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Nanowar Of Steel / Italian Folk Metal

イタリアの秘宝(秘宝館的な意味で)、Nanowar Of Steel。全世界のパロディメタルファン待望の新作です。NoSを知らない方はまずはこちらの記事をどうぞ。

伝説となったIKEA賛歌Valhallerujaから2年。今回のテーマはイタリアン、そう、イタリアンフォークメタルです。全編(ほぼ)イタリア語という、「歌詞が分からないとネタが通じないのでは!?」という懸念もなんのその、やると決めたらやり抜く漢気。意外とイタリア本国で人気なんですかね。イタリア語圏で勝負するというのは。

活動国:イタリア
ジャンル:Heavy/Power Metal/Hard Rock
リリース日:2021年7月2日
活動年:2003-2006 (as Nanowar), 2006-現在
メンバー:
 Gatto Panceri 666 Bass, Vocals (backing) (2003-present)
 Uinona Raider Drums, Vocals (backing) (2003-present)
 Mohammed Abdul Guitars, Keyboards, Vocals (backing) (2003-present)
 Potowotominimak Vocals (lead) (2003-2004, 2005-present)
 Baffo Vocals (additional), Performer (2005-present)

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総合評価 ★★★★★

素晴らしい。もともとMVは凄いバンドだったがスタジオ盤だとムラがあるというか、ボーカルの弱さとかB級感があって「パロティバンド」感があったのだが、本作はその持ち味、ユーモアを残しつつメタルアルバムとして良質な作品。最初どうなるかと思ったが期待値を上回る出来。欧州伝統音楽とメタルが融合したフォークメタルが好きなら聴くべし。単純にフォークメタルとしてもレベルが高い。イタリアンフォークメタルに偽りなし。

先行MVの「Formia」「Biancodolce」がメタル色皆無、パロディ色も薄くイタリアンポップスみたいな出来で「どうしちゃったの?」となり、ニューアルバムが「イタリアンフォークメタル」で、「ああ、メタルなのね」となり、しかしその後の曲が全部イタリア語で「何言ってるか分からなくね?」となり、いろいろと期待を裏切り続けた結果まさかの金星。いやあ、勝負作だし、音楽のクオリティ的には勝負に勝ちましたね。マーケットがどう評価するかは分からないけれど(かなり攻めてる)。でももっと多くの人に聴いてほしいなぁ。音楽的にもこれぞパーティー音楽。

後、歌詞もいい。なんというか「どうでもいいこと」を歌っていることが多いんだけど、どうでもいいことってその中に深いメッセージが読み取れたりするじゃないですか。少なくともどの曲の歌詞も「何を歌っているんだろう」という興味が沸くバンドは希少。おススメ。全曲の歌詞はここで見れます(イタリア語、ドイツ語、スペイン語ですが)。

1.Requiem per Gigi Sabani in Re minore 02:19 ★★★☆

チープ感あるオペラ、ソープオペラ的なスタート。クラシカルで荘厳な雰囲気だが、パワーメタル系のがっつりした大仰なイントロに比べるとどこか音が軽め。シンセ感がある。ただ、イタリアのバンドらしくメロディや曲構成はさすがの出来。タイトルは「ジジ・サバニのレクイエム:二短調」。

2.L'Assedio di Porto Cervo 04:14 ★★★★☆

 オーケストレーションからの疾走曲というお約束。けっこうアグレッションが強い。グロウルまで使っている。これはゲストボーカルだな。歌詞はAppleMusicで表示されるがイタリア語なので不明。タイトルは「ポルトで包囲」という意味。バイオリンの響きが入ってきてフォークメタル的な響き。中世の船同士の大砲のようなドラム音。これは普通にカッコいいな。ざっくりgoogle先生に翻訳してもらったら征服、戦闘の歌のよう。たぶん固有名詞とかはネタ満載な感じ。

3.La Maledizione di Capitan Findus 04:15 ★★★★☆

リードトラックとして先行公開されていた曲。MVだと何を食べるかでメンバー同士が戦争する、という内容だったが。サーモン缶かパスタか、みたいな。タイトルは「キャプテンフィンダスの呪い」。キャプテンフィンダスというのはバーズアイ冷凍食品の広告マスコット。音だけ聴くと普通にカッコいいな。リズム隊がイキイキしている。ツーバス連打でマンネリズムな感じなのだが、なんだか音が生々しくて勢いがある。歌詞は完全に冷凍食品について。

4.La Marcia su Piazza Grande 02:24 ★★★★

マーチングのような歌。古いラジオから流れてくるような。タイトルは「グランデ広場の行進」。まさに行進曲。途中からツーバスが入ってきて勇壮に突進する。分厚いコーラスながらどこかすっとぼけている。歌詞は訳したけれど隠喩とか比喩が多くてきちんと単語の意味を調べないと分からない。

5.La Mazurka del Vecchio che Guarda i Cantieri 04:44 ★★★★

ワルツ、勢いが良い。どの曲もかっこいいな! 作編曲能力がかなり上がっている。ネタだけに頼らなくても音だけで楽しめる。タイトルは「庭を見ているラ・マズルカ・デル・ヴェッキオ」。建設現場を見る老人? 現場監督と老人の大工の話、のよう。「動脈硬化症は彼に第六感を与える」とかそんな歌詞。本当にイタリアンフォークメタルの看板に偽りなし。イタリアの伝統音楽、フォークミュージックをしっかり取り入れたメタル。この音楽性をやるためにはイタリア語でなければできないよね。

6.La Polenta Taragnarock 04:44 ★★★★★

演劇調の老人の語りからスタート。勇壮なフォークメタル。タイトルはイタリア語ではない様子。ラグナロック? 北欧神話だろうか。なんだか食べ物と料理の歌、あるいは生化学反応の歌。「ヴァルキリー巨人抗酸化料理で低透過の膜を作ることでエイズや妊娠から保護」とか歌っている。これは名曲だな。無駄にカッコいい。ヴァルハレルヤ的なアンセム。

7.Scugnizzi of the Land of Fires 03:56 ★★★☆

こんどはメロハー的な曲。キーボードのフレーズがまろやか。歌メロが陶酔していてややキモい。タイトルは「火の国のスクニッツィ」。イタリアンポップス、ややジプシー、フラメンコ的でもある。それをメタルの音像に乗せて歌う。なんだか破天荒な修道女といろいろする歌?っぽい。イタリア語だけでなく他の言葉も混じっているのだろうか。とにかく翻訳が断片的。

8.Rosario 05:36 ★★★★

ピアノとボーカルメインのバラード、愛の歌、かと思ったらどうも売春婦の歌っぽい? 「今日は私が彼女を征服したが明日には別の分隊が到着します」とか言っている。詩的な表現だが、なんだかろくでもないことを言っている雰囲気が強い。こういう感動的っぽいメロディを歌うときはたいていろくでもないことを歌っている。それがNoSだ。ゲストボーカルで女性ボーカルが入っている。ロザリオとは十字架だろうか、女性の名前だろうか、ダブルミーニングだろうか。ギャグって高度なコンテキストだからいろいろな背景知識がないと分からないんだよね。

9.Il Signore degli Anelli dello Stadio 03:10 ★★★★☆

アカペラのハーモニーからスタート、タイトルは「ロードオブザリングオブスタジアム」という意味。そこからアコーディオンの早弾き。おお、いかにもフォークメタルな音像。コルピクラーニとか。指輪物語がモチーフの歌詞のようだ。モルドールとかフロドとか固有名詞が出てくる。途中「オレオレ」の合唱。サッカー応援歌か。いやぁ、このアルバムは全体的にありそうでなかったイタリアンフォークメタルだわ。すごい。ここまでハイテンションなのはなかなかない。マジで応援歌のようなフレーズ。こっちもテンションが上がってきて文体もおかしくなってきたぞ。

10.Gabonzo Robot 04:20 ★★★★☆

これもリードトラックとして先行公開。ガボンゾというロボットをテーマにした主題歌、という設定らしい。本当にそういうアニメがあるのか、何かのパロディなのか。ちなみにMVだと「ガポヌゾ」とカタカナで書いてある。日本のロボットアニメ全般のパロディかな。正義の味方として街を壊し人々を殺害し宇宙を破壊するというテーマ。深いんだか浅いんだか。巨大ヒーローものはたいてい街を破壊するからなぁ。MVで見たときはふーんという感じだったが、アルバムの流れで聴くとなんだか妙に胸に刺さるメロディ。昔、ゴジラの孤独を描いた「ゴスラモジラ」という曲を書いたことがある。「怪獣の孤独」みたいなテーマいいよね。

11.Sulle Aliquote Della Libertà 03:29 ★★★★

高速のイタリアンフォークメロディ。勢いがいい。タイトルは「自由の割合について」。「売上請求書、控除可能性、管理と決済、分割払い、社会保障期間」などの単語が続いている。税制についての歌か。自由の割合で課税額が変わりますとかなんとか。自由というのは無料という意味かな。オフショアで租税回避、とかそんなことも歌っている。いやぁ、曲だけ聞いたらこういう歌詞だとは思わないだろうな。

12.Der Fluch des Kapt’n Iglo 04:16 ★★★★☆

あれ、これは3曲目のドイツ語バージョンかな。同じ曲だ。ただ、言葉の響きが違うと違って聞こえるな。かっちりして聞こえる。「あなたは槍でタラを焼きます、キャプテンイグロ、カリカリのパン粉と階級闘争だ!」。おお、ドイツ語の方が翻訳の精度が高い。しかし違う言語で同じ曲を入れるとは。語呂のタイミングが変わるからか意外と違うアレンジに聞こえる。

13.El Baile del Viejo que Mira las obras 04:42

ワルツ、タイトルは「作品を見つめる老人の踊り」。ボーカルは合唱。今回は分厚いコーラスが多いのもいいね。このバンド、ボーカルがシアトリカルで表情豊かなのだけれど、単一でシリアスに歌うとそこまで歌がうまくはない。ただ、本作はイタリア語だし、全体的にすごく演劇的というか、キャラクターが立っているのでボーカルにぴったりハマっている。あれ、これも5曲目と同じだな、5曲のスペイン語バージョン。わお、グローバル(全部ご近所の国だけど)。これ、スペイン語の方がしっかり翻訳されるな。どうも定年退職後に一日中建設現場を見ている老人の歌のようだ。建物ができていくのをじっと見つめる。

14.Formia 02:34 ★★★

こちらも先行トラック。「新曲だ!」といってティザーまで出しておいてこの曲をリリースする、という。メタル色皆無で「おいおい、どうしたNoS!?」と人々を混乱させた一曲。日本で言えばマキシマムザホルモンの「小さな君の手」と同じネタと言えば通じますかね。ただ、かっちり1曲創り上げてしまうのが面白い。しかもアルバムにまで入ってるし。

15.Biancodolce 03:41 ★★★☆

これもFormiaに続いてリリースされた曲。この2曲で「おいおい、NoSどうなった!?」という思いが膨れ上がった曲。もしかしてこれはこれでウケたらこっちの路線でやろうと思っていたのかな。ギャグだかマジだか分からなくなるレベルなのでレベルが高い。なんだかよくわからない曲、というか、いかにもイタリアンロックのバラード的な。悪い曲ではないんですよ。NoSに期待される音像とあまりに違うだけで。最後2曲これで終わるとは。今思えば”してやられた”。偽物のドキュメンタリーのエンディングのよう。なんか変な作り(無駄にリフレインするし、フェードアウトが手抜き感があるし)。

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