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70代ロックの凄さ

ローリングストーンズの18年ぶりのスタジオオリジナルアルバム、「ハックリー・ダイアモンド」がリリースされました。まさか新譜が出るとは! チャーリー・ワッツも去り、残ったメンバーは3名になってしまいましたが、まだ転がり続けています。

そして3人が残った…ジェネシスか!

アルバム全体の印象としては全活動の総括というより、「ストーンズのニューアルバム」という印象。それなりにモダンな音作りを取り入れたり、楽曲もきちんとフックがあります。さらに、「ストーンズ」という枠を外しても「2023年のバージョンのUKロック」としてしっかり成り立っている。これ、最初の3曲こそプロデューサーのアンドリュー・ワット(最近のオジーオズボーンとも仕事をしている若手プロデューサー)が作曲に参加しているものの、それ以外の曲はジャガー/リチャーズで作っているんですよね。それが凄い。演奏や声にはキャリアを感じさせる落ち着きがあるものの、曲そのものはポップでキャッチーなんですよ。今までストーンズがやっていないようなコード展開もあったりして、きちんと歌モノとして、リアルタイムなポピュラー音楽(ポップス)として成り立っている。凄いセンスだなぁと思います。同世代で第一線を走り続けるポール・マッカートニーはどんどん曲は出しているものの「ポールならではの作家性」に走っていて、あまり同時代性は感じなくなってきました(最新作の「McCartney III」が宅禄パーソナルな作品だから余計に感じるのかもしれませんが)。やはり「バンドであること」というのはいろんな意見、視点が入りますから、その分同時代との同調力は強いのかもしれない。

冒頭を飾るのは先行シングルとしてリリースされていたAngry。

MVはいい出来ですが、音だけで聴くとやや整理されすぎというか、ストーンズらしいルーズさはなくコーラスのハーモニーもかっちりしている。やや大人しめな印象。この「整理されている」音作りなのはあまりアルバム全編を通して実は変わらないのですが、だんだんと聞いているうちにストーンズらしい隙間を感じられる、緩急があり熱量が高まっていく、音世界が広がっていきます。管楽器(サックスかな)が入ってきて都会的な雰囲気を醸し出し、アップテンポの曲があったり、バラードがあったり。後半になるといかにもUKロックのバラードと言える「Sweet Sound Of Heaven」が出てくる。

そして最後はそれまで音像が変わり、急に生々しいエレキブルース弾き語りのような「Rolling Stone Blues」で締めます。現役感がある素晴らしいアルバム。

6曲目に「Dreamy Skies」というストーンズ流バラードがあるのですが、この曲を聞いたときにふとミシェルポルナレフを思い出したんですね。この曲のミックジャガーの歌い方の力の抜け方が最近のミシェルポルナレフを連想したんですよ。ミックジャガー80歳(キースリチャーズは79歳)、ミシェルポルナレフは79歳。ほぼ同年代です。この二人ともめちゃくちゃ声が若いというか、人間って凄いなと思います。

そこで今日のタイトル、70代ロックを掘り下げてみようと思います。70年代ロックではなく、70代ロック。ミックジャガーだけ80歳ですがさすがに80代はほとんどいない(バリバリなのはポールとミックぐらい)。ので、「70歳以上」のロックアーティストたちを見ていきましょう。

まずはミシェルポルナレフ。フランスの生んだ英雄。セルジュ・ゲンズブールと並んでフレンチポップス、ロック界のゴッドファーザーとも言えるアーティストです。

昨年リリースした「過去の名曲をピアノ弾き語りで歌う」企画アルバムからの曲。録音時78歳だと思います。ほとんどミックジャガーと同い年。声だけ聴いているとそんな年齢の人とは思えません。やはり声帯って衰えますからね。ただ、実は筋肉って年齢がいくつになっても同じようにつくらしい。80歳からでも筋トレすればムキムキになることは理論上可能だそうです。体力とか関節とかの方がボトルネックらしい。ずっと鍛えていれば声帯(筋肉)って保たれるんですね。

次はバリバリなJudas Priestのロブ・ハルフォード。今年72歳!

ロブも一時期声が出なくなっていたというか、「高音が細くなったなぁ」と感じていたのですが最近は声の出し方を変えたのか、音だけ聞くとかなりパワフルなんですよね。USでも再評価が続いていてモチベーションが高いのかもしれない。一時期は引退ツアーを考えるくらいでしたからね。やる気が大事なんだなぁと。ステージアクションはさすがに動か(け)なくなりましたが、声だけ聴くと十二分にパワフル。むしろ驚異。

最近のロブ、なんだかノストラダムスみたいなルックスに
本人のインスタグラムは茶目っ気が多い

メタル系をもう一発。「70過ぎても金切声」ということでU.D.O.のウドダークシュナイダー。何気にもう71歳です。

今年来日したので渋谷で観ましたがこのままの声でした。派手ではないもののずっと動き続けているし、めちゃくちゃ重そうなステージ衣装をしっかり着込んでいるし、年齢を考えるとすごいなと。むしろ観客の方がスタンディングライブで疲労気味というか。アーティストパワーすげぇ。ジャーマンメタル界ではさらに先輩のスコーピオンズ(クラウス・マイネは75歳!)も活発に活動中。クラウスマイネも透き通った声を維持しています。

最近は体調を崩してしまいライブはできていないものの、スタジオアルバムでは活発なオジーオズボーンも74歳。この人、声はあまり老けないですね。パーキンソン病で闘病生活中なのに。声帯どうなっているんだろう。

でもこの曲でキレキレのギターを聞かせていたジェフベックは2023年1月に急逝。この世代のアーティストの中ではかなりエネルギッシュで若さを保っていた人だったので驚きました。

メタル系が続いたので非メタル系を。まずはローリングストーンズからの流れでジェスロタル。最近ジェスロタル名義で復活(しばらくイアンアンダーソン名義の活動が主だった)し、UKチャートにアルバムを送り込んで元気です。ボーカルスタイルは年相応に落ち着いていますが、いまだに片足でフルートを弾いています。ハードロックの前の世代、60年代から活動しているので74歳。

2023年のイアンアンダーソン

プログレの人たちは元気ですね。ロジャーウォーターズ(80歳!)も新譜を出したし(なんだか冗談のようなDark Side Of The Moonのセルフカバー)、イエスも活動中(ただボーカルは変わってしまった)。ピーターガブリエル(73歳)も新曲をリリース中です。「納得できるまで曲を毎月リリースして、しかるべき時にアルバムをリリースする」と言っていましたがついにリリースする様子。

ピーガブの場合、90年代後半から沈黙を続け、2002年の「UP」でカムバックしたときにスキンヘッド+ひげになるという衝撃なイメージチェンジ(90年代まではビジュアル系的な優男風だった、変な格好はしていたけれど)をした後は比較的同じルックスです。この人も声があまり老けない。新譜が楽しみです。…というか気が付くとすでに2023年に合計10曲リリースしているので新譜といってもこれらを1枚にまとめるだけなのかも。あとはイタリアのPFMやBancoもこの年代のアーティストですね。活発に活動中。ただ、プログレのアーティストはけっこうメンバーチェンジも多く、若いボーカルが入っているバンドも多いです。

…ここまで書いてきて気が付きましたが女性がいませんね。あまりロック・フィールドで70代の女性アーティストが思い浮かびません。パティスミスが76歳ですが、最後のアルバムが2012年だし。うーん、あ、カントリー畑の人ですがドリー・パートン(77歳)がニューアルバムを出しましたね。これ、けっこうロック系のアーティストがゲスト参加していてロブハルフォード(とベースでニッキーシックス)が1曲参加。

あ、あとアン・ウィルソン(73歳)がいた! ハートとして姉妹で80年代を席捲。今でも活発に活動中です。2022年には世界最大規模のメタルフェス、ドイツの「Wacken Open Air」にも出演。

欧州メタル界の女帝的な立ち位置だとDoroことドロ・ペッシュ(59歳)が浮かびますがAnn Wilsonは年季が違いますね。というかDoroってリタフォード(65歳)やジョーンジェット(65歳)より年下なのか。ちなみにマドンナも65歳。70代ロックではないので今回は割愛。70代だとシンディローパーが今年70歳です。

男性に戻るとブルーススプリングスティーンが74歳。この人は年の割にいつまでもパワフルな印象がありますが、こうしてこの並びの中に入れてみると他にも元気な人がたくさんいますね。

全体的な印象ですが、UK(ひいては欧州)の方がUSより70代が元気な気がします。USの方は年相応に変化していくというか。ジョンボンジョビとかジョンメレンキャンプとかめちゃくちゃ曲調が落ち着いてますからね。UKの人の方が年をとっても元気。あまり年齢のイメージに囚われないのかもしれません。「エリザベス女王に比べたら若い」とか思っていたのかも。

老人力というか、こうした70代ロックを聞くと元気が出ます。年相応のやり方でロックし続けることはできる。何かを失うことは何かを得ることでもある。見習って70代まで元気にロックし続けたいものです。最後はUKのヴァンモリソン(78歳)の新曲をどうぞ。

それでは良いミュージックライフを。

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