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‎Die Apokalyptischen Reiter / The Divine Horsemen

DIE APOKALYPTISCHEN REITER(ディー・アポカリプティシェン・ライター)、直訳すると「黙示録の騎士たち」。ドイツのメタルバンドで、1995年結成で活動期間25年以上に及ぶベテランです。本作は25周年記念のアルバム。かなり実験性が高い雑食性を持っており、本作は2日間ぶっつづけ、約500時間に及ぶジャムセッション素材の中からまとめあげた80分。即興的な作品です。ジャムセッションから編集によって音源を作り上げる手法は60~70年代のクラウトロックバンド、Amon Düül(iiになる前)やCANなども思い浮かべますが、どんな音像になっているでしょうか。基本的にはかっちりしたメタルバンドなので、どこまで実験精神があるか。メーカーのリリース文を記載しておきます。

この度リリースされる『ザ・ディヴァイン・ホースメン』も、非常に興味深い作品だ。CD2枚組、80分に及ぶ本作は、500分に及ぶインプロビゼーション・セッションを凝縮したもの。と言っても、身構える必要はまったく無い。インプロを元にしているとは言え、最終的にはきちんとした楽曲へと仕上げられているからだ。それにしても、その射程の広さには舌を巻くばかり。グラインドコアからセパルトゥラを思わせるトライバル・メタル、サイケデリックな要素から果てはブラック・メタル風味までと、「何でもアリ」という表現がこれほどピッタリな作品も珍しい。ディジリドゥー、ジャンベ、ドゥンベック、ゴング、フレームドラム、口琴と民族楽器がこれでもかと登場してくる。 プロデューサーは、ヘヴン・シャル・バーンのギタリスト、アレクサンダー・ディーツ。インプロビゼーションをアルバムに仕上げるという難しい仕事を見事にこなしてみせた彼の手腕には脱帽。デス・メタルやブラック・メタルのファンはもちろん、ニュー・メタル・ファンにもアピールすること間違いなしの意欲作だ。出典

出身国:ドイツ
ジャンル:ハードコア、クラウトロック
リリース日:2021/7/2
活動年:1995-現在
メンバー:
 Volk-Man Bass (1995-present)
 Dr. Pest Keyboards (1995-present)
 Fuchs Vocals, Guitars (1995-present)
 Sir G. Drums (2000-present)
 Ady Guitars (2009-present)

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総合評価 ★★★☆

良くも悪くもジャムセッションで作った、という言葉通りのアルバム。実際にジャムセッションしたことがあるプレイヤーなら「すげぇな」と思う部分もあるが、全体としては80分は冗長。Disc1の4や7は長いだけな気がする。ただ、Disc2に入ると音像の焦点が合ってくる。ジャムセッションの中から曲が生まれてくる高揚感、興奮といったものをパッケージングしたかったのだとしたら、むしろ前半の冗長さ、なかなかかみ合わない感じも必要だったのかもしれない。ただ、かなり人を選ぶ。そういう「ジャムセッションから曲が生まれる瞬間」とかに興味がある方向け。★4つ以上の曲だけ抜き出して聞けば普通のアルバム。

最初(Disc1)はハードコア要素、激烈音楽要素とアンビエントやフリージャズの要素が乖離している感じを受けるが、後半(Disc2)になって噛み合っていく。全体としてみると本当にCANとかAmon Düülに近い、実験的なクラウトロック。じゃあ実験でどこにたどり着いたのか、というとDisc2の1や5あたりは独自の音像と言えるかも。正統派メタルやジャーマンメタル好きにはほとんどアピールしないであろう作品。むしろプログレやストーナー、ポストハードコアやエクスペリメンタルロックのファン向け。

Disc 1
1. Tiki 02:32 ★★★★☆

ニューメタル的なリフからトライバルなビート、呪術的なフレーズ。何語か分からないがTikiとあるから南国のイメージだろうか。音は荒々しさ、ライブ感がある。ややルーズで自由な感じで勢いが良い。途中からブラストに。オールドスクールハードコア的。自由な感じで良い。原始的なリズムと言葉の心地よさというか、ジャムセッションの中から煮詰まっていく、結晶化した瞬間という感じがする。

2. Salus 02:11 ★★★☆

ブラスト、ひたすら疾走している、1曲目に近い感じだがより直情的。音像がオーガニック。先日のYears Of No Lightにも通じる音響。モダンなメタル、ハードコア的な音像。メタルコアのブレイクがあるスタイルではなく、より直情的でオールドスクールなハードコア的。

3. Amma Guru 02:27 ★★★★

引き続きハードコア感が高い曲。激走していく。この曲は緩急があり、コーラスでAmma Guruというフレーズが耳に残る。疾走して終曲。

 4. Inka 09:19 ★★☆

ここで雰囲気が変わる。アンビエント的な音空間がしばらく続く。クラウトロック的、それこそCANのような、不穏なノイズが続く。うーん、しかしこれは冗長。雰囲気はあるが研ぎ澄まされた緊張感のようなものが不足している。後半でアジテーションじみたボーカルが入ってくる。むしろハードコア的な初期衝動の方がサマになっている。

5. Nachtblume 01:33 ★★★☆

激走。ブラックメタル的な音像。ギターかき鳴らしで欧州的な、メロディアスなコード進行。ドイツのバンドなので北欧とは近くもまた違うコード感。短い中でもしっかり展開していく。曲の終わりのフェードアウトがやや唐突。ジャムセッションから抜き出した編集上の都合なのか、意図的なのか

6. Aletheia 04:30 ★★★☆

ディジリドゥの響き(オーストラリアの伝統楽器で長い筒、低音が出る)らしきものからスタート。トライバルなリズム。こういうリズムが意外にサマになる。SepulturaRootsにも近いかもなぁ。ただ、だいぶ時間も経っているので「そういう感じ」はするもののもっと聞きやすさがある。トライバルリズムや民族音楽要素を取り入れたハードコア感。演奏はかっちりしておらず、リフの刻みなどのメタル感はあまりない。呪術的なフレーズの繰り返しが耳に残る。

7. Duir 12:14 ★★★

音を探り合うようなベースとドラム、そしてピアノ。フリージャズのような音像でもある。アンビエントな音世界。ドローンのようなまったりとした、揺蕩うような感覚。途中からビートが立ち上がり、曲らしさが増す。しかし明確な主題があまり感じない、単に長いだけというか、本当にジャムセッションなんだなぁという感じ。伝統楽器が入ってくる。ビリンバウだろうか、南米的な要素が多い。実験をしているのは良く分かるが、実験現場感が強い。ただ、緊張感には欠けるが音として不快ではない。本格的なアンビエントの感覚もロック的な緊張感も欠け半端な感じはするものの、一定のフックと言うか弛緩と緊張の間のクオリティは維持されていて、それがこのバンドの持ち味とも言えるものなのかもしれない。ベテランゆえに大滑りまではしないというか。

8. Children of Mother Night 05:03 ★★★☆

前の曲に雰囲気が近く、アンビエントな雰囲気、ながら、比較的早めにリズムが入ってきてロック的な曲の輪郭ができる。雰囲気のあるバラード。歌が入ってくる。これは歌詞も即興なのだろうか。テーマがVoodooらしいので、もともと書き溜めていたフレーズを引っ張り出してきているのか。

Disc 2
1. Uelewa 09:45 ★★★★☆

Disc2へ、音像が変わるだろうか。よりトライバルな響きに。ジャングルで通信するような呼び声、ざわざわとした楽器群。Disc1は実験音楽ともロックともどっちつかずな中途半端さがある曲が多かったが、Disc2ではもっと極端に振っていくのだろうか。かなりじっくりと音世界を作っていく。ゆっくりとリズムが立ち上がっていく。だんだんと感情が形作られていく。北欧メロデス群というか、Enslavedあたりにも近いものを感じる。これは「長さに意味がある」曲。後半さらに展開していく。これはもともと曲の原型があったのだろうか。だんだんと高まっていく曲。一つのフレーズ(ギターメロディ)を手掛かりに曲が展開していく感じは受ける。練り上げる時間はなかった(二日間のセッション)なので、どんどん付け加えていったのか。

2. Haka 01:59 ★★★☆

短い曲だがトライバル感のあるリズム、ノイジーなギター音。お、ドラムがビートをたたき出した。直情的な曲、ニューメタル、Slipknot的。ひたすら直情的に駆け抜ける。ハードコア要素が強い。きちんと曲としてまとまっている。

3. Simbi Makya 06:59 ★★★☆

実験的、フリージャズ的な音世界、同じ低音が鳴り響き、その上をさまざまなSEが飛び回る。途中からブラックメタル的なギターがかきならされるがテンポは遅めでドラムの手数も少ない。ドゥームと言うべきか。同じリズム、反復するベースリフ、どんよりとした重苦しい世界観、よどむような雰囲気が続き、その上でさまざまな音が流れていく。リズムパターンが途中で変わる。だんだん心地よくなってきたのはこの曲の出来が良いのか、世界観に慣れてきただけなのか。お、オルガンも入ってきた。雰囲気はあるのでサントラのような音楽。インスト。

4. Wa He Gu Ru 03:29 ★★★☆

曲としての輪郭がくっきりしている。オルタナ的なダウナーなギターながらコード進行はフックがある。ボーカルも早めに入る。歌詞は「Wa He Gu Ru」と連呼。奇妙な、ポストハードコア。あ、普通の歌詞もあった。このまま最後までワンフレーズで押し通した方がよかった気がするが。とはいえ、奇妙なキャッチ―さがある。

5. Akhi 05:09 ★★★★

エスニックなギターフレーズ。ゆらめくようなリズム、アラビック、北アフリカ音楽の影響を感じる。チュニジアとか。リズムだけならレゲトンのリズムか。不思議な祝祭感。純粋なグルーヴ。これは新しいかも。オリエンタルメタル的な響きだが、その中ではハードコアというか攻撃性が強く上手くまとまっている。

6. Ymir 05:04 ★★★★

ブラックメタル的、北欧、いやノルウェー的な「邪悪な雰囲気」をまとっている。そこまで激烈なブラストではなくミドルテンポの曲だが、音の空気感、緊張感がしっかりとある。ピアノの音が入ってくる。メロディアスブラックと言える音像(ただし音質は良い)。

7. Eg On Kar 06:18 ★★★★

トライバルなリズム、同じフレーズを連呼するボーカル、こちらもメロディアスなギターフレーズがある。雰囲気は前の曲と続いており、ブラックメタル的な雰囲気がある。音世界が切り替わる。静謐なパートの楽器の構成や間に独特の音像というか、独自性は感じる。荘厳さはあるもののどこか親しみやすさもあるというか、B級感と言うか。



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