします。どこか郷愁を感じさせる響きがある。最後はそんな曲で締めくくりましょう。左右乐队の「十里長安」。左右乐队は2005年結成のバンドで、2019太湖迷笛音乐节の戦国ステージ5/2のトリ。また、「The Big Band(乐队的夏天)」のシーズン2に出演中です。

いやー、中国ロックも奥深いですね。内モンゴル自治区が個人的にはツボですが、それ以外にもさまざまな個性をもったバンドが出てきています。昔の日本ロックシーンに近いところもありつつ、メロディーセンスの違いや言葉の響きの違いに新鮮さを感じます。そもそもあまり国外への情報発信に熱心なバンドが少ない印象で世界的知名度がまだまだですが、巨大な国内市場を背景に世界に通用するロックスターが生まれてくるかもしれません。


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