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Beast In Black / Dark Connection

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Beast In Black(BIB)はフィンランドで2015年に元バトルビースト(Battle Beast)のメインコンポーザー/ギタリストであったアントン・カバネンを中心に結成されたパワーメタルバンドです。北欧メタルの超新星、フィンランドメタル界の期待の星であり、前作「From Hell With Love」は2019年ベストアルバムの1位に選びました。大サビが終わったと思ったらさらにメロディが上昇するような、これでもかというほどに盛り上げる曲構成。それを歌いこなす超絶ボーカル。ある程度パターン化してきたメロディックパワーメタルの標準を軽々と書き換えた衝撃の名盤。1stは攻撃性が強く、2nd(前作)は適度にポップな要素(ディスコとか、エレクトリック要素、シンセフレーズの導入)が入り、バランスがとても良い作品でした。本作は、事前にリリースされたトラックを聴く限りだとよりポップに寄った印象。アグレッションとポップさのバランスが絶妙なのがこのバンドの特徴だったのですが、アルバム全体ではどのようなバランスになっているでしょうか。2年ぶり、3作目となる期待の新譜、聞いてみましょう。

活動国:フィンランド
ジャンル:パワーメタル
活動年:2015-
リリース:2021年10月29日
メンバー:
 Máté Molnár Bass (2015-present)
 Kasperi Heikkinen Guitars (2015-present)
 Anton Kabanen Guitars, Vocals (backing) (2015-present)
 Yannis Papadopoulos Vocals (lead) (2015-present)
 Atte Palokangas Drums (2018-present)

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総合評価 ★★★★☆

うーん、先行公開された2曲から「ポップ路線に行くのかなぁ」と思ったけれど、その通りの出来。全体として加速感が抑えられ、やけくそな盛り上がりより整理された音像になっている。前のアルバムでは味付けだったディスコやユーロビートといったサウンドが取り入れられ、より前面に出ている。それ自体はこのバンドの魅力であり特徴なのだけれど、攻撃性への振れ幅、疾走感とか爽快さ、「さらに盛り上がるの!?」みたいな驚きが薄れてしまったのは惜しい。前作で思ったほどセールスが上がらなかったのかなぁ。名盤だったのに。なんだかバトルビーストに近くなってしまった。サウンドはそれなりに重みがあるし、ハードロックよりはきちんとメタルと呼べるギターサウンドなのだけれど、ドラムとシンセはダンスに寄っているし、ポップな曲構造になってしまっている。そういう曲が合間合間にあるのは良いけれど、アルバム全体がそれで統一されているのはパワーメタルの新星としての期待値からは外れてしまった。2ndは名盤と呼べる出来だったからそれを越えられるかと思ったけれど比べてしまうと失速感があるなぁ。とはいえ、このアルバムでまずはフィンランドのチャート、欧州のチャートで上がってほしい。分解せずバンドが続いてほしい。メロディセンスは相変わらず良いので、また逆の振り幅も出てくるはず。個人的にキラーチューンがなかっただけで、BIBの全カタログ(アルバム3枚)に混ぜればバラエティが広がる良い出来だと思う。し、何気にJudas Priestの「Turbo」とか、今聞くと好きなんだよね。メイデンの「Somewhere In Time」も。あとからそうして振り返れるように、バンドが続いてほしい。

1.Blade Runner 04:07 ★★★★

SF的な効果音からシンセフレーズ、そこに音圧強めのリフが入ってくる。ポップさ、シンセがより前面に出ているがギターのザクザク感も保たれている。ハイトーンボーカルが響く。硬派な、Judas Priest的なスクリーム。ただ、そこに北欧的、ABBA的でもあるディスコ的なサウンドが乗る。おお、ボーカルパフォーマンスがやはり激烈。ブリッジがけっこうテンションをかけるパワーメタル的なメロディ。コーラスに入るとアントン節とも呼べる独特のメロディに。お、間奏部でリフが出てきた。やはりBIBにはギターリフが欲しいんですよ。シンセもいいけれど、ギターリフはしっかりあってほしい。そういえばこの曲のタイトルは「ブレイドランナー」か。MVからしてSF色が強かったが、今回はSFがテーマ、メイデンで言えば「サムホエアインタイム」的なアルバムなんだろうか。アップテンポではあるが、オープニングにしてはやや大人しめ、疾走感低めでディスコ的な、一定のビートがある曲。

2.Bella Donna 03:52 ★★★★☆

ミドルテンポでギターリフからスタート。そこにシンセ音が絡んでくる。おお、今回はこういうディスコ的なリズムでさらに行くのか。まぁ、このサウンドが特徴だからな。きらびやかなメロディ。メロディアスなコーラス。いいねぇ。Lordiにも通じる。けっこう今回、頭2曲はポップな感触が強まっているな。アントンの古巣のバトルビーストに近づいたというか、1st「バーサーカー」に比べるとかなりポップ、前作からさらにポップになった。ギターのザクザク感はあるものの曲構成そのものやテンポ、雰囲気から攻撃性よりはよりモダンな、都市的なポップスを感じる。音だけだとSF感はそこまでないが、どこか80年代的な雰囲気、メタルの商業的黄金期の感じがある。お、間奏ではシティポップ的な感じ、日本のアニソン(フェンスオブディフェンスとか)の感じもあるな。アニソンには一定数ハードロックサウンドが入っているからね。

3.Highway To Mars 05:13 ★★★★☆

機内アナウンスから、ギターがなだれ込んでくる、おお、刻みが増した。ただ、そこにシンセが入ってきてまたディスコ的なミドルテンポのビートへ。「踊れるメタル」感がさらに増している。なるほど、前作の手ごたえからこちらに舵を切ったのか。まぁ、同じようなアルバムを続けて作っても仕方ないしな。ゴージャスなコーラス。おお、コーラスの後、リフに戻る感じは転調感というか、そこにシンセが絡んでくるのは気持ち良い。ボーカルのテンションが高い。前作もすさまじかったが、今作もイキイキしているな。よりボーカルパートはボーカルに焦点が当たる。ギターソロ。前作との違いはかなりシンセが前面に出ている。Judas Priestで言えばTurboみたいな。しかし、リズムパターンがやや単調というか、本当にダンスビート的なのがちょっと物足りなくはあるな。メロディの煽情力、ギターとの絡み合いは良いのだけれど、ビートがクールすぎる。

4.Hardcore 03:34 ★★★★☆

お、ブギ的なリズム。そこにギターリフが入ってくる。ポップなスタート。歌謡曲的な部分もある、ポップな曲。なんとなく懐かしさもある。しかしこのアルバム、ちょっと音の分離が悪いな。音量を上げないと迫力がないが、音量を上げると耳が痛くなる。単体で聞く分にはいいのだけれど、ややミックスが籠り気味かもしれない。「ハードコア!」の掛け声と絡み合うボーカルメロディ。テンポのバリエーションが出てきた。

5.One Night In Tokyo 03:07 ★★★★☆

これはリードトラックにもなっていた曲だな。ゲームサウンド的な、タイトルも「Tokyo」だし、日本のビデオゲーム的な世界観を持っている。こうしてアルバムの中で聴くと祝祭感があって盛り上がる曲ではある。そういえばドラゴンフォースも最新作ではゲームっぽい感じを出していたよな。もともとアントンカバネンは日本の漫画好きだが、ゲームや漫画などが好きなのだろう。ああ、これ何かと思ったらユーロビートだ。Avexというかジュリアナというか。パラパラとかジュリアナとか、ユーロビート感がある。まさに「ユーロ」のビートだしね。こういうサウンドはドイツとかフランスだったのかなぁ。当時のユーロビートのアーティストって意外と北欧にもいたのだろうか。ユーロビートメタル。

6.Moonlight Rendezvous 05:38 ★★★★☆

本当にアニソン的なイントロ。ZZガンダムの主題歌だったかな、「サイレントヴォイス」とか、あのあたりを思い出すイントロ。かなり凝った芝居があるMV付き。SF的だなぁ。従来のBIBのミドルテンポ、より、さらにビートを意図的に落とした感じ。スロウなビート。Frozenもこれぐらいだったかな。スリリングさ、緊張感を抑えめにして、じっくりしたテンポにすることでドラマティックさが増している。バトルビーストのハリウッドだっけ、ノーモアハリウッドエンディングス、か、ああいうややゆったりしたテンポでドラマティックに盛り上がっていく曲。メロディは良い。ギターソロもドラマティック。一撃で効く即効性は減ったが、何度も聞いていると沁みてくる曲だろうな、メロディがいいから。

7.Revengeance Machine 04:09 ★★★★☆

デジタルビートから。アナウンスが入ってくる。人間音声と機械(合成音声)の会話、みたいな。このペースで行くのかな。…と思っていたら疾走、というか、ツーバスの連打に。テンポそのものはアップテンポではあるが激走まではいかない。駆け足、ぐらい。重厚感、機械感がある。音圧は高いがシンセの音が強く入ってくるので透明感がある。曲そのものはけっこう王道パワーメタルというかアグレッション強め。それこそRiotのThundersteelをちょっと遅くしたような、王道パワーメタル曲。うーん、ただ、ちょっとビートが弱い気もするなぁ。決して悪くない、歌メロの力とボーカルのパフォーマンス、そしてギターフレーズのセンスは最高なのだけれど、ドラムがやや一本調子、シンセも一本調子に感じる。ドラムは生々しさより正確さを追求している感じ、ダンスビート的なんだよな。別に下手ではないのだけれど。最後のタム回しとか迫力があるし。

8.Dark New World 03:57 ★★★★☆

ザクザク切り込んでくるギターリフ、ジャーマンパワーメタル的な横ノリのリフ。ちょっと雰囲気が変わったか。緊迫感が増してきた。ポップなA面、シリアスなB面、みたいな構成になっていると嬉しいのだが。メロディアスなコーラスへ、そしてザクザクしたギターリフが戻ってくる。前作のキラーチューンのインパクトよりやや弱いが、いい曲。

9.To The Last Drop Of Blood 03:55 ★★★★☆

メロディアスなギターフレーズからスタート、とはいえすぐに刻みリフとシンセになってしまう。もう少しギターでリフを組み立てる曲も欲しいな。ヴァースではメロディアスなボーカルへ。オケヒット的な音、勇壮なコーラス。これはファンタジック、ヒロイックな感じ、編曲的にはアニソン的な雰囲気や盛り上がり方をするけれど曲構造は欧州メタルの伝統に沿っている。この曲、メロディはいいのになぁ。ギターもいい。一定のドラムとシンセ、ダンサブルな感じがちょっとどうなんだろう、熱量を控えめにしているというか。ちょっと醒める感じがある。意図的にそれを出しているのだろう。熱狂より心地よさの方を優先した、というか。テンションはしっかり上がっていくが、どこかクールな感じが残っている。きちんと整理整頓されている、ともいえる。

10.Broken Survivors 04:25 ★★★★☆

大仰な感じが増してきた。イントロから壮大なメロディ。独特の泣きメロ。おお、クールさをかなぐり捨ててくるか。もうちょっと熱狂させてほしい。ブリッジまで盛り上がる。うーん、惜しむらくはコーラスがやや弱い。ただ、編曲でこの後どこまで盛り上がるか。いったん1番が終わって息抜きが入る。2回目のコーラスはメロディがなじんでくる。ソロへ。ドラマティックな間奏、から音が引いてボーカルにスポットが当たる。さらに転調、この曲はこれでもかと盛り上げる、BIBの持ち味である過剰な感じがある。

11.My Dystopia 05:51 ★★★★☆

ピアノの響き、シンセのアルぺジエイターのリズム、しばらく静謐なパートが続いた後、音の壁のようにギターリフが入ってくる。刻みリフの上にシンセのメロディが乗る。シンセのメロディが比較的シンプルというか雰囲気重視的なんだよなぁ。ボーカルが入ってくる。ボーカルはやはり説得力がある。おお、ドラマティックなサビ。盛り上がった、と思ったところからさらに熱量が上がる。ボーカルの力量を堪能できるパワーバラード。今回はミドルテンポ、スローなテンポでのドラマ構成、というところがテーマだったのだろうか。

12.Battle Hymn 06:54 ★★★★☆

メロディアスなキーボードフレーズから、ヘヴィなギターサウンドが下りてきて、メロディを奏でて絡み合う。かなりスロウなドラム、、、から、少しテンポを上げて、ミドルテンポで勇壮に曲がスタートする。後期Manowar的な、焦らせるような大仰さ。そういえば「Kill Kill」とか言っている、、、というか、これManowarのカバーか? 歌い方がエリックアダムスに寄せている感があるんだよな。ああ、やはりカバーか。Manowarっぽいと思った。Into The Glory Rideからの曲だっけ、1stかな。1stのタイトルトラックか。最初から特徴的なサウンドだったんだなぁ。けっこう声質が似ているのかも。サマになっていてカッコいいが、こういうタイプのオリジナルも入れてほしかったなぁ。しかし「Kill」という歌詞がシグニチャーサウンドのバンドといのも考えてみたらすごいな。

13.They Don't Care About Us 04:32 ★★★★

こちらはマイケルジャクソンのカバーらしい。HIStoryに入っていた曲だったかな。緊迫感がある曲なんだよね。おお、声を似せようとしているのが微笑ましい。もともとスリリングな曲だからゴリゴリにしても合うだろう、と思うが、最初の方はビートとシンセと声のみ、メタリック感は薄目で進んでいく。けっこうボーカルの再現度が高い。一部ピロピロした速弾きが入るが、ミドルテンポの落ち着いたビートで、基本的にシンセサウンド主体で進む。お、後半になってギターが入ってきた。それなりにサマになっている。そういえばメタルバンドがポップスの曲をカバーしてYouTubeにアップするムーブメントというか、そういうのがあるよね。メタルバージョンカバー、みたいな。そういう流れでやってみた曲なのだろうか。かなり原曲の雰囲気を残しつつ、ギターやボーカルスタイルで少しメタル風の味付けをしている。とはいえ、基本的にはシンセ主体のサウンド。面白いけれど完全にボーナストラックという感じ。

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